時ノ糸~絆~

汐野悠翔

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第一幕 京•帰還編

涙と戸惑いの再会

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所変わって、朱雀帝自室にて――


「何やら外が騒がしいですね」


母、隠子の腕に抱かれ、朱雀帝に少し落ち着きが戻ってきた頃、ふと外の騒ぎに気付いた隠子は、握っていた朱雀帝の手を離すと、一人立ち上がり外の様子を見に部屋を出た。

と、その直後「きゃ~!!」と甲高い隠子の叫び声が上がった。


「母上?!」


何事かと驚き顔を上げた朱雀帝。
急ぎ廊下へ出ると、乞食のごとき薄汚い格好をした男が庭に立っていて、「ひっ……」と朱雀帝もまた、声にならない悲鳴を上げた。


「な、何者だ。ここがどこかを知っての狼藉か?」


見るからに怪しい侵入者を前に、朱雀帝は廊下で腰を抜かす母を守ろうと彼女の前に立つ。

そして母を背に庇いながら必死に怪しい男を威嚇した。


「…………寛明……様……。やっと……やっとお会い出来ました。あぁ、見ない間にこんなにも大きくなられて……」


だが、朱雀帝の威嚇に男は怯む様子もなく、真っ直ぐに朱雀帝を瞳に宿しながら、涙ぐみながらそう声を上げた。


「………お前は?」


まるで知り合いであるかのような男の口振に、朱雀帝はいぶかしみながらも、その声にどこか懐かしさのようなもとを感じて、恐る恐る男の元へと足を進ませた。

――と、その時、男の後ろから「兄様~!」とヒョッコリ成明が顔を覗かせた。

突然の弟の登場に、弟の身を案じた朱雀帝はみるみる顔を青ざめさせて行く。


「成明っ?!お前何をっ……早くその怪しき男から離れよ!」

「怪しき男? 違いますよ兄様。この男は兄様のお客人です。内裏の門前で門番に阻まれ困っていたので、成明がこうして兄様の元に連れて参りました」

「客? その男がか? そのような下賤の知り合いなど我にはおらんぞ。良いから早くそやつから離れるんだ」

「そんな筈はありません。だってこの者は、兄様もよく知っている者ですよ。昨日も成明に話して下さったではありませんか。戦を止める為、一人敵陣へ乗り込んで行った男の話を」

「………?」


一瞬、成明が何を言っているのか、朱雀帝には分からなった。

だが、先程感じたに今一度男の方へと歩みを進め、顔をまじまじと覗き見れば


「っ!お主………もしや太郎貞盛か?」

「はいっ! いかにも私は平太郎貞盛にございます。良かった。覚えていてくださったのですね。ご無沙汰しております、寛明様」


その男が、平太郎貞盛だとやっと気付いた。

男の正体に、無意識に朱雀帝の顔が一瞬晴れやかに緩められる。

だが、それはすぐに戸惑いや悲しみ、様々な負の感情が入り交じった複雑な表情へと歪められて行った。


ーー『心配なさらないで下さい。ほんの少しの間、ここを留守にするだけです。すぐに、戻って参ります』

『誠か?誠すぐに……戻ってくるか? 私の元へ戻ってくるか?』

『はい、必ず。役目を果たしたらすぐに、貴方様のもとに戻って参ります』



――『貞盛りが裏切ったと言うのは……本当なのでしょうか、千紗様。約束したのですよ。すぐに帰ってくると。約束したのに……貞盛だけは、何があっても私の側にいてくれると……約束したのに……』――


信じていたのに裏切られた。
あの時の悲しみが甦って。

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