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第一幕 京•帰還編
涙と戸惑いの再会②
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「…………お主、今さらここに何をしに来た? 約束を破って一人逃げ出したお前が………」
「ち、違います。私は決して、約束を破ったわけでは……」
「うるさいうるさい! では何故戻って来なかった? 待っておったのだぞ。朕はお主の言葉を信じて……ずっとずっと豊田で一人待っておったのだぞ。お主だけは、朕を一人にしないと約束したのに……それなのに……」
「お待ち下さいっ! 私の話を聞いて下さい!!」
「言い訳など聞きたくない! もう2度と朕の前に顔をみせるな!!」
癇癪を起こして貞盛の元から逃げ出そうと背を向けた朱雀帝。
「私はっ! 私は会いに行きました。寛明様に会いに行きました!」
「………………え?」
そんな彼に向かって貞盛は必死に訴えた。
貞盛の口から、思ってもみなかった言葉が飛び出して、朱雀帝は再び貞盛の元へと顔を向けた。
「あの戦の後……私は確かに寛明様に会いに行ったのです。小次郎の屋敷へ。ですが小次郎に拒まれ、貴方様に会う事が叶いませんでした」
「……………どう言う事だ?」
「あの戦のおり、私は確かに伯父上を説得出来ませんでした。でも、ただそれだけです。説得出来なかっただけ」
「……だがお前は、良兼軍に残った。そして、あの戦にも参加していたのであろう。違うか?」
「確かに。伯父に脅され、行動を共にはしていました。ですが、私は最初から伯父達に力を貸すつもりなどございませんでした。隙を見て伯父達の陣から抜け出すつもりでおりました」
「…………」
「そして、上手く抜け出したおりには、私は小次郎に力を貸すべく、小次郎が率いる軍へと戻るつもりでおりました」
「………………嘘だ……。だってお前は、いなかったではないか。下野国府内の国司の屋敷へ将門軍が敵軍を追い込んだ際に、お前の姿はどこにもなかった。私はあの男や千紗姫様と共に、戦場にいたのだぞ。ずっとお主の姿を探していたのだ。なのにお主の姿など……どこにもなかった………」
「それは、出来なかったのです。駆けつける事が……出来なかったのです」
「何故だ! 将門を助ける為に敵軍を抜け出しておいて、何故出来ぬのだ! 出来ぬのではなく、やはりしなかったのではないのか? やはり、お主は皆を裏切って一人逃げ出したのではないのか?」
「違いますっ!! 伯父達の軍を抜け出した後、私は小次郎軍に合流する為に小次郎を探しました。ですが、伯父達の逃げ惑う兵達の波に流され、小次郎軍に近付けなかった。私は戦場からは離されるばかり。慌てて元の場所まで引き返した時には時既に遅し。戦は、終結しておりました」
「…………」
「悔しかった。豊田の民は皆、私に期待してくれたのに……。友として、小次郎の役にたちたかったのに……。私は何も出来なかった。それがとても悔しかった」
貞盛は、本当に悔しそうに唇を噛み締める。
「皆の期待に応えられなかった。その意味では確かに私は裏切り者なのかもしれません。皆に会わせる顔がなくて、戦の後、なかなか帰れなかったのも事実です。でも、豊田を守りたい、小次郎の役に立ちたい、その気持ちに偽りなどなかった。それだけは本当なのです! どうか帝……信じてください!」
「…………今の話、将門は知っておるのか?」
「伝えました。従兄弟であり、親友である小次郎ならば、私の事情を分かってくれる。きっと許してくれる。そう思っておりましたが……豊田へ帰りついた私に、小次郎は刀を突き付けた。2度と豊田には近付くなと、牽制されてしまいました……」
「……………」
そう話す貞盛の表情が、悔しげなものから、切なげなものへ変わる。
「仕方のない事ですよね。私は結果として小次郎を裏切ってしまったのですから。それだけの事をしてしまったのですから」
自虐的に呟く貞盛。
「………」
自身の罪を自覚し、深い後悔の念を抱く貞盛の姿に、朱雀帝は彼を責める言葉を失った。
「ち、違います。私は決して、約束を破ったわけでは……」
「うるさいうるさい! では何故戻って来なかった? 待っておったのだぞ。朕はお主の言葉を信じて……ずっとずっと豊田で一人待っておったのだぞ。お主だけは、朕を一人にしないと約束したのに……それなのに……」
「お待ち下さいっ! 私の話を聞いて下さい!!」
「言い訳など聞きたくない! もう2度と朕の前に顔をみせるな!!」
癇癪を起こして貞盛の元から逃げ出そうと背を向けた朱雀帝。
「私はっ! 私は会いに行きました。寛明様に会いに行きました!」
「………………え?」
そんな彼に向かって貞盛は必死に訴えた。
貞盛の口から、思ってもみなかった言葉が飛び出して、朱雀帝は再び貞盛の元へと顔を向けた。
「あの戦の後……私は確かに寛明様に会いに行ったのです。小次郎の屋敷へ。ですが小次郎に拒まれ、貴方様に会う事が叶いませんでした」
「……………どう言う事だ?」
「あの戦のおり、私は確かに伯父上を説得出来ませんでした。でも、ただそれだけです。説得出来なかっただけ」
「……だがお前は、良兼軍に残った。そして、あの戦にも参加していたのであろう。違うか?」
「確かに。伯父に脅され、行動を共にはしていました。ですが、私は最初から伯父達に力を貸すつもりなどございませんでした。隙を見て伯父達の陣から抜け出すつもりでおりました」
「…………」
「そして、上手く抜け出したおりには、私は小次郎に力を貸すべく、小次郎が率いる軍へと戻るつもりでおりました」
「………………嘘だ……。だってお前は、いなかったではないか。下野国府内の国司の屋敷へ将門軍が敵軍を追い込んだ際に、お前の姿はどこにもなかった。私はあの男や千紗姫様と共に、戦場にいたのだぞ。ずっとお主の姿を探していたのだ。なのにお主の姿など……どこにもなかった………」
「それは、出来なかったのです。駆けつける事が……出来なかったのです」
「何故だ! 将門を助ける為に敵軍を抜け出しておいて、何故出来ぬのだ! 出来ぬのではなく、やはりしなかったのではないのか? やはり、お主は皆を裏切って一人逃げ出したのではないのか?」
「違いますっ!! 伯父達の軍を抜け出した後、私は小次郎軍に合流する為に小次郎を探しました。ですが、伯父達の逃げ惑う兵達の波に流され、小次郎軍に近付けなかった。私は戦場からは離されるばかり。慌てて元の場所まで引き返した時には時既に遅し。戦は、終結しておりました」
「…………」
「悔しかった。豊田の民は皆、私に期待してくれたのに……。友として、小次郎の役にたちたかったのに……。私は何も出来なかった。それがとても悔しかった」
貞盛は、本当に悔しそうに唇を噛み締める。
「皆の期待に応えられなかった。その意味では確かに私は裏切り者なのかもしれません。皆に会わせる顔がなくて、戦の後、なかなか帰れなかったのも事実です。でも、豊田を守りたい、小次郎の役に立ちたい、その気持ちに偽りなどなかった。それだけは本当なのです! どうか帝……信じてください!」
「…………今の話、将門は知っておるのか?」
「伝えました。従兄弟であり、親友である小次郎ならば、私の事情を分かってくれる。きっと許してくれる。そう思っておりましたが……豊田へ帰りついた私に、小次郎は刀を突き付けた。2度と豊田には近付くなと、牽制されてしまいました……」
「……………」
そう話す貞盛の表情が、悔しげなものから、切なげなものへ変わる。
「仕方のない事ですよね。私は結果として小次郎を裏切ってしまったのですから。それだけの事をしてしまったのですから」
自虐的に呟く貞盛。
「………」
自身の罪を自覚し、深い後悔の念を抱く貞盛の姿に、朱雀帝は彼を責める言葉を失った。
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