時ノ糸~絆~

汐野悠翔

文字の大きさ
上 下
189 / 278
第一幕 京•帰還編

深い闇

しおりを挟む
――それから、3ヶ月の時が流れた。

気がつけば暦は1月。

年を跨いでも未だ、小次郎と良兼の裁判には決着がつかず、長引いていた。

開始当初は小次郎に同情する声が多かった裁判も、長引く程に良兼、護有利へと情勢は変わっていく。

ついには『将門謀反により処刑』と京中で噂されるまでになっていた。


「父上!これはいったいどういう事ですか?!」

「落ち着け、千紗」

「落ち着いてなどいられません! このままでは小次郎が……」


そんな不穏な噂達に、千紗の焦りは最高潮に達していた。

そして、何も出来ない無力な自分へ対しての苛立ちもまた高まっていた。


「何度も申しているように、小次郎はただ、攻められたから仕方なく戦に応戦しただけなのです。下野国司の屋敷に火を放ったのだって小次郎の意思ではなかった! 小次郎に謀反の意思など無かった! その証拠に、屋敷の火を消し止めたのは小次郎ですよ。そう私は何度も何度も説明しているのに……なのに何故……何故小次郎の疑いは晴れないのですか!」     

 「言ったであろう。この戦い、小次郎にとっては厳しいものになると」

「だから何故! 裁判が始まった当初は小次郎への同情の声が多かったはず。それなのにどうして今世間は、小次郎の味方をしてくれなくなったのですか?」 

「それは………」

「それは、何ですか父上? 父上はその理由を知っているのですか?」

「………………」

「教えて下さい父上! 今、朝廷で何が起きているのか!」

「…………それは………良兼、護の両名は、裁判に関わる官僚達に………賄賂をばらまいているからだ。己に味方するよう、賄賂で官僚達を懐柔しているからだ」

「なっ………」


忠平の言葉に、3か月前、父の元を訪ねて来た護の姿を思い出す。


「………そ……んな……」


千紗は衝撃を受けた。


「そんな………では、なんのための裁判ですか? 何の為の朝廷ですか。何のための……法があるのに、その法が機能していないなんて……」

「そうだな。己の都合で法をねじ曲げていては、法などあってないようなもの。だが、これが朝廷だ。これが今の私達の実体だ……」


そう語る忠平の表情はとても寂しげで、悔しげで


「変わらぬな。ここは昔から何も変わらぬ……。道真を太宰府へ追いやったあの頃から何も……」


未だ友と交わした約束を果たせずにいる現状に、太政大臣として無力な己に、罰を与えるかの如く悔しげに唇を噛みしめる。


「では、小次郎を助ける方法は何も?」


突きつけられた現実に、千紗達はなす統べなく立ち尽くす事しか出来なかった。


――『小次郎、お前の無実は、京で私が説明する。お主の事は必ず私が守ってやる!だから、大船に乗ったつもりでいろ!!』


約束したのに。
必ず守ると、約束したのに……

小次郎の為に、自分は何もしてやれない。
ただ、嘆く事しか出来ない。

無力な己が悔しくて仕方ない。

何か無いのだろうか?
小次郎の為に自分がしてやれる事は……何か……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

永き夜の遠の睡りの皆目醒め

七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。 新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。 しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。 近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。 首はどこにあるのか。 そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。 ※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい

我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~

城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。 一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。 二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。 三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。 四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。 五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。 六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。 そして、1907年7月30日のことである。

16世紀のオデュッセイア

尾方佐羽
歴史・時代
【第12章を週1回程度更新します】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。 12章では16世紀後半のヨーロッパが舞台になります。 ※このお話は史実を参考にしたフィクションです。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

天下布武~必勝!桶狭間

斑鳩陽菜
歴史・時代
 永禄三年五月――、駿河国および遠江国を領する今川義元との緊張が続く尾張国。ついに尾張まで攻め上ってきたという報せに、若き織田信長は出陣する。世にいう桶狭間の戦いである。その軍勢の中に、信長と乳兄弟である重臣・池田恒興もいた。必勝祈願のために、熱田神宮参詣する織田軍。これは、若き織田信長が池田恒興と歩む、桶狭間の戦いに至るストーリーである

戦艦タナガーin太平洋

みにみ
歴史・時代
コンベース港でメビウス1率いる ISAF部隊に撃破され沈んだタナガー だがクルーたちが目を覚ますと そこは1942年の柱島泊地!?!?

処理中です...