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第一幕 板東編
帰ってきた裏切り者
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“ガサガサッ”
そんな小次郎が感傷に浸っていた時、風も吹かぬ夏の夜の蒸し暑い庭に、木々が擦れ合う音が聞こえて来た。
「おい誰だ、そこにいるのは!?」
四郎は音のした方に向かって威嚇を示す。
葉を揺らしたのは自然の仕業ではい。
人の仕業だったから。
小次郎もまた、ゆっくりと視線を空から音のした方へと移した。
「………やぁ、小次郎、四郎。久しぶりだな」
四郎の呼び掛けに庭の木々の茂みから、ヒョッコリと姿を現したのは――
「太郎さんっ?!」
『下野国庁付近の戦い』以来行方知らずとなっていた太郎貞盛だった。
「………どうしてここに太郎さんが?」
「どうしてとは随分だな。言っただろ。私は小次郎達の味方だと」
「味方って、今更……」
小次郎達を裏切って、一度は敵方についたくせに、何の悪びれもなくあっけらかんと味方だと言ってのける貞盛に、四郎は戸惑いの声を漏らした。
そんな四郎に変わって、小次郎は冷ややかな視線を向けながら庭へと降り、ゆっくりと貞盛の元へ歩みを進めて行く。
「太郎、お前よくここへ戻ってこられたな」
「? どうした小次郎? そんな怖い顔をして」
「どうした、じゃない。お前は今更何をしにここへ来た?」
「何をしにって、私はお前の味方でありたい。そう思ったから帰って来たのだ」
「………」
「それに、聞いたぞ小次郎。お前、京から召喚命令が下ったそうだな。京へ戻るのだろう? ならば、私も共に京へ帰ろう。こんな野蛮な所に長居は無用。くだらぬ戦になど、もうこれ以上巻き込まれたくないからな」
「………………」
どこまでもヘラヘラとした態度の太郎に、ついに小次郎の我慢は限界に達した。
「っ?!兄貴??!」
突然、太郎に向かって思いきり殴りかかった小次郎。“ドスッ”と鈍い音が辺りに響いた。
「…………」
一瞬、何が起こったのかわからなかった太郎は、殴られた衝撃でその場に倒れ込むと、ポタポタと地面に滴り落ちる赤い雫をぼんやりと眺めていた。
口の中に広がる鉄の味。そっと口元に手をあてると、その手にはベッタリと赤い液体がついて――
「………」
そこで初めて、地面に滴り落ちる赤い雫が自分の血である事を理解する。
どうやら、歯を食い縛る暇もなかった貞盛は、突然の衝撃で口の中を派手に切ったらしい。
「…………小次……郎?……お前……何を……」
そんな小次郎が感傷に浸っていた時、風も吹かぬ夏の夜の蒸し暑い庭に、木々が擦れ合う音が聞こえて来た。
「おい誰だ、そこにいるのは!?」
四郎は音のした方に向かって威嚇を示す。
葉を揺らしたのは自然の仕業ではい。
人の仕業だったから。
小次郎もまた、ゆっくりと視線を空から音のした方へと移した。
「………やぁ、小次郎、四郎。久しぶりだな」
四郎の呼び掛けに庭の木々の茂みから、ヒョッコリと姿を現したのは――
「太郎さんっ?!」
『下野国庁付近の戦い』以来行方知らずとなっていた太郎貞盛だった。
「………どうしてここに太郎さんが?」
「どうしてとは随分だな。言っただろ。私は小次郎達の味方だと」
「味方って、今更……」
小次郎達を裏切って、一度は敵方についたくせに、何の悪びれもなくあっけらかんと味方だと言ってのける貞盛に、四郎は戸惑いの声を漏らした。
そんな四郎に変わって、小次郎は冷ややかな視線を向けながら庭へと降り、ゆっくりと貞盛の元へ歩みを進めて行く。
「太郎、お前よくここへ戻ってこられたな」
「? どうした小次郎? そんな怖い顔をして」
「どうした、じゃない。お前は今更何をしにここへ来た?」
「何をしにって、私はお前の味方でありたい。そう思ったから帰って来たのだ」
「………」
「それに、聞いたぞ小次郎。お前、京から召喚命令が下ったそうだな。京へ戻るのだろう? ならば、私も共に京へ帰ろう。こんな野蛮な所に長居は無用。くだらぬ戦になど、もうこれ以上巻き込まれたくないからな」
「………………」
どこまでもヘラヘラとした態度の太郎に、ついに小次郎の我慢は限界に達した。
「っ?!兄貴??!」
突然、太郎に向かって思いきり殴りかかった小次郎。“ドスッ”と鈍い音が辺りに響いた。
「…………」
一瞬、何が起こったのかわからなかった太郎は、殴られた衝撃でその場に倒れ込むと、ポタポタと地面に滴り落ちる赤い雫をぼんやりと眺めていた。
口の中に広がる鉄の味。そっと口元に手をあてると、その手にはベッタリと赤い液体がついて――
「………」
そこで初めて、地面に滴り落ちる赤い雫が自分の血である事を理解する。
どうやら、歯を食い縛る暇もなかった貞盛は、突然の衝撃で口の中を派手に切ったらしい。
「…………小次……郎?……お前……何を……」
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