時ノ糸~絆~

汐野悠翔

文字の大きさ
上 下
189 / 285
第一幕 京•帰還編

深い闇

しおりを挟む
――それから、3ヶ月の時が流れた。

気がつけば暦は1月。

年を跨いでも未だ、小次郎と良兼の裁判には決着がつかず、長引いていた。

開始当初は小次郎に同情する声が多かった裁判も、長引く程に良兼、護有利へと情勢は変わっていく。

ついには『将門謀反により処刑』と京中で噂されるまでになっていた。


「父上!これはいったいどういう事ですか?!」

「落ち着け、千紗」

「落ち着いてなどいられません! このままでは小次郎が……」


そんな不穏な噂達に、千紗の焦りは最高潮に達していた。

そして、何も出来ない無力な自分へ対しての苛立ちもまた高まっていた。


「何度も申しているように、小次郎はただ、攻められたから仕方なく戦に応戦しただけなのです。下野国司の屋敷に火を放ったのだって小次郎の意思ではなかった! 小次郎に謀反の意思など無かった! その証拠に、屋敷の火を消し止めたのは小次郎ですよ。そう私は何度も何度も説明しているのに……なのに何故……何故小次郎の疑いは晴れないのですか!」     

 「言ったであろう。この戦い、小次郎にとっては厳しいものになると」

「だから何故! 裁判が始まった当初は小次郎への同情の声が多かったはず。それなのにどうして今世間は、小次郎の味方をしてくれなくなったのですか?」 

「それは………」

「それは、何ですか父上? 父上はその理由を知っているのですか?」

「………………」

「教えて下さい父上! 今、朝廷で何が起きているのか!」

「…………それは………良兼、護の両名は、裁判に関わる官僚達に………賄賂をばらまいているからだ。己に味方するよう、賄賂で官僚達を懐柔しているからだ」

「なっ………」


忠平の言葉に、3か月前、父の元を訪ねて来た護の姿を思い出す。


「………そ……んな……」


千紗は衝撃を受けた。


「そんな………では、なんのための裁判ですか? 何の為の朝廷ですか。何のための……法があるのに、その法が機能していないなんて……」

「そうだな。己の都合で法をねじ曲げていては、法などあってないようなもの。だが、これが朝廷だ。これが今の私達の実体だ……」


そう語る忠平の表情はとても寂しげで、悔しげで


「変わらぬな。ここは昔から何も変わらぬ……。道真を太宰府へ追いやったあの頃から何も……」


未だ友と交わした約束を果たせずにいる現状に、太政大臣として無力な己に、罰を与えるかの如く悔しげに唇を噛みしめる。


「では、小次郎を助ける方法は何も?」


突きつけられた現実に、千紗達はなす統べなく立ち尽くす事しか出来なかった。


――『小次郎、お前の無実は、京で私が説明する。お主の事は必ず私が守ってやる!だから、大船に乗ったつもりでいろ!!』


約束したのに。
必ず守ると、約束したのに……

小次郎の為に、自分は何もしてやれない。
ただ、嘆く事しか出来ない。

無力な己が悔しくて仕方ない。

何か無いのだろうか?
小次郎の為に自分がしてやれる事は……何か……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

金蝶の武者 

ポテ吉
歴史・時代
時は天正十八年。 関東に覇を唱えた小田原北条氏は、関白豊臣秀吉により滅亡した。 小田原征伐に参陣していない常陸国府中大掾氏は、領地没収の危機になった。 御家存続のため、選ばれたのは当主大掾清幹の従弟三村春虎である。 「おんつぁま。いくらなんでもそったらこと、むりだっぺよ」 春虎は嘆いた。 金の揚羽の前立ての武者の奮戦記 ──

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

戦国三法師伝

kya
歴史・時代
歴史物だけれども、誰にでも見てもらえるような作品にしていこうと思っています。 異世界転生物を見る気分で読んでみてください。 本能寺の変は戦国の覇王織田信長ばかりではなく織田家当主織田信忠をも戦国の世から葬り去り、織田家没落の危機を迎えるはずだったが。 信忠が子、三法師は平成日本の人間が転生した者だった…

天明奇聞 ~たとえば意知が死ななかったら~

ご隠居
歴史・時代
タイトル通りです。意知が暗殺されなかったら(助かったら)という架空小説です。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

不屈の葵

ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む! これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。 幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。 本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。 家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。 今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。 家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。 笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。 戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。 愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目! 歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』 ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!

永き夜の遠の睡りの皆目醒め

七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。 新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。 しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。 近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。 首はどこにあるのか。 そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。 ※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

処理中です...