178 / 279
第一幕 板東編
板東との別れ
しおりを挟む
「どうした、ヒナ? ヒナも、清太達とここへ残りたいか?」
「…………」
千紗からの質問に、ヒナは困ったような顔で、同郷の清太達と、想い人である秋成とを見比べた。
「……っ!」
チラチラと視線を向けるその中で、不意に秋成と視線が重なって、ヒナの瞳が緊張に奮える。
「ヒナ? どうかしたのか? 顔が少し赤いぞ」
「………………」
暫くの沈黙の後、俯いたヒナはそっと千紗の着物の袖を掴むと、小さく首を横に振った。
「ん? お前は清太達と残らないのか? 私達と共に、京へ帰ってもよいと?」
二度目の千紗からの質問に、ヒナは今度はコクンと小さく頷いてみせて、京へと帰る意思を示した。
「……そうか。では私達と共に参ろうぞ、京へ――」
こうして千紗達は、京から共に旅をして来た清太と春太郎の二人をはじめ、四郎や景行、桔梗、この坂東の地で出会った多くの人々との別れを迎える事となった。
◆◆◆
――2日後
小次郎や千紗達の旅立ちに、小次郎の屋敷で働く多くの家人達が屋敷の門前に集まり、別れを惜しんでいる。
「では行ってくる。四郎、俺が留守の間、豊田と皆の事を頼んだぞ」
「任せとけって兄貴」
「お気をつけて。必ず、無事に帰って来て下さいね、小次郎様」
「あぁ、心配するな桔梗」
「千紗姫様も、どうかお元気で。千紗姫様と過ごしたこの数ヶ月は本当に楽しかったです。いつかまた、この地に遊び来て下さい。約束ですよ」
「うむ、約束だ桔梗。お主も元気で。清太と春太郎の事、宜しく頼んだぞ」
「はい」
「清太、春太郎、お主達はくれぐれも桔梗や四郎、豊田の者達に迷惑をかけぬように。良いな」
「わ~かってるって姫様。姫様も、我儘は程々にな~」
「う゛……清太のくせに生意気ぞ。だが……お主達とこれで暫くは会えぬのだと思うとやはり寂しいな。主等、いつかは京へ帰ってくるのだろ?」
「うん、勿論そのつもりだよ。ヒナや京で僕達の帰りを待ってる仲間の事も心配だしね。僕達はあくまで小次郎の兄貴が留守の間の用心棒さ」
「そうか。それを訊いても安心したぞ春太郎。いつのまにやら主等も頼もしくなって」
「へへへ」
「何照れてるんだよ春太郎。気持ち悪いぞ」
「う、うるさいな~清太」
「コラコラ喧嘩をするな。先程迷惑をかけるなと申したばかりではないか」
「「……は~い」」
「では本当にこれで暫しの別れだ。必ずまた会おうぞ清太、春太郎」
千紗の別れの言葉に、清太と春太郎は力強く頷く。
「豊田の皆も、いつかまた、必ず会える事を――それまでどうか元気で」
「「「はい、千紗姫様。必ずまたお会いしましょう。姫様もどうかお元気で――」」」
こうして千紗は豊田の地を旅立って行く。別れを惜しむ者達との、再会の約束を交わしながら――
「…………」
千紗からの質問に、ヒナは困ったような顔で、同郷の清太達と、想い人である秋成とを見比べた。
「……っ!」
チラチラと視線を向けるその中で、不意に秋成と視線が重なって、ヒナの瞳が緊張に奮える。
「ヒナ? どうかしたのか? 顔が少し赤いぞ」
「………………」
暫くの沈黙の後、俯いたヒナはそっと千紗の着物の袖を掴むと、小さく首を横に振った。
「ん? お前は清太達と残らないのか? 私達と共に、京へ帰ってもよいと?」
二度目の千紗からの質問に、ヒナは今度はコクンと小さく頷いてみせて、京へと帰る意思を示した。
「……そうか。では私達と共に参ろうぞ、京へ――」
こうして千紗達は、京から共に旅をして来た清太と春太郎の二人をはじめ、四郎や景行、桔梗、この坂東の地で出会った多くの人々との別れを迎える事となった。
◆◆◆
――2日後
小次郎や千紗達の旅立ちに、小次郎の屋敷で働く多くの家人達が屋敷の門前に集まり、別れを惜しんでいる。
「では行ってくる。四郎、俺が留守の間、豊田と皆の事を頼んだぞ」
「任せとけって兄貴」
「お気をつけて。必ず、無事に帰って来て下さいね、小次郎様」
「あぁ、心配するな桔梗」
「千紗姫様も、どうかお元気で。千紗姫様と過ごしたこの数ヶ月は本当に楽しかったです。いつかまた、この地に遊び来て下さい。約束ですよ」
「うむ、約束だ桔梗。お主も元気で。清太と春太郎の事、宜しく頼んだぞ」
「はい」
「清太、春太郎、お主達はくれぐれも桔梗や四郎、豊田の者達に迷惑をかけぬように。良いな」
「わ~かってるって姫様。姫様も、我儘は程々にな~」
「う゛……清太のくせに生意気ぞ。だが……お主達とこれで暫くは会えぬのだと思うとやはり寂しいな。主等、いつかは京へ帰ってくるのだろ?」
「うん、勿論そのつもりだよ。ヒナや京で僕達の帰りを待ってる仲間の事も心配だしね。僕達はあくまで小次郎の兄貴が留守の間の用心棒さ」
「そうか。それを訊いても安心したぞ春太郎。いつのまにやら主等も頼もしくなって」
「へへへ」
「何照れてるんだよ春太郎。気持ち悪いぞ」
「う、うるさいな~清太」
「コラコラ喧嘩をするな。先程迷惑をかけるなと申したばかりではないか」
「「……は~い」」
「では本当にこれで暫しの別れだ。必ずまた会おうぞ清太、春太郎」
千紗の別れの言葉に、清太と春太郎は力強く頷く。
「豊田の皆も、いつかまた、必ず会える事を――それまでどうか元気で」
「「「はい、千紗姫様。必ずまたお会いしましょう。姫様もどうかお元気で――」」」
こうして千紗は豊田の地を旅立って行く。別れを惜しむ者達との、再会の約束を交わしながら――
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
浅井長政は織田信長に忠誠を誓う
ピコサイクス
歴史・時代
1570年5月24日、織田信長は朝倉義景を攻めるため越後に侵攻した。その時浅井長政は婚姻関係の織田家か古くから関係ある朝倉家どちらの味方をするか迷っていた。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
連合航空艦隊
ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年のロンドン海軍軍縮条約を機に海軍内では新時代の軍備についての議論が活発に行われるようになった。その中で生れたのが”航空艦隊主義”だった。この考えは当初、一部の中堅将校や青年将校が唱えていたものだが途中からいわゆる海軍左派である山本五十六や米内光政がこの考えを支持し始めて実現のためにの政治力を駆使し始めた。この航空艦隊主義と言うものは”重巡以上の大型艦を全て空母に改装する”というかなり極端なものだった。それでも1936年の条約失効を持って日本海軍は航空艦隊主義に傾注していくことになる。
デモ版と言っては何ですが、こんなものも書く予定があるんだなぁ程度に思ってい頂けると幸いです。
枢軸国
よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年
第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。
主人公はソフィア シュナイダー
彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。
生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う
偉大なる第三帝国に栄光あれ!
Sieg Heil(勝利万歳!)
本能のままに
揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった
もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください!
※更新は不定期になると思います。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる