162 / 285
第一幕 板東編
ほっと出来る場所
しおりを挟む
「帰って来たぞ~! 小次郎様達が帰って来たぞ~~~!!」
およそ1日ぶりに帰って来た小次郎の小部隊に、留守を預かってい豊田の民人達は歓喜に沸いた。
その日から豊田では、勝利を祝して連日宴が開かれる事となった。
と言うのも、圧倒的な兵力を覆し、勝利を治めた小次郎の武勇伝は瞬く間に坂東中へ広がり、小次郎の勝利を祝いたいと近隣諸国の豪族達が、代わる代わる小次郎の屋敷を訪ね来ていたから――
彼等は、表向きには「小次郎の勝利を祝いたい」と理由を述べているが、その本心には現職上総介である平良兼を打ち負かした平小次郎将門と仲良くしたい、手を組みたい、そんな思惑あってのことだろう。
小次郎自身、彼等が腹に抱える思惑は重々承知していたが、何者の侵略も許さない、強くなりたいと覚悟した小次郎にとっても、協力者が増える事は望ましい事に思えた。故に互いの仲を深めるべく、連日宴となるわけだ。
――だが、今は味方を増やすべきだと頭では理解しながらも、飲めや唄えやのどんちゃん騒ぎが半月近くも続いては、さすがの小次郎も逃げ出したくなるというもの。
「兄貴~~~! 兄貴、何処行った~~~~!?」
客を待たせて宴の席から忽然と姿を消した小次郎を探して、お目付け役の四郎の声が今日も屋敷中に響いていた。
「千紗……」
「小次郎? お主、どうしてここに? 今日も宴が開かれているのではなかったか?」
四郎が必死になって探している中、騒ぎの原因小次郎はと言えば、千紗が使う屋敷の離れを訪ね来ていた。
あの日以来――
戦場で貞盛が姿をくらませたあの日以来、朱雀帝は体の不調を訴え寝込むようになっていた。
そんな彼を看病し、付き添う千紗に会う為に。
「抜け出してきた」
「抜け出して………?」
真面目な性分の小次郎からの、思いもよらない返答に千紗は思わず吹き出してしまう。
「姫様? 部屋に誰か?」
部屋から聞こえた千紗の笑い声に、庭に控えていた秋成から御簾越しに声が掛かる。
「心配ない。小次郎だ」
「兄上が? ……そうですか。では俺は少しの間席を外しますね」
二人に気を使ったのか、その言葉を最後に秋成はすっと気配を消した。
そんな秋成の気遣いに感謝しながら、千紗は小次郎へと向き直る。
「どうした小次郎。そんな我儘な子供のような事を言って、お主らしくもない」
「我儘って、千紗にだけは言われたくないな。そもそも、たまには我儘を言っても良いと、諭してくれたのは千紗だったじゃないか」
「はて? そんな事を言った覚えはないぞ?」
「伯父上達との戦の前に、自分の気持ちに素直になれと言ったじゃないか。素直になると言う事はつまり、我儘になると言う事。違うか?」
「ふむ。そう言われてみれば確かにそうだな。そうか、ならば私は我儘なのではなく、自分の気持ちに素直に生きているだけと言う事か。ふむふむ、なるほど。私は素直な人間だったのだな」
「……千紗の場合は度が過ぎるけどな。……まぁいい。とにかく、今日くらいは大目に見てくれ」
呆れた笑いを浮かべながら小次郎は、口元に人差し指をあてて見せながら、千紗の隣へと座り込む。
どこか茶目っ気を含む小次郎の姿に千紗は楽しそうに笑った。
それは、京にいた頃の小次郎の姿と重なったから。
およそ1日ぶりに帰って来た小次郎の小部隊に、留守を預かってい豊田の民人達は歓喜に沸いた。
その日から豊田では、勝利を祝して連日宴が開かれる事となった。
と言うのも、圧倒的な兵力を覆し、勝利を治めた小次郎の武勇伝は瞬く間に坂東中へ広がり、小次郎の勝利を祝いたいと近隣諸国の豪族達が、代わる代わる小次郎の屋敷を訪ね来ていたから――
彼等は、表向きには「小次郎の勝利を祝いたい」と理由を述べているが、その本心には現職上総介である平良兼を打ち負かした平小次郎将門と仲良くしたい、手を組みたい、そんな思惑あってのことだろう。
小次郎自身、彼等が腹に抱える思惑は重々承知していたが、何者の侵略も許さない、強くなりたいと覚悟した小次郎にとっても、協力者が増える事は望ましい事に思えた。故に互いの仲を深めるべく、連日宴となるわけだ。
――だが、今は味方を増やすべきだと頭では理解しながらも、飲めや唄えやのどんちゃん騒ぎが半月近くも続いては、さすがの小次郎も逃げ出したくなるというもの。
「兄貴~~~! 兄貴、何処行った~~~~!?」
客を待たせて宴の席から忽然と姿を消した小次郎を探して、お目付け役の四郎の声が今日も屋敷中に響いていた。
「千紗……」
「小次郎? お主、どうしてここに? 今日も宴が開かれているのではなかったか?」
四郎が必死になって探している中、騒ぎの原因小次郎はと言えば、千紗が使う屋敷の離れを訪ね来ていた。
あの日以来――
戦場で貞盛が姿をくらませたあの日以来、朱雀帝は体の不調を訴え寝込むようになっていた。
そんな彼を看病し、付き添う千紗に会う為に。
「抜け出してきた」
「抜け出して………?」
真面目な性分の小次郎からの、思いもよらない返答に千紗は思わず吹き出してしまう。
「姫様? 部屋に誰か?」
部屋から聞こえた千紗の笑い声に、庭に控えていた秋成から御簾越しに声が掛かる。
「心配ない。小次郎だ」
「兄上が? ……そうですか。では俺は少しの間席を外しますね」
二人に気を使ったのか、その言葉を最後に秋成はすっと気配を消した。
そんな秋成の気遣いに感謝しながら、千紗は小次郎へと向き直る。
「どうした小次郎。そんな我儘な子供のような事を言って、お主らしくもない」
「我儘って、千紗にだけは言われたくないな。そもそも、たまには我儘を言っても良いと、諭してくれたのは千紗だったじゃないか」
「はて? そんな事を言った覚えはないぞ?」
「伯父上達との戦の前に、自分の気持ちに素直になれと言ったじゃないか。素直になると言う事はつまり、我儘になると言う事。違うか?」
「ふむ。そう言われてみれば確かにそうだな。そうか、ならば私は我儘なのではなく、自分の気持ちに素直に生きているだけと言う事か。ふむふむ、なるほど。私は素直な人間だったのだな」
「……千紗の場合は度が過ぎるけどな。……まぁいい。とにかく、今日くらいは大目に見てくれ」
呆れた笑いを浮かべながら小次郎は、口元に人差し指をあてて見せながら、千紗の隣へと座り込む。
どこか茶目っ気を含む小次郎の姿に千紗は楽しそうに笑った。
それは、京にいた頃の小次郎の姿と重なったから。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

金蝶の武者
ポテ吉
歴史・時代
時は天正十八年。
関東に覇を唱えた小田原北条氏は、関白豊臣秀吉により滅亡した。
小田原征伐に参陣していない常陸国府中大掾氏は、領地没収の危機になった。
御家存続のため、選ばれたのは当主大掾清幹の従弟三村春虎である。
「おんつぁま。いくらなんでもそったらこと、むりだっぺよ」
春虎は嘆いた。
金の揚羽の前立ての武者の奮戦記 ──
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
戦国三法師伝
kya
歴史・時代
歴史物だけれども、誰にでも見てもらえるような作品にしていこうと思っています。
異世界転生物を見る気分で読んでみてください。
本能寺の変は戦国の覇王織田信長ばかりではなく織田家当主織田信忠をも戦国の世から葬り去り、織田家没落の危機を迎えるはずだったが。
信忠が子、三法師は平成日本の人間が転生した者だった…

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
不屈の葵
ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む!
これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。
幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。
本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。
家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。
今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。
家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。
笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。
戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。
愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目!
歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』
ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!

永き夜の遠の睡りの皆目醒め
七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。
新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。
しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。
近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。
首はどこにあるのか。
そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。
※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる