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第一幕 板東編
恋を知らない二人
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「千紗姫様は、あの小次郎と言う男の事が好きなのですか?」
次の日ーー
朝食の席で朱雀帝が千紗に向かって突然、そんな質問を投げ掛けた。
急にどうしたのかと、千紗は不思議そうに朱雀帝を見る。
いつもの如く警護の為、庭で立っていた秋成は驚いた顔で振り返る。
「どうしたのだ、突然」
「………いえ、別に。ただ……気になって……」
「そうか。ん~そうだな。好きかと聞かれたら勿論好きだ。小次郎は幼い頃から共に過ごした大切な、家族みたいなものだからな」
「いえ、私はそう言う事を聞きたいのではなく、男として好いているのですかと」
「? だから、好きだと言っている。奴は大切な家族だ。小次郎も、それに秋成も、私にとっては大切な家族で、大好きな人達だ」
そこで突然、自分の名前も思いがけず上げられて、ゴホゴホと咳き込む秋成。
「どうした秋成? 風邪でもひいたのか?」
「い、いえ……なんでも」
「? そうか? 気を付けろよ。夏風邪はしつこいと聞くからな」
咳き込む秋成を心配する千紗の姿を横目に見ながら、とぼけた彼女の返答に朱雀帝は苛立ちを隠せず声を荒げた。
「だから私は、そう言う事が聞きたいのではなくっ!」
「???」
「…………もう良いです。今の話忘れて下さい」
朱雀帝が何故突然に声を荒げたのか、本当に分からないといった様子でキョトンとした顔を向ける千紗に、これ以上は訊く気も失せて、朱雀帝は不機嫌そうに食事の箸を進めた。
「何じゃ、変な奴じゃな。あぁ、分かったぞ。お主を入れなかったから不貞腐れておるのだな? なんだなんだ、そう言う事か。最近のチビ助は嫌いではないぞ。単純な所が扱い易く、可愛げが出てきたからな。チビ助の事も私は好きだぞ」
「すっ………??!」
機嫌を損ねた朱雀帝を宥めるべく、千紗が語った思いもかけない言葉に、朱雀帝は持っていた箸をポトリと床に落とした。そして、顔を真っ赤に染めて硬直する。
「そうそう。そう言う所が、からかいがいがあって面白いのだ」
顔を真っ赤に硬直した朱雀帝の頭をポンポンと叩きながら、千紗は無邪気な顔で楽しそうに笑っていた。
そんな二人の様子を、少し離れた庭から秋成は、呆れたように、でもどこか微笑ましげに溜め息を吐きながら見守っていた。
千紗はまだ知らぬのだろう。“恋”と言うものを。知らぬからこそ、簡単に好きだと口にできる。
そんな子供のような千紗の姿にほっとする反面、いつかは恋を知って遠くに行ってしまうだろう彼女の姿を想像して、秋成は少し寂しい気持ちを覚えていた。
「……?」
今一瞬感じた“寂しい”と思う感情の理由が分からずに、首を傾げる秋成。
秋成もまた、そんな寂しさの理由に気付いてはいない。
まだ、己の中に眠る“想い”に気付かぬままに、千紗と秋成、それから小次郎、三人の――
いや、朱雀帝を含め四人の恋はゆっくりと、でも確実に動きはじめていた。
次の日ーー
朝食の席で朱雀帝が千紗に向かって突然、そんな質問を投げ掛けた。
急にどうしたのかと、千紗は不思議そうに朱雀帝を見る。
いつもの如く警護の為、庭で立っていた秋成は驚いた顔で振り返る。
「どうしたのだ、突然」
「………いえ、別に。ただ……気になって……」
「そうか。ん~そうだな。好きかと聞かれたら勿論好きだ。小次郎は幼い頃から共に過ごした大切な、家族みたいなものだからな」
「いえ、私はそう言う事を聞きたいのではなく、男として好いているのですかと」
「? だから、好きだと言っている。奴は大切な家族だ。小次郎も、それに秋成も、私にとっては大切な家族で、大好きな人達だ」
そこで突然、自分の名前も思いがけず上げられて、ゴホゴホと咳き込む秋成。
「どうした秋成? 風邪でもひいたのか?」
「い、いえ……なんでも」
「? そうか? 気を付けろよ。夏風邪はしつこいと聞くからな」
咳き込む秋成を心配する千紗の姿を横目に見ながら、とぼけた彼女の返答に朱雀帝は苛立ちを隠せず声を荒げた。
「だから私は、そう言う事が聞きたいのではなくっ!」
「???」
「…………もう良いです。今の話忘れて下さい」
朱雀帝が何故突然に声を荒げたのか、本当に分からないといった様子でキョトンとした顔を向ける千紗に、これ以上は訊く気も失せて、朱雀帝は不機嫌そうに食事の箸を進めた。
「何じゃ、変な奴じゃな。あぁ、分かったぞ。お主を入れなかったから不貞腐れておるのだな? なんだなんだ、そう言う事か。最近のチビ助は嫌いではないぞ。単純な所が扱い易く、可愛げが出てきたからな。チビ助の事も私は好きだぞ」
「すっ………??!」
機嫌を損ねた朱雀帝を宥めるべく、千紗が語った思いもかけない言葉に、朱雀帝は持っていた箸をポトリと床に落とした。そして、顔を真っ赤に染めて硬直する。
「そうそう。そう言う所が、からかいがいがあって面白いのだ」
顔を真っ赤に硬直した朱雀帝の頭をポンポンと叩きながら、千紗は無邪気な顔で楽しそうに笑っていた。
そんな二人の様子を、少し離れた庭から秋成は、呆れたように、でもどこか微笑ましげに溜め息を吐きながら見守っていた。
千紗はまだ知らぬのだろう。“恋”と言うものを。知らぬからこそ、簡単に好きだと口にできる。
そんな子供のような千紗の姿にほっとする反面、いつかは恋を知って遠くに行ってしまうだろう彼女の姿を想像して、秋成は少し寂しい気持ちを覚えていた。
「……?」
今一瞬感じた“寂しい”と思う感情の理由が分からずに、首を傾げる秋成。
秋成もまた、そんな寂しさの理由に気付いてはいない。
まだ、己の中に眠る“想い”に気付かぬままに、千紗と秋成、それから小次郎、三人の――
いや、朱雀帝を含め四人の恋はゆっくりと、でも確実に動きはじめていた。
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