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第一幕 京•帰還編
ささやかな願い
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所変わって、千紗の退室を今か今かと待っていた忠平は、娘がとぼとぼと元気のない足取りで、渡殿を渡り来る姿を見つけると、慌てた様子で千紗の元へと駆け寄った。
「千紗っ!!」
忠平の呼ぶ声に、千紗は顔を上げ、父の姿を瞳に映す。
「………父上」
「千紗っ!お前、帝と何を話した? 帝に何を言われた?」
眉を八の字に歪めながら、忠平は心配気に娘に訪ねる。
すると千紗は、ふっと笑顔を作って見せて、先程の朱雀帝との話の中で決まった事柄を父に報告した。
「父上、お喜び下さい。千紗は、チビ助の元へ嫁に行きます」と。
娘の言葉に絶句する忠平に、千紗は更に笑顔を深めて言った。
「あれ、父上、喜んではくださらないのですか? やっと千紗にも嫁の貰い手が見つかったのですよ」
「…………千紗」
だが、その笑顔はどこか無理しているように見えて、どう言葉を返したら良いのか、忠平は言葉に詰まった。
「……すまなかった千紗……やはり一人にさせるべきでは……いや、そもそもここへ連れてくるべきではなかった……。今からでも遅くない。帝の元へ言って、婚儀の話はなかった事にしてもらおう」
やっと絞り出した忠平の言葉に、千紗が作り笑顔を向ける。
「良いんです父上。私は自分で考え、自分の意思で受け入れたのですから」
「だか、小次郎の事で何か脅しのような事を言われたのではないのか?」
忠平からの指摘に俯く千紗。
けれど今一度顔を上げ、父の指摘を否定した。
「確かに小次郎の嫌疑を張らす代わりに私に貢ぎ物になれといわれました。けど私は、それを自分の意思で受け入れました」
「何故? いつものお前なら、絶対に怒っているだろう」
「勿論最初は腹が立ちました。けど、思ったのです。チビ助は出会った頃からずっと私を好いてくれている。私は見てくれや肩書きだけではない、私自身を好きになってくれる人と結婚したい、ずっとそう主張してきましたよね。思い返せばあやつは、髪の短い私も、我が儘な私も、出会った時からずっと受け入れ好いてくれていた。私の何が良くて好いてくれているのかは分かりませんが、この先そんな代わり者と出会う事はないかもしれない。ならば私はあやつの想いに答えてみようと思ったのです。好きになる努力をしてみようと。私があやつの想いに答える事で小次郎が助かるのなら、それも良いかと」
「しかし……きっと小次郎は喜ばぬぞ」
「喜ばぬとて、貴族の身勝手さに振り回されて言われなき罪で命を奪われるよりよっぽどマシですよ。きっと小次郎も分かってくれるはず」
「……」
千紗の強い覚悟を感じて、忠平はそれ以上何も言えなくなった。
こう言う時の千紗は、決して意思を曲げない事を知っていたから。
「そうか……お前が自分で決めたと言うのなら……私がこれ以上口を挟む事もあるまい」
「ありがとうございます、父上」
父を説得した千紗は、続けて一つのお願い事をする。
「父上、一つお願いがあります」
「……願い?」
「はい。この事、小次郎や秋成にはまだ内緒にしていて下さい。私には嫁の貰い手がないと、散々馬鹿にしてきたあやつらを驚かせ、見返してやりたいのです。さて、どうやって驚かせてやろうか」
悪戯を思い付いた幼子のような笑顔でそう語る千紗。
だが、父である忠平の目には、彼女の浮かべる笑顔がどこか憂いを帯びて見えて、娘の胸のうちを察した忠平は千紗の頭をクシャッと撫でる。
そして、優しい声音で小さく言った。
「……そうか。お前がそれを望むのなら、あい分かった」
「父上……ありがとう……ございます」
「千紗っ!!」
忠平の呼ぶ声に、千紗は顔を上げ、父の姿を瞳に映す。
「………父上」
「千紗っ!お前、帝と何を話した? 帝に何を言われた?」
眉を八の字に歪めながら、忠平は心配気に娘に訪ねる。
すると千紗は、ふっと笑顔を作って見せて、先程の朱雀帝との話の中で決まった事柄を父に報告した。
「父上、お喜び下さい。千紗は、チビ助の元へ嫁に行きます」と。
娘の言葉に絶句する忠平に、千紗は更に笑顔を深めて言った。
「あれ、父上、喜んではくださらないのですか? やっと千紗にも嫁の貰い手が見つかったのですよ」
「…………千紗」
だが、その笑顔はどこか無理しているように見えて、どう言葉を返したら良いのか、忠平は言葉に詰まった。
「……すまなかった千紗……やはり一人にさせるべきでは……いや、そもそもここへ連れてくるべきではなかった……。今からでも遅くない。帝の元へ言って、婚儀の話はなかった事にしてもらおう」
やっと絞り出した忠平の言葉に、千紗が作り笑顔を向ける。
「良いんです父上。私は自分で考え、自分の意思で受け入れたのですから」
「だか、小次郎の事で何か脅しのような事を言われたのではないのか?」
忠平からの指摘に俯く千紗。
けれど今一度顔を上げ、父の指摘を否定した。
「確かに小次郎の嫌疑を張らす代わりに私に貢ぎ物になれといわれました。けど私は、それを自分の意思で受け入れました」
「何故? いつものお前なら、絶対に怒っているだろう」
「勿論最初は腹が立ちました。けど、思ったのです。チビ助は出会った頃からずっと私を好いてくれている。私は見てくれや肩書きだけではない、私自身を好きになってくれる人と結婚したい、ずっとそう主張してきましたよね。思い返せばあやつは、髪の短い私も、我が儘な私も、出会った時からずっと受け入れ好いてくれていた。私の何が良くて好いてくれているのかは分かりませんが、この先そんな代わり者と出会う事はないかもしれない。ならば私はあやつの想いに答えてみようと思ったのです。好きになる努力をしてみようと。私があやつの想いに答える事で小次郎が助かるのなら、それも良いかと」
「しかし……きっと小次郎は喜ばぬぞ」
「喜ばぬとて、貴族の身勝手さに振り回されて言われなき罪で命を奪われるよりよっぽどマシですよ。きっと小次郎も分かってくれるはず」
「……」
千紗の強い覚悟を感じて、忠平はそれ以上何も言えなくなった。
こう言う時の千紗は、決して意思を曲げない事を知っていたから。
「そうか……お前が自分で決めたと言うのなら……私がこれ以上口を挟む事もあるまい」
「ありがとうございます、父上」
父を説得した千紗は、続けて一つのお願い事をする。
「父上、一つお願いがあります」
「……願い?」
「はい。この事、小次郎や秋成にはまだ内緒にしていて下さい。私には嫁の貰い手がないと、散々馬鹿にしてきたあやつらを驚かせ、見返してやりたいのです。さて、どうやって驚かせてやろうか」
悪戯を思い付いた幼子のような笑顔でそう語る千紗。
だが、父である忠平の目には、彼女の浮かべる笑顔がどこか憂いを帯びて見えて、娘の胸のうちを察した忠平は千紗の頭をクシャッと撫でる。
そして、優しい声音で小さく言った。
「……そうか。お前がそれを望むのなら、あい分かった」
「父上……ありがとう……ございます」
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