時ノ糸~絆~

汐野悠翔

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第一幕 板東編

ほっと出来る場所

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「帰って来たぞ~! 小次郎様達が帰って来たぞ~~~!!」


およそ1日ぶりに帰って来た小次郎の小部隊に、留守を預かってい豊田の民人達は歓喜に沸いた。

その日から豊田では、勝利を祝して連日宴が開かれる事となった。

と言うのも、圧倒的な兵力を覆し、勝利を治めた小次郎の武勇伝は瞬く間に坂東中へ広がり、小次郎の勝利を祝いたいと近隣諸国の豪族達が、代わる代わる小次郎の屋敷を訪ね来ていたから――

彼等は、表向きには「小次郎の勝利を祝いたい」と理由を述べているが、その本心には現職上総介である平良兼を打ち負かした平小次郎将門と仲良くしたい、手を組みたい、そんな思惑あってのことだろう。

小次郎自身、彼等が腹に抱える思惑は重々承知していたが、何者の侵略も許さない、強くなりたいと覚悟した小次郎にとっても、協力者が増える事は望ましい事に思えた。故に互いの仲を深めるべく、連日宴となるわけだ。


――だが、今は味方を増やすべきだと頭では理解しながらも、飲めや唄えやのどんちゃん騒ぎが半月近くも続いては、さすがの小次郎も逃げ出したくなるというもの。



「兄貴~~~! 兄貴、何処行った~~~~!?」


客を待たせて宴の席から忽然と姿を消した小次郎を探して、お目付け役の四郎の声が今日も屋敷中に響いていた。


「千紗……」

「小次郎? お主、どうしてここに? 今日も宴が開かれているのではなかったか?」


四郎が必死になって探している中、騒ぎの原因小次郎はと言えば、千紗が使う屋敷の離れを訪ね来ていた。


あの日以来――
戦場で貞盛が姿をくらませたあの日以来、朱雀帝は体の不調を訴え寝込むようになっていた。
そんな彼を看病し、付き添う千紗に会う為に。


「抜け出してきた」

「抜け出して………?」


真面目な性分の小次郎からの、思いもよらない返答に千紗は思わず吹き出してしまう。


「姫様? 部屋に誰か?」


部屋から聞こえた千紗の笑い声に、庭に控えていた秋成から御簾越しに声が掛かる。


「心配ない。小次郎だ」

「兄上が? ……そうですか。では俺は少しの間席を外しますね」


二人に気を使ったのか、その言葉を最後に秋成はすっと気配を消した。

そんな秋成の気遣いに感謝しながら、千紗は小次郎へと向き直る。


「どうした小次郎。そんな我儘な子供のような事を言って、お主らしくもない」

「我儘って、千紗にだけは言われたくないな。そもそも、たまには我儘を言っても良いと、諭してくれたのは千紗だったじゃないか」

「はて? そんな事を言った覚えはないぞ?」

「伯父上達との戦の前に、自分の気持ちに素直になれと言ったじゃないか。素直になると言う事はつまり、我儘になると言う事。違うか?」

「ふむ。そう言われてみれば確かにそうだな。そうか、ならば私は我儘なのではなく、自分の気持ちに素直に生きているだけと言う事か。ふむふむ、なるほど。私は素直な人間だったのだな」

「……千紗の場合は度が過ぎるけどな。……まぁいい。とにかく、今日くらいは大目に見てくれ」


呆れた笑いを浮かべながら小次郎は、口元に人差し指をあてて見せながら、千紗の隣へと座り込む。

どこか茶目っ気を含む小次郎の姿に千紗は楽しそうに笑った。

それは、京にいた頃の小次郎の姿と重なったから。


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