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第一幕 京•帰還編
再会の喜び
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京よりの召喚命令に従い、小次郎達が坂東を旅立ったのが九月の初頭。そのおよそ一ヶ月が過ぎた十月頭に、一行は京へと到着した。
千紗達にとっては約一年ぶりの――
小次郎にとっては三年ぶりの京だ。
「まさかこんな形でここに戻ってくる事になるとはな……」
馬を降り、千紗の実家でもある小一条院にある藤原忠平の屋敷の門前に立った小次郎は、そうポツリと呟いた。
―――『お前に見合う男になって必ずお前のもとに帰ってくる。だから、それまで待っていてくれ』
3年前、想いを寄せる千紗に対し、そう心に誓って小次郎はこの地を旅立った。
だが、再びこの地を訪れた今、千紗に相応しい男になるどころか謀反の嫌疑をかけられている。
己の置かれた現状に、小次郎の口からはついついタメ息が漏れた。
「何を溜め息など吐いておる。心配せずともお主の疑いならば、この千紗が晴らしてみせる。そう心配するでないぞ、小次郎」
「ん~、気持ちは有難いが……そう言う事じゃないんだけどな」
守りたいはずの子に守ると言われ、小次郎は更に苦笑いを浮かべていた。
「ん???」
だが、千紗には小次郎の苦笑いの理由が分かるはずもなく――
「ええい、いつまでもくよくよするでない! ほら、とりあえず京へ戻って来た事を父上に報告するのであろう! めそめそしてないで、ほら行くぞ!」
“バシン”と小次郎の丸まった背中を力一杯叩く千紗。
その反動で小次郎は三年ぶりに忠平の屋敷の門を潜った。
そんな彼の後に、千紗、秋成、朱雀帝、ヒナの4人も続く。
「父上様~! 父上何処におられますか? 藤原千紗、只今小次郎を連れ、帰って参りました!」
千紗の高く大きな声が広い屋敷に響き渡る。
と、その声に呼応するかのように“ドタバタドタ”と屋敷の奥から騒々しい足音が幾重にも重なり近付いてきた。
「「「???」」」
何事かと千紗達は驚き互いの目を見合わせる。
と、奥から競い会うようにして物凄い勢いで駆け寄ってくる人の姿があった。
「キヨっ、高志っっ!!」
「姉上~!!」
「姫様~~! 千紗姫様~~~~!! よくご無事で」
着物を振り乱して先頭を駆けて来たのは、千紗の世話役である侍女のキヨと、弟の高志。
その後ろには他にも多くの侍女達の姿があった。
先頭を駆けて来たキヨと高志の二人は、千紗の元へ駆け寄るなり裸足で庭へと下りると、そのままの勢いでガバッと千紗に抱き付いた。
「おい……お主達……く、苦しいぞ……」
「も~姉上、また僕を置いていって~!!」
「一年も帰って来ないなんて姫様、キヨは心配で心配で……」
「あ~あ~泣くな泣くな。こうして無事に帰ってきたのだから。な?」
「うわ~ん」
抱き付いて離れないキヨ。
恨めしそうに千紗を睨み付ける高志。
困った様子で慰める千紗。
そして、千紗の側にいたせいかその中に巻き込まれ、身動きが取れずに苦しそうに踠くヒナ。
そんな4人の姿を瞳に捉えながら、屋敷の主、忠平が館の奥から遅れてやって来た。
「父上!!」
忠平の姿を視線に捉えた千紗は嬉しそうに父を呼ぶ。
忠平は穏やかな微笑みを浮かべながら一年ぶりに帰って来た娘に向けて声を掛けた。
「久しいな千紗。まったく、まさか一年も帰って来ないとは思わなんだぞ。本当に心配ばかりかけおって、お前は………」
笑顔の中に呆れを含ませながら、そんな愚痴を投げ掛けた忠平。
だが、言葉とは裏腹に忠平もまた裸足で庭へと降り立つと、その大きな体で千紗と高志、そしてキヨとヒナの4人まとめて一気にギュッと抱き締めた。
父親に抱き締められて、千紗は照れながらも嬉しそうに微笑んでいた。
そんな千紗達の姿を少し離れた位置から見ていた小次郎、秋成、朱雀帝。
不意に千紗に注がれていた忠平の視線が、そんな三人のもとへと注がれる。
「っ………」
絡まった視線に小次郎の瞳は怯えたように揺れる。
「…………」
ついには耐えきれず視線を下へと逸らそうとした、その時――
忠平は「こっちへ来い」と言わんばかりに3人を手招きした。
突然の主からの手招きに、小次郎と秋成は互いに顔を見合わせ、互いの頭に疑問符を頭に浮かべていた。
呼ばれている理由は分からないものの、主の命に逆う事など出来るはずはなく、小次郎と秋成は恐る恐る忠平の元へと近付いく。
その後ろに朱雀帝も続いた。
手の届く距離まで3人が来ると、忠平は千紗達から離れ、今度は小次郎、秋成、朱雀帝の3人を揃ってギュッと抱き締めた。
「っ………」
突然の出来事に驚き体を硬直させる小次郎。
秋成も同様に、緊張からか顔を強ばらせていた。
「久しいな小次郎」
「…………はい、お久し振りです。……忠平様………」
「秋成も、よく無事に娘を連れ帰ってくれた」
「いえ、滅相もございません」
「二人共、元気そうで何よりだ」
忠平と、言葉を交わした事で、二人の緊張はゆっくりと解けて行く。
優しく抱き締めてくれる忠平の温もりと変わらぬ優しさに、ついには全てを委ねた小次郎は、まるで父に甘えるかのように忠平の背中へと手を回した。
「………はい。忠平様も……お元気そうで何よりです」
そう言葉を溢しながら。
千紗達にとっては約一年ぶりの――
小次郎にとっては三年ぶりの京だ。
「まさかこんな形でここに戻ってくる事になるとはな……」
馬を降り、千紗の実家でもある小一条院にある藤原忠平の屋敷の門前に立った小次郎は、そうポツリと呟いた。
―――『お前に見合う男になって必ずお前のもとに帰ってくる。だから、それまで待っていてくれ』
3年前、想いを寄せる千紗に対し、そう心に誓って小次郎はこの地を旅立った。
だが、再びこの地を訪れた今、千紗に相応しい男になるどころか謀反の嫌疑をかけられている。
己の置かれた現状に、小次郎の口からはついついタメ息が漏れた。
「何を溜め息など吐いておる。心配せずともお主の疑いならば、この千紗が晴らしてみせる。そう心配するでないぞ、小次郎」
「ん~、気持ちは有難いが……そう言う事じゃないんだけどな」
守りたいはずの子に守ると言われ、小次郎は更に苦笑いを浮かべていた。
「ん???」
だが、千紗には小次郎の苦笑いの理由が分かるはずもなく――
「ええい、いつまでもくよくよするでない! ほら、とりあえず京へ戻って来た事を父上に報告するのであろう! めそめそしてないで、ほら行くぞ!」
“バシン”と小次郎の丸まった背中を力一杯叩く千紗。
その反動で小次郎は三年ぶりに忠平の屋敷の門を潜った。
そんな彼の後に、千紗、秋成、朱雀帝、ヒナの4人も続く。
「父上様~! 父上何処におられますか? 藤原千紗、只今小次郎を連れ、帰って参りました!」
千紗の高く大きな声が広い屋敷に響き渡る。
と、その声に呼応するかのように“ドタバタドタ”と屋敷の奥から騒々しい足音が幾重にも重なり近付いてきた。
「「「???」」」
何事かと千紗達は驚き互いの目を見合わせる。
と、奥から競い会うようにして物凄い勢いで駆け寄ってくる人の姿があった。
「キヨっ、高志っっ!!」
「姉上~!!」
「姫様~~! 千紗姫様~~~~!! よくご無事で」
着物を振り乱して先頭を駆けて来たのは、千紗の世話役である侍女のキヨと、弟の高志。
その後ろには他にも多くの侍女達の姿があった。
先頭を駆けて来たキヨと高志の二人は、千紗の元へ駆け寄るなり裸足で庭へと下りると、そのままの勢いでガバッと千紗に抱き付いた。
「おい……お主達……く、苦しいぞ……」
「も~姉上、また僕を置いていって~!!」
「一年も帰って来ないなんて姫様、キヨは心配で心配で……」
「あ~あ~泣くな泣くな。こうして無事に帰ってきたのだから。な?」
「うわ~ん」
抱き付いて離れないキヨ。
恨めしそうに千紗を睨み付ける高志。
困った様子で慰める千紗。
そして、千紗の側にいたせいかその中に巻き込まれ、身動きが取れずに苦しそうに踠くヒナ。
そんな4人の姿を瞳に捉えながら、屋敷の主、忠平が館の奥から遅れてやって来た。
「父上!!」
忠平の姿を視線に捉えた千紗は嬉しそうに父を呼ぶ。
忠平は穏やかな微笑みを浮かべながら一年ぶりに帰って来た娘に向けて声を掛けた。
「久しいな千紗。まったく、まさか一年も帰って来ないとは思わなんだぞ。本当に心配ばかりかけおって、お前は………」
笑顔の中に呆れを含ませながら、そんな愚痴を投げ掛けた忠平。
だが、言葉とは裏腹に忠平もまた裸足で庭へと降り立つと、その大きな体で千紗と高志、そしてキヨとヒナの4人まとめて一気にギュッと抱き締めた。
父親に抱き締められて、千紗は照れながらも嬉しそうに微笑んでいた。
そんな千紗達の姿を少し離れた位置から見ていた小次郎、秋成、朱雀帝。
不意に千紗に注がれていた忠平の視線が、そんな三人のもとへと注がれる。
「っ………」
絡まった視線に小次郎の瞳は怯えたように揺れる。
「…………」
ついには耐えきれず視線を下へと逸らそうとした、その時――
忠平は「こっちへ来い」と言わんばかりに3人を手招きした。
突然の主からの手招きに、小次郎と秋成は互いに顔を見合わせ、互いの頭に疑問符を頭に浮かべていた。
呼ばれている理由は分からないものの、主の命に逆う事など出来るはずはなく、小次郎と秋成は恐る恐る忠平の元へと近付いく。
その後ろに朱雀帝も続いた。
手の届く距離まで3人が来ると、忠平は千紗達から離れ、今度は小次郎、秋成、朱雀帝の3人を揃ってギュッと抱き締めた。
「っ………」
突然の出来事に驚き体を硬直させる小次郎。
秋成も同様に、緊張からか顔を強ばらせていた。
「久しいな小次郎」
「…………はい、お久し振りです。……忠平様………」
「秋成も、よく無事に娘を連れ帰ってくれた」
「いえ、滅相もございません」
「二人共、元気そうで何よりだ」
忠平と、言葉を交わした事で、二人の緊張はゆっくりと解けて行く。
優しく抱き締めてくれる忠平の温もりと変わらぬ優しさに、ついには全てを委ねた小次郎は、まるで父に甘えるかのように忠平の背中へと手を回した。
「………はい。忠平様も……お元気そうで何よりです」
そう言葉を溢しながら。
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