時ノ糸~絆~

汐野悠翔

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第一幕 京•帰還編

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内裏・朱雀帝の部屋


「寛明、寛明!千紗姫が貴方を訪ねてわざわざお越しくださいましたよ!」

「………え? 千紗姫が? 私を訪ねて? 誠ですか母上!」


自室にて、一人朝食をとっていた朱雀帝の元に、彼の母、隠子がニコニコと興奮気味訪ねて来た。

隠子がもたらした報告に、朱雀帝の目はキラキラと輝き出す。それはそれは嬉しそうに。


「えぇ。本当ですよ。今、紫宸殿でお待ちいただいており――」


母の言葉を最後まで聞き終らないうちに、手にしていた茶碗を乱暴に置き、慌てた様子で部屋を飛び出して行く朱雀帝。


「まぁまぁまぁ。あの子ったらあんなに慌てて。ふふ。でも本当に嬉しそう。あんな顔、母は久しぶりに見ました。本当に大好きなのですね、千紗姫の事が」


我が子の後ろ姿を見送りながら、隠子もまた、嬉しそうに微笑んでいた。


「姫様っ!千紗姫様~~!!」

「おぉチビ助、久しぶりだな。お主、あの日以来全然姿を見せないで。心配していたぞ。元気にしておったか?」

「はい、私は元気です! 姫様もお元気そうで何より! 所で、今日はどうなされたのですか? 姫様の方から私を訪ねて来てくださるなんて、初めての事だったから驚きました。しかも千紗姫様お一人でなんて。へへへ、嬉しいなぁ。今日は邪魔をする奴等もいない。ゆっくりと二人でお話が出来ますね」


頬を紅く染め、少し照れたように微笑む朱雀帝。

その笑顔に、千紗はほっと胸を撫で下ろす。

最後に見た彼は、まるで人形のように表情がなかったから。


「うむ。本当に元気そうだな」


千紗の口から小さく安堵の言葉が漏れた。


「? 今、何かおっしゃいました?」

「いや、何でもない」

「?」

「残念ながら、ここへ来たのは私一人ではないぞ。秋成も途中までは一緒だったのだ。だが、内裏の門前にて何故か秋成だけが入る事を止められてな。どんなに頼んでも入れてはもらえなかったのだ」

「………なんだ。やっぱり一緒だったんですね」


千紗の言葉に朱雀帝の瞳の輝きが弱まる。
小さく舌打ちすると、少し残念そうに呟いた。


「そうだ。お主から頼んで、秋成もここに入れてはもらえないだろうか?」

「嫌です。せっかくの千紗姫様と二人きりの時間を邪魔されたくありません。姫様、今日は是非ゆっくりして行って下さい」

「うむ。お主と会うたのも久しぶりだしな、本当はそうしたい所なのだが……」

「だが?」

「そうのんびりもしておれんのだ」

「そんな~」

「実はな、今日お主に会いに来たのは、主に折り入って頼みたい事があってな。もうお主しか頼れる者がおらぬのだ」

「ち、千紗姫が私を頼りに? な、何ですか、何ですか? 姫様が望む事ならば、何であっても、私は全力で叶えてみせますよ!」

「おぉ、これは頼もしい」

「へへへ」


千紗に褒められて、朱雀帝は嬉しそうに、照れ笑いを浮かべた。


「実はな………」


そして千紗は話した。

謀反の疑いで京へ召喚された小次郎の嫌疑が未だ晴れず、日に日に立場が悪くなっていた事。

それは、源護、平良兼達が、役人を賄賂で操っているからだと言う事。

現状朝廷内において、法が機能していないと言う事実を、ありのままを朱雀帝に話した。


「だからな、お主の力を借りたいのじゃ。共に坂東の戦を目の前で見てきた者として、坂東で起きた事を皆の前でありのまま話して欲しい。帝である主の言葉ならば皆もきっと耳を傾けるはず。主の言葉にならきっと力が宿る。さすれば小次郎への謀反の疑いも晴れるはずじゃ」

「……………」


千紗が話し終える頃、朱雀帝からは笑顔が消えていた。

困ったような、悲しんでいるよな、寂しそうな……そんな複雑な顔でじっと視線を下に向けていた。

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