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第一幕 京•帰還編
歪んだ愛情
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「皇太后様、久しぶりの再会が嬉しいのも分かりますが、そろそろ帝を解放してあげて下さい。過保護が過ぎて、また帝に怯えられておりまするぞ」
「あら私ったら、寛明の事が心配で心配で、つい取り乱してしまいました。ごめんなさい寛明。怖がらせるつもりはなかったのよ」
忠平が隠子を朱雀帝から引き剥がしながらやんわりと諭すと、隠子は意外な程素直に謝った。
「……わかっております、母上……」
隠子の謝罪に朱雀帝は、未だ微かに顔を強ばらせながら、俯きがちに言葉を返した。
朱雀帝が抱えるトラウマを察しながら忠平は二人の間に割って入る。
「さて隠子様、何故貴女様が我が屋敷にいるのかお聞きしてもよいですかな?」
「何故って、寛明が京へ戻って来たと耳にしたものですから」
「帝の事は私が責任を持って内裏へお連れしましたものを。貴女は今のご自分の立場をお忘れですか?」
「だって……待てなかったんですもの。我が子が帰って来たと聞いたら、いても立っても要られず、早く会いたい一心でここまで駆け付けてしまいました。この半年、私がどれ程心配していたか、兄上だって御存知でしょう?」
「お気持ちはわかります。ですがご自分の立場をお考え下さいと」
「あら、言わせてもらえば兄上もいけないのですよ。兄上が早く寛明を内裏へお連れくださらないから」
「それは申し訳ございませんでした。しかし帝がこちらに来られたのも、ほんのつい先程の事でして」
「言い訳は結構です。全く、兄上が甘やかすから寛明も我儘を口にするようになってしまったのですよ。昔はあんなに従順で良い子だったのに」
兄に諭されていたはずが、次第にグチグチ反論を口にし始める隠子。
忠平を押し退け、再び愛おしげに愛息子を抱き締めると、彼の存在を確かめるかのように何度も何度も頭を撫でては愛で始める。
「あぁ寛明、無事に帰って来てくれて良かった。この一年、母がどれ程心配していたか……」
「母上、苦しい……離して下さい……」
「いいえ離しません。一年もの間、ろくに連絡もよこさず、本当に、本当に母は心配していたのですよ」
「……誠に申し訳………ございませんでした……母上……」
「もしこのまま、貴方まで母のもとからいなくなってしまったらと、そんな考えばかりが頭をよぎって、母は生きた心地がしませんでしたよ」
「………………ごめんなさい…………」
「お願いです寛明、もう二度と母の側を離れないでくださいね」
端から見たら狂気にも似た愛で方に、朱雀帝からは表情が消えていた。
千紗や秋成といる時には、喜怒哀楽、様々に表情を変えていた朱雀帝が、今はまるで人形のように感情が読み取れない。
そんな彼の初めての姿を側で見ていた千紗は、ただただ不思議そうに、そして不安そうに見守る事しかできなかった。
「あぁ愛しい子、もっと母に貴方の顔を見せておくれ」
「………」
いとおしいげに何度も何度も、頭を撫でつける隠子。
まるでもののけにでもとり憑かれているかのように執拗な程、何度も何度も。
ふと一年前とは違う我が子の変化に気付く。
「あら寛明、貴女何だか随分と大きくなりましたね。そう言えばあと半年もすれば、貴方も十五になるのでしたっけ」
そう。頭一個分低かった身長も、気づけば母と同じ高さに目線があるのだ。
京を旅立った頃にはまだ十三歳だった我が子も、あと半年もすれば十五になる。
そんな息子の成長を目の当たりにして、嬉しいような寂しいような、複雑な気持ちがふと隠子の胸に込み上がった。
「やはり男の子は成長が早い」
「はい……母上。私もいつまでも子供ではありません。………だから――」
「そうですね。貴方ももう立派な男子。そろそろ元服も視野に入れなくてはなりませんね」
朱雀帝が何かいいかけた言葉を遮って母が言う。
――『だから、もう子供扱いはやめて下さい』
朱雀帝はそう言いたかった。
けれど、母の前では言いたい事も言えない子供のまま。
無表情だった朱雀帝の顔が、一瞬微かに苦痛に歪んだのを千紗は見逃さなかった。
「………チビ助?」
朱雀帝の様子にたまらず千紗が声を掛ける。
千紗に呼ばれて朱雀帝は儚げな瞳で振り返る。
まるで千紗に助けを求めているかのように。
だが――
「さぁ、寛明、内裏へ帰りましょう。弟の成明も貴方の帰りを今か今かと待っていますよ」
「………………」
「では兄上、私達はこれで」
「……………」
朱雀帝の必死の叫びに千紗が応えるより先に、朱雀帝は隠子によって半ば強引に連れて行かれてしまった。
朱雀帝へ向け、伸ばされていた千紗の手は行き場を無くし、虚しく中を漂っていた。
「あら私ったら、寛明の事が心配で心配で、つい取り乱してしまいました。ごめんなさい寛明。怖がらせるつもりはなかったのよ」
忠平が隠子を朱雀帝から引き剥がしながらやんわりと諭すと、隠子は意外な程素直に謝った。
「……わかっております、母上……」
隠子の謝罪に朱雀帝は、未だ微かに顔を強ばらせながら、俯きがちに言葉を返した。
朱雀帝が抱えるトラウマを察しながら忠平は二人の間に割って入る。
「さて隠子様、何故貴女様が我が屋敷にいるのかお聞きしてもよいですかな?」
「何故って、寛明が京へ戻って来たと耳にしたものですから」
「帝の事は私が責任を持って内裏へお連れしましたものを。貴女は今のご自分の立場をお忘れですか?」
「だって……待てなかったんですもの。我が子が帰って来たと聞いたら、いても立っても要られず、早く会いたい一心でここまで駆け付けてしまいました。この半年、私がどれ程心配していたか、兄上だって御存知でしょう?」
「お気持ちはわかります。ですがご自分の立場をお考え下さいと」
「あら、言わせてもらえば兄上もいけないのですよ。兄上が早く寛明を内裏へお連れくださらないから」
「それは申し訳ございませんでした。しかし帝がこちらに来られたのも、ほんのつい先程の事でして」
「言い訳は結構です。全く、兄上が甘やかすから寛明も我儘を口にするようになってしまったのですよ。昔はあんなに従順で良い子だったのに」
兄に諭されていたはずが、次第にグチグチ反論を口にし始める隠子。
忠平を押し退け、再び愛おしげに愛息子を抱き締めると、彼の存在を確かめるかのように何度も何度も頭を撫でては愛で始める。
「あぁ寛明、無事に帰って来てくれて良かった。この一年、母がどれ程心配していたか……」
「母上、苦しい……離して下さい……」
「いいえ離しません。一年もの間、ろくに連絡もよこさず、本当に、本当に母は心配していたのですよ」
「……誠に申し訳………ございませんでした……母上……」
「もしこのまま、貴方まで母のもとからいなくなってしまったらと、そんな考えばかりが頭をよぎって、母は生きた心地がしませんでしたよ」
「………………ごめんなさい…………」
「お願いです寛明、もう二度と母の側を離れないでくださいね」
端から見たら狂気にも似た愛で方に、朱雀帝からは表情が消えていた。
千紗や秋成といる時には、喜怒哀楽、様々に表情を変えていた朱雀帝が、今はまるで人形のように感情が読み取れない。
そんな彼の初めての姿を側で見ていた千紗は、ただただ不思議そうに、そして不安そうに見守る事しかできなかった。
「あぁ愛しい子、もっと母に貴方の顔を見せておくれ」
「………」
いとおしいげに何度も何度も、頭を撫でつける隠子。
まるでもののけにでもとり憑かれているかのように執拗な程、何度も何度も。
ふと一年前とは違う我が子の変化に気付く。
「あら寛明、貴女何だか随分と大きくなりましたね。そう言えばあと半年もすれば、貴方も十五になるのでしたっけ」
そう。頭一個分低かった身長も、気づけば母と同じ高さに目線があるのだ。
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そんな息子の成長を目の当たりにして、嬉しいような寂しいような、複雑な気持ちがふと隠子の胸に込み上がった。
「やはり男の子は成長が早い」
「はい……母上。私もいつまでも子供ではありません。………だから――」
「そうですね。貴方ももう立派な男子。そろそろ元服も視野に入れなくてはなりませんね」
朱雀帝が何かいいかけた言葉を遮って母が言う。
――『だから、もう子供扱いはやめて下さい』
朱雀帝はそう言いたかった。
けれど、母の前では言いたい事も言えない子供のまま。
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「………チビ助?」
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まるで千紗に助けを求めているかのように。
だが――
「さぁ、寛明、内裏へ帰りましょう。弟の成明も貴方の帰りを今か今かと待っていますよ」
「………………」
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