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第一幕 板東編
友との決別
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「太郎、お前は自分が犯した過ちを分かっていないのか?」
「過ち? ……私が? いったい私が何をしたと言うんだ?」
「お前はその達者な口と身勝手な行動で、沢山の人達の心を傷付けたんだ」
「私が? 人の心を傷付けた?」
「そうだ。お前は、俺達豊田の民を裏切り傷付けた。そしてお前になついていたあの寛明と言う子供も、あの子との約束を違え傷付けた」
「違っ……約束を違えたわけでは――」
反論しようとする貞盛。その言葉を遮って、小次郎は先を続ける。
「それからお前は、俺達を裏切り味方になったはずの伯父上達をも裏切った。国香の伯父上亡き後、真壁の土地の長であるはずのお前が、伯父上達を裏切り、戦場から逃げ出せば、残されたお前の家族がどんな立場に立たされるか、お前には分からないのか? 彼等までもが裏切り者の汚名をきせられる事になるんだぞ? お前は己が守るべき家族までもを裏切り、傷付けたんだ」
「……そんなつもりは……私はそんなつもりはなかったんだ! 誰も裏切ったつもりはない! 仕方のない事だったんだ。伯父上達についたのだって脅されて無理矢理に……けれど、やはり私は小次郎、お前達とは戦いたくなくて……だから混乱の隙をみて戦場を離れた」
「…………」
「寛明様との約束だって、違えたわけではない。遅くはなってしまったが、今こうして豊田へ参ったのは、寛明様との約束を果たす為でもあるのだから。ほら、な? 私は裏切り者などではないだろう?」
必死に弁解する貞盛に、小次郎はふっと寂しげに笑みを漏らしながら言った。
「……例えお前に裏切りの意図はなかったとしても、お前が多くの人を傷付けた、その事実には変わりない」
「………」
「昔からそうだ。お前は臆病だから……」
「なっ……」
「いつも調子の良い言葉を並べて周りを期待させ、でも途中で躓くと自分の言葉に責任も持たずに投げ出す。どうして、どうしてお前はいつもいつも、そう自分の言葉に責任を持とうとしない? 意思が弱いんだ? 出来ない約束など最初からするな。お前のその弱さが、今までどれだけの人を傷付け、苦しめて来たか分かるか?」
ーー『嘘……ですよね……小次郎様……。貞盛様が……敵側についたなんて嘘ですよね? 説得して下さると約束したのに……』
良兼軍の説得へ赴き、戻って来なかった貞盛に対して豊田の民から溢れた戸惑いと絶望の声。
ーー『貞盛は?貞盛はどこにおる? あやつは無事なのか?』
貞盛の帰りを待ち、不安を募らせていた朱雀帝の言葉。
ーー『…………あぁ憎い!あんたが憎い!あんたのせいで父上は死んだ。兄上や伯父上には裏切られた。あんたのせいで俺は一人ぼっちだ。一人ぼっちの俺が………もう生きている意味なんて……』
父を失い、兄に裏切られ、一人ぼっちになったと嘆く貞盛の弟、繁盛の言葉。
ーー『…………小次郎様。既にご存知かもしれませんが……14年前の事。私は父に嘘をつきました。私を襲ったのは、小次郎様だと。嘘をつきました。でもあの日、本当に襲ったのは…………太郎様。小次郎様は何も悪くなかったのに、私がほんの出来心からついてしまった嘘のせいで……小次郎様を苦しめる事になるなんて……ごめんなさい。小次郎様。本当に…ごめんなさい……。』
下野国府で再会した杏子の過去に犯したと言う罪の告白と懺悔の言葉。
貞盛の嘘に振り回され、傷付けられて来た人々の様々な嘆きの声を思い出して、小次郎は拳に力を籠る。
「良いか太郎。もう二度とここへは来るな。俺達に関わるな。今回ばかりは俺もお前を許すわけにはいかない」
「な、何を言っている小次郎? 私達は従兄弟であろう? 幼なじみであろう? 唯一無二の親友であろ?」
「その縁も今日までだ。俺一人がお前に傷付けれるのならまだ我慢出来た。だが、俺の大事な人達をも傷付けると言うのなら、俺はお前を許すわけにはいかない。その時はたとえ友であろうと……全力で戦う」
「小次郎っ……」
「そうならない為にも……お前はもうこれ以上俺達には関わるな」
静かな怒りを浮かべながら小次郎は、腰に刺していた刀を抜き、ゆっくりと貞盛の顔面へとその切っ先を突き付けた。
小次郎の顔は冷たく、恐ろしいものだった。
だが、その表情の裏には、己が手で友を傷付けたくない、そんな小次郎なりの優しさが隠れていたのだが、臆病者の貞盛には伝わるはずもなく――
小次郎に突き付けられた切っ先に震え上がった貞盛は茂みへと後退りする。
今の彼には殺されるかもしれたいと言う恐怖心しか存在しない。
「小次郎、何かあったのか? 何だか騒がしいようだが?」
「千紗っ?!」
するとその時、突然千紗が小次郎の部屋を訪ねて来た。
「姫様~、私をおいていかないで下さい」
千紗の後ろには、朱雀帝の姿も。
小次郎はとっさに振り返り、貞盛を自身の背に隠す。
二人には貞盛の存在を気付かれないようにと。
「過ち? ……私が? いったい私が何をしたと言うんだ?」
「お前はその達者な口と身勝手な行動で、沢山の人達の心を傷付けたんだ」
「私が? 人の心を傷付けた?」
「そうだ。お前は、俺達豊田の民を裏切り傷付けた。そしてお前になついていたあの寛明と言う子供も、あの子との約束を違え傷付けた」
「違っ……約束を違えたわけでは――」
反論しようとする貞盛。その言葉を遮って、小次郎は先を続ける。
「それからお前は、俺達を裏切り味方になったはずの伯父上達をも裏切った。国香の伯父上亡き後、真壁の土地の長であるはずのお前が、伯父上達を裏切り、戦場から逃げ出せば、残されたお前の家族がどんな立場に立たされるか、お前には分からないのか? 彼等までもが裏切り者の汚名をきせられる事になるんだぞ? お前は己が守るべき家族までもを裏切り、傷付けたんだ」
「……そんなつもりは……私はそんなつもりはなかったんだ! 誰も裏切ったつもりはない! 仕方のない事だったんだ。伯父上達についたのだって脅されて無理矢理に……けれど、やはり私は小次郎、お前達とは戦いたくなくて……だから混乱の隙をみて戦場を離れた」
「…………」
「寛明様との約束だって、違えたわけではない。遅くはなってしまったが、今こうして豊田へ参ったのは、寛明様との約束を果たす為でもあるのだから。ほら、な? 私は裏切り者などではないだろう?」
必死に弁解する貞盛に、小次郎はふっと寂しげに笑みを漏らしながら言った。
「……例えお前に裏切りの意図はなかったとしても、お前が多くの人を傷付けた、その事実には変わりない」
「………」
「昔からそうだ。お前は臆病だから……」
「なっ……」
「いつも調子の良い言葉を並べて周りを期待させ、でも途中で躓くと自分の言葉に責任も持たずに投げ出す。どうして、どうしてお前はいつもいつも、そう自分の言葉に責任を持とうとしない? 意思が弱いんだ? 出来ない約束など最初からするな。お前のその弱さが、今までどれだけの人を傷付け、苦しめて来たか分かるか?」
ーー『嘘……ですよね……小次郎様……。貞盛様が……敵側についたなんて嘘ですよね? 説得して下さると約束したのに……』
良兼軍の説得へ赴き、戻って来なかった貞盛に対して豊田の民から溢れた戸惑いと絶望の声。
ーー『貞盛は?貞盛はどこにおる? あやつは無事なのか?』
貞盛の帰りを待ち、不安を募らせていた朱雀帝の言葉。
ーー『…………あぁ憎い!あんたが憎い!あんたのせいで父上は死んだ。兄上や伯父上には裏切られた。あんたのせいで俺は一人ぼっちだ。一人ぼっちの俺が………もう生きている意味なんて……』
父を失い、兄に裏切られ、一人ぼっちになったと嘆く貞盛の弟、繁盛の言葉。
ーー『…………小次郎様。既にご存知かもしれませんが……14年前の事。私は父に嘘をつきました。私を襲ったのは、小次郎様だと。嘘をつきました。でもあの日、本当に襲ったのは…………太郎様。小次郎様は何も悪くなかったのに、私がほんの出来心からついてしまった嘘のせいで……小次郎様を苦しめる事になるなんて……ごめんなさい。小次郎様。本当に…ごめんなさい……。』
下野国府で再会した杏子の過去に犯したと言う罪の告白と懺悔の言葉。
貞盛の嘘に振り回され、傷付けられて来た人々の様々な嘆きの声を思い出して、小次郎は拳に力を籠る。
「良いか太郎。もう二度とここへは来るな。俺達に関わるな。今回ばかりは俺もお前を許すわけにはいかない」
「な、何を言っている小次郎? 私達は従兄弟であろう? 幼なじみであろう? 唯一無二の親友であろ?」
「その縁も今日までだ。俺一人がお前に傷付けれるのならまだ我慢出来た。だが、俺の大事な人達をも傷付けると言うのなら、俺はお前を許すわけにはいかない。その時はたとえ友であろうと……全力で戦う」
「小次郎っ……」
「そうならない為にも……お前はもうこれ以上俺達には関わるな」
静かな怒りを浮かべながら小次郎は、腰に刺していた刀を抜き、ゆっくりと貞盛の顔面へとその切っ先を突き付けた。
小次郎の顔は冷たく、恐ろしいものだった。
だが、その表情の裏には、己が手で友を傷付けたくない、そんな小次郎なりの優しさが隠れていたのだが、臆病者の貞盛には伝わるはずもなく――
小次郎に突き付けられた切っ先に震え上がった貞盛は茂みへと後退りする。
今の彼には殺されるかもしれたいと言う恐怖心しか存在しない。
「小次郎、何かあったのか? 何だか騒がしいようだが?」
「千紗っ?!」
するとその時、突然千紗が小次郎の部屋を訪ねて来た。
「姫様~、私をおいていかないで下さい」
千紗の後ろには、朱雀帝の姿も。
小次郎はとっさに振り返り、貞盛を自身の背に隠す。
二人には貞盛の存在を気付かれないようにと。
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