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第一幕 板東編
14年ぶりの再会
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「将門殿」
詮議の後、小次郎は下野守である橘保国に声を掛けられた。
「将門殿、此度の事……申し訳ない事をした」
謝罪を述べる保国の意図が分からず首を傾げる小次郎。
「そなたが謀反の意志がない事は、あの日間近で見ていた私はよく理解しているつもりだ。それなのに、そなたを庇いきれなかった。誠に申し訳ない」
「そんな、滅相もございません。下野を騒がせてしまった事、下野守様の屋敷に手違いとは言え火を付けてしまった事、これは紛れもない事実です。謀反の意は無かったとしても、少なからず咎を負う覚悟はしておりました」
「だがな、そなたは我が命の恩人。私としては訴えるつもりなどなかったのだ……」
「そうなのですか?」
保国からの思わぬ告白に、小次郎からは小さな驚きの声が漏れる。
「うむ。それなのに源護殿の強引な口添えがあって、どうにも突っ張りきれなんだ」
「護殿が?」
「そうだ。将門殿、あの男には気を付けろ。あの男は欲深い男。あの手この手でそなたを陥れるつもりだぞ」
保国は、国府の館を出ていく護の後ろ姿を恐ろしげに見つめながら、声を潜めて話した。
「……ご忠告、ありがとうございます。心に留めておきます」
「うむ。此度の事、我々下野国府はそなたの味方だ。京へは再び文を送っておく。実際に見聞きした事を、嘘偽りなく京に伝えるつもりだ。それはきっと、そなたを擁護する内容になるだろう。どれだけ力になれるか分からぬが、我らは味方。それだけは覚えておいてくれ」
「…………勿体なきお言葉。感謝いたします」
小次郎は、保国に深々と頭を下げ部屋を後にした。
ーー『あの男には気を付けろ。あの男は欲深い男。あの手この手でそなたを陥れるつもりだぞ』
退室後、小次郎の胸に中には保国から言われた言葉が不気味に響いていた。
考えてみれば、伯父達との間に確執が生まれ始めたのは、伯父達が源家の娘達と再婚してから。
そう考えると、色々と辻褄が合うか。
そんな事を考えながら下野国府の館を出た小次郎は、供の者に預けていた馬に跨がる。
ふと顔を上げた先、遠く離れた場所には護と良兼、二人の背中が見えて、不安げな瞳で彼等の後ろ姿を見つめた。
「小次郎様っ……」
ふとその時、後ろから高い女の声で名前を呼ばれる。
供に女を連れて来た覚えはないと、名を呼ぶ女人に心当たりのなかった小次郎は、驚いたように振り返る。
すると、少し離れた位置に生えていた木の影から、一人の女がそっと姿を現した。
被っていた笠をそっと外す女。
その顔に小次郎は息を呑んだ。
「貴方はもしかして………杏子姫……様?」
詮議の後、小次郎は下野守である橘保国に声を掛けられた。
「将門殿、此度の事……申し訳ない事をした」
謝罪を述べる保国の意図が分からず首を傾げる小次郎。
「そなたが謀反の意志がない事は、あの日間近で見ていた私はよく理解しているつもりだ。それなのに、そなたを庇いきれなかった。誠に申し訳ない」
「そんな、滅相もございません。下野を騒がせてしまった事、下野守様の屋敷に手違いとは言え火を付けてしまった事、これは紛れもない事実です。謀反の意は無かったとしても、少なからず咎を負う覚悟はしておりました」
「だがな、そなたは我が命の恩人。私としては訴えるつもりなどなかったのだ……」
「そうなのですか?」
保国からの思わぬ告白に、小次郎からは小さな驚きの声が漏れる。
「うむ。それなのに源護殿の強引な口添えがあって、どうにも突っ張りきれなんだ」
「護殿が?」
「そうだ。将門殿、あの男には気を付けろ。あの男は欲深い男。あの手この手でそなたを陥れるつもりだぞ」
保国は、国府の館を出ていく護の後ろ姿を恐ろしげに見つめながら、声を潜めて話した。
「……ご忠告、ありがとうございます。心に留めておきます」
「うむ。此度の事、我々下野国府はそなたの味方だ。京へは再び文を送っておく。実際に見聞きした事を、嘘偽りなく京に伝えるつもりだ。それはきっと、そなたを擁護する内容になるだろう。どれだけ力になれるか分からぬが、我らは味方。それだけは覚えておいてくれ」
「…………勿体なきお言葉。感謝いたします」
小次郎は、保国に深々と頭を下げ部屋を後にした。
ーー『あの男には気を付けろ。あの男は欲深い男。あの手この手でそなたを陥れるつもりだぞ』
退室後、小次郎の胸に中には保国から言われた言葉が不気味に響いていた。
考えてみれば、伯父達との間に確執が生まれ始めたのは、伯父達が源家の娘達と再婚してから。
そう考えると、色々と辻褄が合うか。
そんな事を考えながら下野国府の館を出た小次郎は、供の者に預けていた馬に跨がる。
ふと顔を上げた先、遠く離れた場所には護と良兼、二人の背中が見えて、不安げな瞳で彼等の後ろ姿を見つめた。
「小次郎様っ……」
ふとその時、後ろから高い女の声で名前を呼ばれる。
供に女を連れて来た覚えはないと、名を呼ぶ女人に心当たりのなかった小次郎は、驚いたように振り返る。
すると、少し離れた位置に生えていた木の影から、一人の女がそっと姿を現した。
被っていた笠をそっと外す女。
その顔に小次郎は息を呑んだ。
「貴方はもしかして………杏子姫……様?」
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