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第一幕 板東編
帰郷の時
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貞盛が小次郎への恨み言を吐き捨て、小次郎屋敷を去ろうとしていた頃、千紗達は屋敷の離れにある彼女達の部屋へ戻るため、渡殿を歩いていた。
風に乗って微かに聞こえ来た音に千紗は振り返り小次郎に尋ねた。
「ん? 今、何か聞こえなかったか? 先程の野良犬とやらか?」
「……いや、俺には何も聞こえなかったが。野良犬だとしたら、四郎が何とかしてくれている。千紗が気にする事はない」
どこか寂しそうに小次郎は言った。そんな小次郎を、千紗は不思議そうに見上げていた。
「で? 話って何だ?」
そうこうしている間にも千紗の部屋までやって来た小次郎は、遠慮なく部屋へ入るなりドカっと腰を下ろして、彼女が小次郎の部屋を尋ね来た理由を改めて問うた。
「あ、小次郎の兄貴、こんな時間にどうしたの?」
そんな小次郎の周りに、部屋でそれぞれ寛いでいた清太や春太郎、ヒナ達が何だ何だと集まって来る。
秋成だけは相変わらず護衛の任に勤しんでいる様子で、部屋の灯りも届かない庭の片隅から、小次郎に向けて小さく頭を下げてみせた。
小次郎からの問い掛けに、「おお、そうだった」と、小次郎と向き合う位置に正座して座った千紗は、珍しく畏まった様子で小次郎の元を尋ねた理由を語り始めた。
「実はな、秋成やチビ助とも話し合ったのだが、お主が京へ上るのと一緒に、私達も京へ帰ろうと思うのだ。だからな小次郎、私達も共に京へ連れて行ってくれぬか?」
千紗の申し出に、小次郎は別段驚いた様子もなく「言うと思った」と小さく漏らしながらクックッと笑い、クシャクシャに千紗の頭を撫でた。
「な、何をする。子供扱いは止めろ」
「勿論、俺もそのつもりだったさ。お前から切り出さなくても、この機会にお前を京へ連れて行く、そのつもりでいた。そろそろお前を、忠平様の元へお返ししなければな」
千紗をからかうような態度とは裏腹に、小次郎の言葉は何処か切なげに聞こえる。
だが、そんな事には微塵も気付いていないだろう千紗は、嬉しそうに微笑んで言った。
「そうか、ならば話は早い。小次郎、お前の無実は京で私自らが説明してやるからな。お主の事は必ず私が守ってやる。だから、大船に乗ったつもりでいろ!」
「それは、頼もしいな」
無邪気な千紗の笑顔に、小次郎も優しい顔付きで穏やかに微笑んで見せながら、目の前に座る千紗の頭を改めてクシャクシャに撫でつけた。
「だからよせ。子供扱いはするなと申しておるではないか」
「そうだぞ! お前のような下賤者が千紗姫様に馴れ馴れしく触るな!」
小次郎に頭を撫でつけられ怒る千紗に、朱雀帝も一緒になって抗議の声を上げた。
「何だ? 寛明も撫でて欲しいのか? よしよし、そう怒らずとも、お前の事も撫でてやるさ」
「よ、よせっ!この私を愚弄する気か? その汚い手を今すぐ退けろ!」
「よ~しよしよし」
嫉妬心からくる朱雀帝の本気の苛立ちも気にせずに、まるでキャンキャン吠える子犬をあやすように、小次郎は千紗と共に朱雀帝の頭を撫で付けた。
そんな三人仲良くじゃれ合う隣で、清太と春太郎の二人は何故か千紗達の話に何やら動揺している様子で互いに顔を見合わせていた。
風に乗って微かに聞こえ来た音に千紗は振り返り小次郎に尋ねた。
「ん? 今、何か聞こえなかったか? 先程の野良犬とやらか?」
「……いや、俺には何も聞こえなかったが。野良犬だとしたら、四郎が何とかしてくれている。千紗が気にする事はない」
どこか寂しそうに小次郎は言った。そんな小次郎を、千紗は不思議そうに見上げていた。
「で? 話って何だ?」
そうこうしている間にも千紗の部屋までやって来た小次郎は、遠慮なく部屋へ入るなりドカっと腰を下ろして、彼女が小次郎の部屋を尋ね来た理由を改めて問うた。
「あ、小次郎の兄貴、こんな時間にどうしたの?」
そんな小次郎の周りに、部屋でそれぞれ寛いでいた清太や春太郎、ヒナ達が何だ何だと集まって来る。
秋成だけは相変わらず護衛の任に勤しんでいる様子で、部屋の灯りも届かない庭の片隅から、小次郎に向けて小さく頭を下げてみせた。
小次郎からの問い掛けに、「おお、そうだった」と、小次郎と向き合う位置に正座して座った千紗は、珍しく畏まった様子で小次郎の元を尋ねた理由を語り始めた。
「実はな、秋成やチビ助とも話し合ったのだが、お主が京へ上るのと一緒に、私達も京へ帰ろうと思うのだ。だからな小次郎、私達も共に京へ連れて行ってくれぬか?」
千紗の申し出に、小次郎は別段驚いた様子もなく「言うと思った」と小さく漏らしながらクックッと笑い、クシャクシャに千紗の頭を撫でた。
「な、何をする。子供扱いは止めろ」
「勿論、俺もそのつもりだったさ。お前から切り出さなくても、この機会にお前を京へ連れて行く、そのつもりでいた。そろそろお前を、忠平様の元へお返ししなければな」
千紗をからかうような態度とは裏腹に、小次郎の言葉は何処か切なげに聞こえる。
だが、そんな事には微塵も気付いていないだろう千紗は、嬉しそうに微笑んで言った。
「そうか、ならば話は早い。小次郎、お前の無実は京で私自らが説明してやるからな。お主の事は必ず私が守ってやる。だから、大船に乗ったつもりでいろ!」
「それは、頼もしいな」
無邪気な千紗の笑顔に、小次郎も優しい顔付きで穏やかに微笑んで見せながら、目の前に座る千紗の頭を改めてクシャクシャに撫でつけた。
「だからよせ。子供扱いはするなと申しておるではないか」
「そうだぞ! お前のような下賤者が千紗姫様に馴れ馴れしく触るな!」
小次郎に頭を撫でつけられ怒る千紗に、朱雀帝も一緒になって抗議の声を上げた。
「何だ? 寛明も撫でて欲しいのか? よしよし、そう怒らずとも、お前の事も撫でてやるさ」
「よ、よせっ!この私を愚弄する気か? その汚い手を今すぐ退けろ!」
「よ~しよしよし」
嫉妬心からくる朱雀帝の本気の苛立ちも気にせずに、まるでキャンキャン吠える子犬をあやすように、小次郎は千紗と共に朱雀帝の頭を撫で付けた。
そんな三人仲良くじゃれ合う隣で、清太と春太郎の二人は何故か千紗達の話に何やら動揺している様子で互いに顔を見合わせていた。
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