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第一幕 板東編
杏子と千紗の初対面
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「謝らないで下さい。貴方は何も悪くない。逆に謝らなくてはいけないのは俺達の方だ。太郎が貴方に仕出かした事、それはいくら謝っても許されない事だ」
「…………小次郎……様……?」
「あの時、俺が太郎の行動に気づいて、あいつを止めていたら……こんな事にはならなかった。俺はずっと貴方に謝りたかった。太郎を止められなかった事、そのせいで貴方を傷付けてしまった事。ずっと……ずっと謝りたかった。なのに、あの時の俺には謝りに行く勇気がなくて……俺の弱さがこんなにも長い間、貴方を苦しめていたのですね。本当に……本当に申し訳ない事をしました」
「…………そんな……そんなこと……」
小次郎の言葉に、杏子姫は更に泣きじゃくる。
ずっと恨まれていたと思っていた。嫌われたと。
なのに小次郎は、恨むどころかこんなにも自分を気にかけてくれていた。その事が嬉しくて、小次郎の優しさに、胸の奥深くに仕舞い込んだはずの気持ちが一気に溢れだす。
だが、小次郎への想いが強くなればなる程、貞盛を憎む気持ちも比例して強くなる。
貞盛を憎めば憎む程に、反比例して大好きな小次郎を傷付けてしまう事になるのに。
その相反する気持ちに、杏子の心は今まで以上に押し潰されそうになって、今はただただ泣きじゃくる事しか出来なかった。
そんな杏子を前に戸惑う小次郎。何故彼女はこんなにも泣いているのか。どうしたら泣き止んでくれるのか。女の扱いに馴れていない小次郎はただあたふたするしかなかった。
と、そんな時、二人の前に予想もしなかった人物が現れる。
「小次郎~! 小次郎は無事か~!!」
小次郎が下野国府へと呼び出されたと訊いて駆けつけた千紗だった。
突然の千紗の登場に、小次郎は勿論の事、小次郎の家人達もまた目を丸くして驚いた。
「千紗姫様っ!! 秋成様も! 何故貴方様方がここに?」
「小次郎が謀反の疑いにかけられるかもしれないと聞いてな、追って参ったのだ。で? 小次郎はどこだ? この建物の中におるのか?」
「い、いえ。既にご沙汰は伝えられておりますゆえ、ご退室なされております」
「何?! では小次郎は、いったいどうなったのじゃ?」
「それは……平良兼殿、源護殿、そして将門様の3人には、京への召喚命令が下されたそうにございます。京のお偉方自らが詮議するとかで」
「何、召喚命令だと?! なんとバカな事を! わざわざ京へなど行く必要はない! 小次郎の無実はこの私が証明してやる!」
そう言って、今にも国府に乗り込んで行きそうな勢いの千紗を、小次郎の供の者達が必死に止めにかかる。
そんな賑やかな声は、少し離れた場所にいた小次郎の耳にもしっかりと聞こえていて
「千紗、お前どうしてここに?」
呆れにも似た声で小次郎は千紗を呼んだ。
小次郎の聞き慣れた声に、千紗は安堵の表情で振り返る。
「おぉ、小次郎! そんな所におったの、か――?」
千紗に背中を見せていた杏子もまた、小次郎の視線の先へと振り返る。二人の女の視線が絡まった。
「小次郎様……あの方達は?」
「あぁ。あいつは、京でお世話になった方の御息女と、その従者です」
「御息女?」
「あ~……と、あんな身なりをしてますが、あいつは一応は女なんですよ。ちょっと理由があって、今は俺の屋敷に居候してて」
「……そう。可愛らしい方……」
杏子姫の瞳が切なげに伏せられる。
「…………小次郎……様……?」
「あの時、俺が太郎の行動に気づいて、あいつを止めていたら……こんな事にはならなかった。俺はずっと貴方に謝りたかった。太郎を止められなかった事、そのせいで貴方を傷付けてしまった事。ずっと……ずっと謝りたかった。なのに、あの時の俺には謝りに行く勇気がなくて……俺の弱さがこんなにも長い間、貴方を苦しめていたのですね。本当に……本当に申し訳ない事をしました」
「…………そんな……そんなこと……」
小次郎の言葉に、杏子姫は更に泣きじゃくる。
ずっと恨まれていたと思っていた。嫌われたと。
なのに小次郎は、恨むどころかこんなにも自分を気にかけてくれていた。その事が嬉しくて、小次郎の優しさに、胸の奥深くに仕舞い込んだはずの気持ちが一気に溢れだす。
だが、小次郎への想いが強くなればなる程、貞盛を憎む気持ちも比例して強くなる。
貞盛を憎めば憎む程に、反比例して大好きな小次郎を傷付けてしまう事になるのに。
その相反する気持ちに、杏子の心は今まで以上に押し潰されそうになって、今はただただ泣きじゃくる事しか出来なかった。
そんな杏子を前に戸惑う小次郎。何故彼女はこんなにも泣いているのか。どうしたら泣き止んでくれるのか。女の扱いに馴れていない小次郎はただあたふたするしかなかった。
と、そんな時、二人の前に予想もしなかった人物が現れる。
「小次郎~! 小次郎は無事か~!!」
小次郎が下野国府へと呼び出されたと訊いて駆けつけた千紗だった。
突然の千紗の登場に、小次郎は勿論の事、小次郎の家人達もまた目を丸くして驚いた。
「千紗姫様っ!! 秋成様も! 何故貴方様方がここに?」
「小次郎が謀反の疑いにかけられるかもしれないと聞いてな、追って参ったのだ。で? 小次郎はどこだ? この建物の中におるのか?」
「い、いえ。既にご沙汰は伝えられておりますゆえ、ご退室なされております」
「何?! では小次郎は、いったいどうなったのじゃ?」
「それは……平良兼殿、源護殿、そして将門様の3人には、京への召喚命令が下されたそうにございます。京のお偉方自らが詮議するとかで」
「何、召喚命令だと?! なんとバカな事を! わざわざ京へなど行く必要はない! 小次郎の無実はこの私が証明してやる!」
そう言って、今にも国府に乗り込んで行きそうな勢いの千紗を、小次郎の供の者達が必死に止めにかかる。
そんな賑やかな声は、少し離れた場所にいた小次郎の耳にもしっかりと聞こえていて
「千紗、お前どうしてここに?」
呆れにも似た声で小次郎は千紗を呼んだ。
小次郎の聞き慣れた声に、千紗は安堵の表情で振り返る。
「おぉ、小次郎! そんな所におったの、か――?」
千紗に背中を見せていた杏子もまた、小次郎の視線の先へと振り返る。二人の女の視線が絡まった。
「小次郎様……あの方達は?」
「あぁ。あいつは、京でお世話になった方の御息女と、その従者です」
「御息女?」
「あ~……と、あんな身なりをしてますが、あいつは一応は女なんですよ。ちょっと理由があって、今は俺の屋敷に居候してて」
「……そう。可愛らしい方……」
杏子姫の瞳が切なげに伏せられる。
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