時ノ糸~絆~

汐野悠翔

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第一幕 京•帰還編

宴への招待状

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「姫様っ!」


大内裏を出ると、今度は正門である朱雀門の前で、ずっと千紗の戻りを待っていた秋成の声がかかる。


「お帰りなさいませ姫様。あのチビの用事とは、なんだったのですか?」


秋成の問いにもまた、千紗は笑顔で答えた。


「うむ。やはり小次郎の話だったぞ。あやつがな、やっと小次郎に味方してくれると約束してくれたのだ。この国を司る天皇が味方になったのだから、これでもう鬼に金棒。小次郎の疑いは晴れたも同然だ。喜べ秋成」


「喜べ」と語る千紗の笑顔が、何故か秋成には急に大人びて見えた。


「………?」


そんな気がして、不意に千紗がまた自分を置いてどこか遠くへ行ってしまうような、そんな錯覚に襲われる。

ふと、以前にもこんな風に、千紗が急に大人びて見えた事があった事を思い出す。

そう、あれは――
千紗が裳着を決めた時。


――『人は皆、それぞれに背負う物があって、進むべき道がある。目指す物が違うのだから、変化が生じるのは当たり前。どんなに居心地がよくても、変わらずにいる事など……出来るはずもなかったのに。周りが変わろうとして行く中で、いつまでも目を反らし続けているわけには行かないのだと、妾自身も変わらなければ行けないと言う事に……やっと気付いた。いつまでも子供のまま、周りを振り回して、大好きな者達の足手まといになるのは嫌じゃ』


小次郎に追い付きたいと、ずっと逃げてきた事柄と向き合ったあの時と――


「……千紗姫様? 失礼ながら、どこか元気がないように見受けられますが、何かあったのですか?」

「っ!……いや、別に……何もない……」

「本当に?」

「……あぁ」


秋成の問い掛けに、明らかに焦りが見え隠れした。

千紗の反応に、きっと何か隠している事があるのだろう事を秋成は察した。

だが、それ以上は口をつぐんで言葉を交わそうとしない千紗に、この時秋成は、それ以上の詮索を止めた。

自身が下した判断を、この先深くする事になるとも知らずに。


  ◆◆◆


それから更に時は流れ、3月も半ばに入った頃、朱雀帝の元服は無事に執り行われた。

元服により、朱雀帝の髪は結い上げられ、頭にはかんむりを被せられる。

格好が変わったせいか、顔付きまでどこか凛々しくなったようにも感じられる。

無事に元服を迎えたと言う事は、千紗と交わした約束の日も近いと言う事。

朱雀帝の元服の知らせに、いつが来るのか。千紗はソワソワしながらその日を待った。



そして寒かった冬も終わりを告げるかのように、京の町に薄桃色の桜の花が咲き始めた4月の初頭。
ついにがやってくる――


「姫様、久しぶりに、帝から文が届きましたよ」


侍女のキヨから、千紗宛てに届けられた一通の文が手渡された。


「そしてこちらは秋成様に」

「俺に? 何故あいつが俺に文など」


そして文は、何故か秋成の分も用意されていた。

今だかつて朱雀帝から文など貰った事のなかった秋成は、訝しげにそれを受け取った。

だが、浮け取ったものの


「……読めぬ」


今まで字の読み書きなど学ぶ機会のなかった秋成には、手紙の内容を知る術を持たなかった。


「秋成様。失礼ながら、私が読んで差し上げましょうか?」

「……お願いします」


キヨの申し出に、秋成は素直に手紙を渡す。
その素直さにクスクスと笑いを溢しながら、秋成に代わってキヨが手紙を音読した。

文に書かれた内容は、元服を祝う宴を催すので出席して欲しいというものだった。



「…………何故俺まで宴に呼ばれるんだ?」


手紙の内容を知って、秋成の頭には読む前以上の?マークが頭に浮かんでいた。

内裏はおろか、今まで大内裏にすら入る事を許されなかった秋成が、何故宴に招待されるのか?


「俺なんかが宴に参加したら、きっと姫様に恥をかかせる事になる。俺はいつものように大内裏の外で待っております。だから宴には姫様だけで行って来て下さい」


故に、今回も場違いを理由に、朱雀帝の誘いを拒んだ。


「何を言っておる。折角の誘いなのだから、お主も共に来い、秋成」

「しかし姫様、宴と言う事は貴族が沢山集まる場所でしょう。そんな場に俺みたいな人間を共に連れていたら、とんだ笑い者になるのでは」


身分を気にしてなかなか首を縦に振らない秋成に、千紗は共に来るようにと熱心に誘った。


「そんな事はない。お主は招待されたのだから遠慮などする事はない。もしお主一人で不安なのなら、キヨとヒナ、二人も共に連れ行けば良い」

「えぇ?! わ、私達も? そ、そんな帝の祝いの席に、秋成様のように招待もされていない私達までもが参加して良いのでしょうか?」

「よい。チビ助が言っておるのだ。此度の宴は身分を問わない。誰でも参加して良いのだと」


何としても秋成を宴に連れて行きたがる千紗に、秋成もついには、宴に参加する事を渋々承諾した。

何故千紗は、これ程まで秋成を連れて行きたいのか。
それは朱雀帝からの文に、必ず連れて来ることと、指示が出されていたからだ。

朱雀帝の千紗宛の文には、千紗を宴への誘う内容の他に、あともう二つの事柄が書かれていた。

1つは、宴には必ず秋成を共に連れて来る事。
そしてもう1つは、宴にて千紗と朱雀帝の結婚を大々的に発表すると言う事。

朱雀帝の文に、がついに来たのだと千紗は覚悟を決めた。
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