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第一幕 京•帰還編
朱雀帝の意向
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「……は、はあ。た、確かにそろそろ考えてもおかしくない年齢かとは思います……」
「そうであろう」
「で、ですが、帝の妃となられるお方は、この国にとっても国母となられる大事なお方。候補者選びは慎重に行わねばなりますまい」
「私が考える候補者はただ一人。お主の娘、千紗姫だ。この国で朕の次に位の高い太政大臣の娘であれば、我が妃にも相応しかろう。誰からも文句はでまいて」
「た、確かに身分だけて言えば、我が娘でも帝の妃になれなくはない……とは存じます。存じます……が、あの子の性格や器量を考えればとてもとても、国母など勤まるとは思えません。帝に恥をかかせてしまうだけかと存じます」
「実の娘にも手厳しいな。だが心配せずとも器量など今からいくらでも身につける事ができよう」
「しかし……我が娘よりもっと評判が良く、才女と噂される娘はこの京には沢山おられます。帝の妃には、才女と評判高い娘達の方が相応しいかと……」
「朕は千紗姫が良いのだ。千紗姫意外の女子になど興味はない」
「帝……」
朱雀帝のまっすぐなまでの想いを聞かされて、忠平は素直に嬉しいと思った。
だが千紗の気持ちを考えると、どうしても首を縦に触る事は出来なくて……忠平は、ただただ困った顔を浮かべるしかなかった。
「忠平、お主が我と千紗姫との結婚を反対する理由は何だ?」
「……それは……」
「お主と朕との仲だ。遠慮せずに申してみよ」
「……では、恐れながら申し上げますれば、我が娘は心から好いた者と結婚したいと申しておりまして……私は娘の意思を尊重したいと思っているのです」
「なるほど、そう言えば以前も同じ理由で断られたな。だがな忠平、私は千紗姫を心から愛しておるぞ。この気持ちは誰にも負けまいて。だからな、夫婦となり共に過ごす時間を重ねて行ければ、いつの日かきっとこの気持ちが千紗姫にも届いて、私の事を好きになって下さると、朕はそう信じておるのだ。故に朕は千紗姫様を我が妻に迎え入れたいのだ」
「…………しかし……」
どうしても首を縦に降らない忠平に朱雀帝は、ならばとある提案を持ちかけた。
「ではこうしよう。千紗姫に朕の想いを直接伝えさせてくれ。もし千紗姫様が朕の想いを受け入れてくれたその時は、千紗姫を我が妻に迎える事を認めてくれるか?」
「……まぁ、千紗本人が了承した事ならば……私はこの事に何も口出すつもりはございませんが……」
でも千紗が朱雀帝の想いを受け入れるとは、到底思えません。と、喉まで出かかった言葉を忠平はぐっと呑み込んだ。
「よし、決まりだな。では今度千紗姫を、内裏に連れて来てくれ。頼んだぞ忠平」
嬉しそうにはしゃぐ朱雀帝の前ではそんな事、とても言えなかった。
「……は、ははぁ。……仰せのままに………」
半ば押しきられる形で、渋々承諾させられた忠平は、不安を拭い切れないままに一礼すると、重い足取りで清涼殿を後にした。
忠平が去った後朱雀帝は、忠平が座していた場所より更に後方の、庭に向かって声を掛ける。
「貞盛」
「はい、帝」
朱雀帝の呼び掛けに、庭を彩る木々の陰から小綺麗な格好をした貞盛が姿を表した。
そして朱雀帝の前で地面に手と膝をつくと、彼に向かって深く深く頭を下げた。
「これで良かったのか?」
「はい。十分でございます。千紗姫様と直接交渉出来れば、もう姫様を手に入れたも同然にございますよ」
「そうか。これでやっと……やっと千紗姫様と――」
「はい。帝の望みである千紗姫様も手に入って、そして千紗姫様の小次郎を助けたいと言う願いも叶えてさしあげられる。一石二鳥とはまさにこの事」
頭を下げ続けたまま、そう返した貞盛。
伏せられた顔には、不気味な笑みが浮かべられていた。
「そうであろう」
「で、ですが、帝の妃となられるお方は、この国にとっても国母となられる大事なお方。候補者選びは慎重に行わねばなりますまい」
「私が考える候補者はただ一人。お主の娘、千紗姫だ。この国で朕の次に位の高い太政大臣の娘であれば、我が妃にも相応しかろう。誰からも文句はでまいて」
「た、確かに身分だけて言えば、我が娘でも帝の妃になれなくはない……とは存じます。存じます……が、あの子の性格や器量を考えればとてもとても、国母など勤まるとは思えません。帝に恥をかかせてしまうだけかと存じます」
「実の娘にも手厳しいな。だが心配せずとも器量など今からいくらでも身につける事ができよう」
「しかし……我が娘よりもっと評判が良く、才女と噂される娘はこの京には沢山おられます。帝の妃には、才女と評判高い娘達の方が相応しいかと……」
「朕は千紗姫が良いのだ。千紗姫意外の女子になど興味はない」
「帝……」
朱雀帝のまっすぐなまでの想いを聞かされて、忠平は素直に嬉しいと思った。
だが千紗の気持ちを考えると、どうしても首を縦に触る事は出来なくて……忠平は、ただただ困った顔を浮かべるしかなかった。
「忠平、お主が我と千紗姫との結婚を反対する理由は何だ?」
「……それは……」
「お主と朕との仲だ。遠慮せずに申してみよ」
「……では、恐れながら申し上げますれば、我が娘は心から好いた者と結婚したいと申しておりまして……私は娘の意思を尊重したいと思っているのです」
「なるほど、そう言えば以前も同じ理由で断られたな。だがな忠平、私は千紗姫を心から愛しておるぞ。この気持ちは誰にも負けまいて。だからな、夫婦となり共に過ごす時間を重ねて行ければ、いつの日かきっとこの気持ちが千紗姫にも届いて、私の事を好きになって下さると、朕はそう信じておるのだ。故に朕は千紗姫様を我が妻に迎え入れたいのだ」
「…………しかし……」
どうしても首を縦に降らない忠平に朱雀帝は、ならばとある提案を持ちかけた。
「ではこうしよう。千紗姫に朕の想いを直接伝えさせてくれ。もし千紗姫様が朕の想いを受け入れてくれたその時は、千紗姫を我が妻に迎える事を認めてくれるか?」
「……まぁ、千紗本人が了承した事ならば……私はこの事に何も口出すつもりはございませんが……」
でも千紗が朱雀帝の想いを受け入れるとは、到底思えません。と、喉まで出かかった言葉を忠平はぐっと呑み込んだ。
「よし、決まりだな。では今度千紗姫を、内裏に連れて来てくれ。頼んだぞ忠平」
嬉しそうにはしゃぐ朱雀帝の前ではそんな事、とても言えなかった。
「……は、ははぁ。……仰せのままに………」
半ば押しきられる形で、渋々承諾させられた忠平は、不安を拭い切れないままに一礼すると、重い足取りで清涼殿を後にした。
忠平が去った後朱雀帝は、忠平が座していた場所より更に後方の、庭に向かって声を掛ける。
「貞盛」
「はい、帝」
朱雀帝の呼び掛けに、庭を彩る木々の陰から小綺麗な格好をした貞盛が姿を表した。
そして朱雀帝の前で地面に手と膝をつくと、彼に向かって深く深く頭を下げた。
「これで良かったのか?」
「はい。十分でございます。千紗姫様と直接交渉出来れば、もう姫様を手に入れたも同然にございますよ」
「そうか。これでやっと……やっと千紗姫様と――」
「はい。帝の望みである千紗姫様も手に入って、そして千紗姫様の小次郎を助けたいと言う願いも叶えてさしあげられる。一石二鳥とはまさにこの事」
頭を下げ続けたまま、そう返した貞盛。
伏せられた顔には、不気味な笑みが浮かべられていた。
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