時ノ糸~絆~

汐野悠翔

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第一幕 板東編

板東との別れ

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「どうした、ヒナ? ヒナも、清太達とここへ残りたいか?」

「…………」


千紗からの質問に、ヒナは困ったような顔で、同郷の清太達と、想い人である秋成とを見比べた。


「……っ!」


チラチラと視線を向けるその中で、不意に秋成と視線が重なって、ヒナの瞳が緊張に奮える。


「ヒナ? どうかしたのか? 顔が少し赤いぞ」

「………………」


暫くの沈黙の後、俯いたヒナはそっと千紗の着物の袖を掴むと、小さく首を横に振った。


「ん? お前は清太達と残らないのか? 私達と共に、京へ帰ってもよいと?」


二度目の千紗からの質問に、ヒナは今度はコクンと小さく頷いてみせて、京へと帰る意思を示した。


「……そうか。では私達と共に参ろうぞ、京へ――」


こうして千紗達は、京から共に旅をして来た清太と春太郎の二人をはじめ、四郎や景行、桔梗、この坂東の地で出会った多くの人々との別れを迎える事となった。


  ◆◆◆


――2日後

小次郎や千紗達の旅立ちに、小次郎の屋敷で働く多くの家人達が屋敷の門前に集まり、別れを惜しんでいる。


「では行ってくる。四郎、俺が留守の間、豊田と皆の事を頼んだぞ」

「任せとけって兄貴」

「お気をつけて。必ず、無事に帰って来て下さいね、小次郎様」

「あぁ、心配するな桔梗」

「千紗姫様も、どうかお元気で。千紗姫様と過ごしたこの数ヶ月は本当に楽しかったです。いつかまた、この地に遊び来て下さい。約束ですよ」

「うむ、約束だ桔梗。お主も元気で。清太と春太郎の事、宜しく頼んだぞ」

「はい」

「清太、春太郎、お主達はくれぐれも桔梗や四郎、豊田の者達に迷惑をかけぬように。良いな」

「わ~かってるって姫様。姫様も、我儘は程々にな~」

「う゛……清太のくせに生意気ぞ。だが……お主達とこれで暫くは会えぬのだと思うとやはり寂しいな。主等、いつかは京へ帰ってくるのだろ?」

「うん、勿論そのつもりだよ。ヒナや京で僕達の帰りを待ってる仲間の事も心配だしね。僕達はあくまで小次郎の兄貴が留守の間の用心棒さ」

「そうか。それを訊いても安心したぞ春太郎。いつのまにやら主等も頼もしくなって」

「へへへ」

「何照れてるんだよ春太郎。気持ち悪いぞ」

「う、うるさいな~清太」

「コラコラ喧嘩をするな。先程迷惑をかけるなと申したばかりではないか」

「「……は~い」」

「では本当にこれで暫しの別れだ。必ずまた会おうぞ清太、春太郎」


千紗の別れの言葉に、清太と春太郎は力強く頷く。


「豊田の皆も、いつかまた、必ず会える事を――それまでどうか元気で」

「「「はい、千紗姫様。必ずまたお会いしましょう。姫様もどうかお元気で――」」」


こうして千紗は豊田の地を旅立って行く。別れを惜しむ者達との、再会の約束を交わしながら――

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