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第一幕 京•帰還編
悔しさとやるせなさと
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朱雀帝が貞盛と再会を果たしていたのと同じ頃――
内裏を出た千紗は、帰るに帰り辛く思えて、平安宮から真っ直ぐに伸びる京一の大通り、朱雀大路を秋成と二人、行く宛もなくトボトボと歩いていた。
そこに
「千紗っ!やっと見つけた!」
後ろから千紗を呼ぶ声があって、振り返った先には慌てた様子で馬をかける小次郎の姿があった。
「小次郎?」
千紗は小次郎の鬼のような形相と、小次郎に対する後ろめたさから、秋成の背にそっと隠れる。
「ったく……どこにいってたんだお前はっ!!」
「………」
シュンと落ち込んだ様子の千紗に、小次郎は小さく溜め息を吐きながら、少しだけ口調を和らげて言った。
「ほら、忠平様が心配している。朝からお前の姿が見えなくて、屋敷は今大騒ぎだ。拗ねてないで早く帰るぞ」
「………」
それでもまだ秋成の背に隠れたままの千紗に、小次郎はポリポリと頬をかいた。
見かねた秋成が千紗に変わって口を開く。
「兄上、申し訳ございません」
「……何かあったのか?」
「実は――」
秋成は千紗が小次郎の為に屋敷を抜け出し内裏へ赴いた事を話した。
だが、結局何の収穫もなく落ち込んでいるのだと言う事も話した。
秋成の話に、小次郎は再び小さく溜め息を吐くと、馬を降り、千紗との距離を縮めて言った。
「そっか、俺の為に。ありがとな千紗」
ポンポンと、小次郎に頭を撫でられて思わず顔を上げる千紗。彼女の瞳に、思い出の中の小次郎と同じ、優しい笑顔が写った。
「お前の気持ちは素直に嬉しいよ。けど、だからって勝手にいなくなって良い理由にはならないぞ。お前の身に何かあったんじゃないかって、本当に心配したんだからな。お前には一度、誘拐された前科だってあるんだし」
「…………心配をかけた事はすまなかった。私も反省しておる」
珍しく素直に謝る千紗に、笑顔の中にも少し苦しそうな表情を浮かばせながら、今度はくしゃくしゃと、程乱暴に頭を撫でてやった。
「なんて、偉そうに言っても、俺がお前に心配かけてるのが悪いんだよな。ごめんな千紗……」
「何故お主が謝る。お主は何も悪い事などしていないではないか。悪いのは己が都合で法を歪める我ら貴族。悪いのはお前ではない! お前は何も悪くない! 悪くないのに……どうして……お前が苦しまねばならぬのだ!」
千紗は本当に悔しそうに、握られていた拳に力を込めた。
「っ………」
と、不意にその怒りに震える握り拳が小次郎の大きな手にギュッと包み込まれて、驚き顔を上げた先には、先程と変わらぬ小次郎の優しい笑顔がそこにあって――
「…………どうして……どうしてお主はそうやって笑っていられるのだ? お主は今の状況が怖くはないのか?」
たまらず千紗はそう問いかけた。
内裏を出た千紗は、帰るに帰り辛く思えて、平安宮から真っ直ぐに伸びる京一の大通り、朱雀大路を秋成と二人、行く宛もなくトボトボと歩いていた。
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「千紗っ!やっと見つけた!」
後ろから千紗を呼ぶ声があって、振り返った先には慌てた様子で馬をかける小次郎の姿があった。
「小次郎?」
千紗は小次郎の鬼のような形相と、小次郎に対する後ろめたさから、秋成の背にそっと隠れる。
「ったく……どこにいってたんだお前はっ!!」
「………」
シュンと落ち込んだ様子の千紗に、小次郎は小さく溜め息を吐きながら、少しだけ口調を和らげて言った。
「ほら、忠平様が心配している。朝からお前の姿が見えなくて、屋敷は今大騒ぎだ。拗ねてないで早く帰るぞ」
「………」
それでもまだ秋成の背に隠れたままの千紗に、小次郎はポリポリと頬をかいた。
見かねた秋成が千紗に変わって口を開く。
「兄上、申し訳ございません」
「……何かあったのか?」
「実は――」
秋成は千紗が小次郎の為に屋敷を抜け出し内裏へ赴いた事を話した。
だが、結局何の収穫もなく落ち込んでいるのだと言う事も話した。
秋成の話に、小次郎は再び小さく溜め息を吐くと、馬を降り、千紗との距離を縮めて言った。
「そっか、俺の為に。ありがとな千紗」
ポンポンと、小次郎に頭を撫でられて思わず顔を上げる千紗。彼女の瞳に、思い出の中の小次郎と同じ、優しい笑顔が写った。
「お前の気持ちは素直に嬉しいよ。けど、だからって勝手にいなくなって良い理由にはならないぞ。お前の身に何かあったんじゃないかって、本当に心配したんだからな。お前には一度、誘拐された前科だってあるんだし」
「…………心配をかけた事はすまなかった。私も反省しておる」
珍しく素直に謝る千紗に、笑顔の中にも少し苦しそうな表情を浮かばせながら、今度はくしゃくしゃと、程乱暴に頭を撫でてやった。
「なんて、偉そうに言っても、俺がお前に心配かけてるのが悪いんだよな。ごめんな千紗……」
「何故お主が謝る。お主は何も悪い事などしていないではないか。悪いのは己が都合で法を歪める我ら貴族。悪いのはお前ではない! お前は何も悪くない! 悪くないのに……どうして……お前が苦しまねばならぬのだ!」
千紗は本当に悔しそうに、握られていた拳に力を込めた。
「っ………」
と、不意にその怒りに震える握り拳が小次郎の大きな手にギュッと包み込まれて、驚き顔を上げた先には、先程と変わらぬ小次郎の優しい笑顔がそこにあって――
「…………どうして……どうしてお主はそうやって笑っていられるのだ? お主は今の状況が怖くはないのか?」
たまらず千紗はそう問いかけた。
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