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第一幕 板東編
杏子の告白
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十四年ぶりに再会した彼女は、幼少の頃には想像もつかない程、色気溢れる大人の女性に成長していた。
少し吊り上がった目許が幼少の頃の面影を残しつつ、もとから整った顔立ちであった彼女は、あの頃よりも更に目、鼻だちがはっきりして、遠くからでも美しさが際立っている。
小次郎の供につけていた家人達も、初めて見る彼女の姿に頬を染めた。
「小次郎様? あ、あちらのお方は……どなたですか?」
「………昔の知り合いだ。今は太郎の奥方でもある方」
「貞盛様の? ……なんとお美しい……」
見とれる家人達の隣で、小次郎はどうすべきか悩んでいた。
杏子姫とはあの一件以来会ってはいない。易々と話し掛けて良いものか、小次郎は迷った。
だが、そんな小次郎の迷いを余所に、杏子姫はなかなか呼び掛けに答えようとしない小次郎に代わって、自ら小次郎の元へと近付いて来る。
「………杏子姫様っ?!」
その姿に慌てて小次郎は馬から降りると、彼女の元へ駆け寄った。
「な、なんだ? 小次郎様とあの方はどう言う仲なのだ?」
「もしや貞盛様に知られてはならぬ、道ならぬ恋を?」
二人の姿に、供の者達がざわめき出す。そんな彼等の好奇の目を気にして、小次郎は杏子姫をもといた場所まで連れて行くと、供の者達から死角になるよう、木の影へと入った。
「杏子姫様……ご無沙汰しております」
「…………小次郎……様……」
十四年振りに見る小次郎の姿。十四年前とは違い、自分より頭1個分も上にある小次郎の顔を潤んだ瞳で見上げる。
大人になった小次郎。そんな彼の姿を目に焼き付けるかのように、杏子はじっと見つめ続けた。
「あの……杏子姫様、今日はどうしてここに?」
真っ直ぐに見つめてくる杏子の視線に堪えられなくなった小次郎は、視線をさ迷わせ気味に問い掛けた。
小次郎の戸惑いに気付いたのだろう杏子姫は、自分の大胆さに頬を赤らめて下を向いた。
「あの……今日は………小次郎様に………謝らなくてはと……」
「謝る? 何故貴方が俺に?」
「父から聞きました。小次郎様に京への召喚命令が下るだらうと」
「…………」
「実はその件には我が父、源護が一枚噛んでいるのです」
罪の意識に耐えきれなくて、杏子姫は小次郎に全てを打ち明ける決意を固め、今この場に立っていた。たとえ小次郎に恨まれようと、嫌われようと、彼女が知る全てを話す為に。
そんな彼女の話を、小次郎はただ静に聞いていた。
「それだけではありません。小次郎様に対して平氏の皆様方が仕掛けた戦の数々は、元を辿れば全てに我が父、源護が絡んでいます」
「…………」
だが、いざ打ち明けようとすると、小次郎に軽蔑されるかもしれない恐怖から、彼女の瞳にはみるみるうちに涙が溜まって行く。
「…………小次郎様。既にご存知かもしれませんが、十四年前の事……私は父に嘘をつきました。私を襲ったのは小次郎様だと、嘘をつきました」
「…………」
「でもあの日、本当に私を襲ったのは……太郎様。小次郎様は何も悪くなかったのに、私がほんの出来心からついてしまった嘘のせいで、何も悪くない小次郎様がこうして苦しむ事になるなんて……」
ついには杏子姫は泣きじゃくる。
「ごめんなさい小次郎様。本当に……本当にごめんなさい……」
ポロポロと杏子の大きな瞳からこぼれ落ちる涙。それを小次郎はそっと指で拭ってやった。
「っ………」
予想もしていなかった出来事に、杏子姫は驚き小次郎を見上げた。
少し吊り上がった目許が幼少の頃の面影を残しつつ、もとから整った顔立ちであった彼女は、あの頃よりも更に目、鼻だちがはっきりして、遠くからでも美しさが際立っている。
小次郎の供につけていた家人達も、初めて見る彼女の姿に頬を染めた。
「小次郎様? あ、あちらのお方は……どなたですか?」
「………昔の知り合いだ。今は太郎の奥方でもある方」
「貞盛様の? ……なんとお美しい……」
見とれる家人達の隣で、小次郎はどうすべきか悩んでいた。
杏子姫とはあの一件以来会ってはいない。易々と話し掛けて良いものか、小次郎は迷った。
だが、そんな小次郎の迷いを余所に、杏子姫はなかなか呼び掛けに答えようとしない小次郎に代わって、自ら小次郎の元へと近付いて来る。
「………杏子姫様っ?!」
その姿に慌てて小次郎は馬から降りると、彼女の元へ駆け寄った。
「な、なんだ? 小次郎様とあの方はどう言う仲なのだ?」
「もしや貞盛様に知られてはならぬ、道ならぬ恋を?」
二人の姿に、供の者達がざわめき出す。そんな彼等の好奇の目を気にして、小次郎は杏子姫をもといた場所まで連れて行くと、供の者達から死角になるよう、木の影へと入った。
「杏子姫様……ご無沙汰しております」
「…………小次郎……様……」
十四年振りに見る小次郎の姿。十四年前とは違い、自分より頭1個分も上にある小次郎の顔を潤んだ瞳で見上げる。
大人になった小次郎。そんな彼の姿を目に焼き付けるかのように、杏子はじっと見つめ続けた。
「あの……杏子姫様、今日はどうしてここに?」
真っ直ぐに見つめてくる杏子の視線に堪えられなくなった小次郎は、視線をさ迷わせ気味に問い掛けた。
小次郎の戸惑いに気付いたのだろう杏子姫は、自分の大胆さに頬を赤らめて下を向いた。
「あの……今日は………小次郎様に………謝らなくてはと……」
「謝る? 何故貴方が俺に?」
「父から聞きました。小次郎様に京への召喚命令が下るだらうと」
「…………」
「実はその件には我が父、源護が一枚噛んでいるのです」
罪の意識に耐えきれなくて、杏子姫は小次郎に全てを打ち明ける決意を固め、今この場に立っていた。たとえ小次郎に恨まれようと、嫌われようと、彼女が知る全てを話す為に。
そんな彼女の話を、小次郎はただ静に聞いていた。
「それだけではありません。小次郎様に対して平氏の皆様方が仕掛けた戦の数々は、元を辿れば全てに我が父、源護が絡んでいます」
「…………」
だが、いざ打ち明けようとすると、小次郎に軽蔑されるかもしれない恐怖から、彼女の瞳にはみるみるうちに涙が溜まって行く。
「…………小次郎様。既にご存知かもしれませんが、十四年前の事……私は父に嘘をつきました。私を襲ったのは小次郎様だと、嘘をつきました」
「…………」
「でもあの日、本当に私を襲ったのは……太郎様。小次郎様は何も悪くなかったのに、私がほんの出来心からついてしまった嘘のせいで、何も悪くない小次郎様がこうして苦しむ事になるなんて……」
ついには杏子姫は泣きじゃくる。
「ごめんなさい小次郎様。本当に……本当にごめんなさい……」
ポロポロと杏子の大きな瞳からこぼれ落ちる涙。それを小次郎はそっと指で拭ってやった。
「っ………」
予想もしていなかった出来事に、杏子姫は驚き小次郎を見上げた。
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