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第一幕 京•帰還編
嵐を呼ぶかもしれない男③
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「千紗様っ! 千紗姫様っ!!」
息を切らして紫宸殿まで戻って来た成明。
だが、時既に遅し。
「………千紗姫様?」
キョロキョロと辺りを見回すも、どんなに探しても千紗の姿はそこにはもうなかった。
だが、成明の顔に諦めの色はない。
まだ間に合うかもしれないと成明は、内裏の正門、建礼門
まで千紗を追い掛けやって来る。
「千紗姫様っ!!」
門をくぐった所で、門番の男とぶつかった。
「うわっぷ」
「こ、これは帝の弟君ではありませんか?! このような所で何をなされておいでですか?」
「千紗様をっ!千紗姫様を探している。ここを通らなかったか?」
「千紗……姫様? とは……どのような方でしょうか?」
「太政大臣、藤原忠平の一の姫様だ!」
「太政大臣様の? ……と言う事は、あの変わり者“で有名な姫様か。いえ、そのような方こちらには参られておりませんが」
「来てない? 誠か? ………しまった。もしや他の門から出ていかれたのか? そんな………」
せっかく兄の為、ここまで走って来たのに、努力も空しく、無駄足に終わりそうな状況に落胆する。
だが、それでも成明は諦めない。
兄の為、再びキッと顔を持ち上げ、前を見据える。
そうだ。ここで会えなくても、藤原の屋敷まで千紗に会いに行けば良いのだ。
そんな結論に至った成明は、再び駆け出そうと一歩足を踏み出した。
とその時、ガッシリと後ろから抱き上げられて、何故か行く手を阻まれてしまう。
「な、何をする、離せ! 離さぬか!!」
「お待ち下さい宮様。貴方様を内裏の外へお出しするわけには参りません」
「離せっ! 千紗姫様を追いかけねば! 兄様と仲直りをしてもらうのだ!」
「なりませぬ」
「何故だ~~!離せ~~~~!!」
必死の抵抗をみせる成明だったが、大の大人の男の力に敵うはずもなく、それ以上先へ進む事は出来なかった。
そんな成明と門番とのやり取りが行われていたすぐ近くでは、もう一組何やら揉めている輩がいた。
「お願いします。帝に、帝にお目通りをっ……」
「ならぬ。お前のような下賤の者を入れるわけにはいかん。帰れ!」
揉め事の原因と見られる男は、あちこちビリビリに破け、泥だらけになった着物を身に纏い、みるからにみすぼらし格好をしている。
顔も泥と汗で素顔が分からない程に薄汚れている。
「私は帝と面識がございます。決して怪しい者ではございません」
「駄目だ駄目だ。怪しくないと主張する奴程、怪しい奴はいないぞ。そもそもお前のような汚ならしい者が帝と知り合いである筈がない」
「お願いします。どうしても……どうしても帝に会って、お話したき事があるのです」
男は必死に懇願する。
だが、懇願すればする程に門番のその男への態度は傲慢になって行き、ついには謎の男を蹴り飛ばすまでに至った。
「お願いします! どうか……どうか帝に……」
蹴られてもなお、必死に懇願する男。
側で見ていた他の門番が見かねて助け舟を出してやる。
「おい、よせ。あまり過激な事はしてやるな」
「だけどこいつ、しつこいんだ。こうでもしなきゃここを動きそうにない」
「取り敢えず、今日の所は名前だけ聞いて、上に報告しよう。言っている事に偽りがなければ、帝も会って下さるかもしれない。お前、名は何と言う?」
「………は、はい! ありがとうございます!ありがとうございます! 私の名は、平太郎貞盛と申します。帝とは坂東の地へと旅をされた際、お供をさせて頂きました」
「えっ!」
男が口にした名に、思わず側にいた成明が反応した。
『貞盛』
その名は兄が聞かせてくれた坂東での冒険譚の中、何度も耳にした名前だったから。
「待て。その者は誠、兄様の知り合いだ」
「宮様?」
突然の成明の発言に、その場にいた全員の視線が成明へと向けられた。
「な、何をおっしゃっておられるのですか」
「だから、その者は誠兄様の知り合いだと申しておる。だから中に入れてやれ」
「し、しかし…」
帝の弟と言えど、子供の言葉にどこまで耳を傾ければ良いのかと、大人達が戸惑っていると、成明は自身を抱えていた門番の男の腕から抜け出し、トテトテと貞盛の元へ近付いて行った。
「宮様っ!そのように不用心に近付いては……」
「大丈夫だ。この者を兄様の元へ連れていく。貞盛、成明について参れ!」
「はっはいっ!」
「な、宮様……なりませぬ。そのような怪しき者を内裏の中へ入れるなど……」
大人達が必死に止めるのも聞かずに、成明は内裏の中へと貞盛を招き入れた。
門より奥に入る事を禁じられていた門番達は、それ以上成明を止める術はなく、二人の背をただ見送る事しかできなかった。
息を切らして紫宸殿まで戻って来た成明。
だが、時既に遅し。
「………千紗姫様?」
キョロキョロと辺りを見回すも、どんなに探しても千紗の姿はそこにはもうなかった。
だが、成明の顔に諦めの色はない。
まだ間に合うかもしれないと成明は、内裏の正門、建礼門
まで千紗を追い掛けやって来る。
「千紗姫様っ!!」
門をくぐった所で、門番の男とぶつかった。
「うわっぷ」
「こ、これは帝の弟君ではありませんか?! このような所で何をなされておいでですか?」
「千紗様をっ!千紗姫様を探している。ここを通らなかったか?」
「千紗……姫様? とは……どのような方でしょうか?」
「太政大臣、藤原忠平の一の姫様だ!」
「太政大臣様の? ……と言う事は、あの変わり者“で有名な姫様か。いえ、そのような方こちらには参られておりませんが」
「来てない? 誠か? ………しまった。もしや他の門から出ていかれたのか? そんな………」
せっかく兄の為、ここまで走って来たのに、努力も空しく、無駄足に終わりそうな状況に落胆する。
だが、それでも成明は諦めない。
兄の為、再びキッと顔を持ち上げ、前を見据える。
そうだ。ここで会えなくても、藤原の屋敷まで千紗に会いに行けば良いのだ。
そんな結論に至った成明は、再び駆け出そうと一歩足を踏み出した。
とその時、ガッシリと後ろから抱き上げられて、何故か行く手を阻まれてしまう。
「な、何をする、離せ! 離さぬか!!」
「お待ち下さい宮様。貴方様を内裏の外へお出しするわけには参りません」
「離せっ! 千紗姫様を追いかけねば! 兄様と仲直りをしてもらうのだ!」
「なりませぬ」
「何故だ~~!離せ~~~~!!」
必死の抵抗をみせる成明だったが、大の大人の男の力に敵うはずもなく、それ以上先へ進む事は出来なかった。
そんな成明と門番とのやり取りが行われていたすぐ近くでは、もう一組何やら揉めている輩がいた。
「お願いします。帝に、帝にお目通りをっ……」
「ならぬ。お前のような下賤の者を入れるわけにはいかん。帰れ!」
揉め事の原因と見られる男は、あちこちビリビリに破け、泥だらけになった着物を身に纏い、みるからにみすぼらし格好をしている。
顔も泥と汗で素顔が分からない程に薄汚れている。
「私は帝と面識がございます。決して怪しい者ではございません」
「駄目だ駄目だ。怪しくないと主張する奴程、怪しい奴はいないぞ。そもそもお前のような汚ならしい者が帝と知り合いである筈がない」
「お願いします。どうしても……どうしても帝に会って、お話したき事があるのです」
男は必死に懇願する。
だが、懇願すればする程に門番のその男への態度は傲慢になって行き、ついには謎の男を蹴り飛ばすまでに至った。
「お願いします! どうか……どうか帝に……」
蹴られてもなお、必死に懇願する男。
側で見ていた他の門番が見かねて助け舟を出してやる。
「おい、よせ。あまり過激な事はしてやるな」
「だけどこいつ、しつこいんだ。こうでもしなきゃここを動きそうにない」
「取り敢えず、今日の所は名前だけ聞いて、上に報告しよう。言っている事に偽りがなければ、帝も会って下さるかもしれない。お前、名は何と言う?」
「………は、はい! ありがとうございます!ありがとうございます! 私の名は、平太郎貞盛と申します。帝とは坂東の地へと旅をされた際、お供をさせて頂きました」
「えっ!」
男が口にした名に、思わず側にいた成明が反応した。
『貞盛』
その名は兄が聞かせてくれた坂東での冒険譚の中、何度も耳にした名前だったから。
「待て。その者は誠、兄様の知り合いだ」
「宮様?」
突然の成明の発言に、その場にいた全員の視線が成明へと向けられた。
「な、何をおっしゃっておられるのですか」
「だから、その者は誠兄様の知り合いだと申しておる。だから中に入れてやれ」
「し、しかし…」
帝の弟と言えど、子供の言葉にどこまで耳を傾ければ良いのかと、大人達が戸惑っていると、成明は自身を抱えていた門番の男の腕から抜け出し、トテトテと貞盛の元へ近付いて行った。
「宮様っ!そのように不用心に近付いては……」
「大丈夫だ。この者を兄様の元へ連れていく。貞盛、成明について参れ!」
「はっはいっ!」
「な、宮様……なりませぬ。そのような怪しき者を内裏の中へ入れるなど……」
大人達が必死に止めるのも聞かずに、成明は内裏の中へと貞盛を招き入れた。
門より奥に入る事を禁じられていた門番達は、それ以上成明を止める術はなく、二人の背をただ見送る事しかできなかった。
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