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第一幕 板東編
嵐の後で②
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「……護殿、皆の言う通り。確かに火を放ったのは小次郎軍でした。けれど、助けてくれたのもまた小次郎です。我等を助けてくれた小次郎を謀反人として国に差し出すのは……いかがなものかと……」
「そうだな。あの者は身を挺して我が館を炎から守ってくれた。屋敷を燃やした責任もしっかりとると言っておったし、改めて謝罪に来るとも言っていた。謀反の意思があるとは到底思えぬ。それに」
「それに、何です?」
「……それに将門の側には太政大臣様の一の姫様が味方しておられたのだ」
「太政大臣様の? そんな馬鹿な話……奴の虚言に決まっております。惑わされないでください下野守様」
保国の言い分に、護の反応は冷ややかだった。
実際にその場にいなかった護には、保国の話は到底信じられなかったのだろう。敵軍に嘘をつかれているか、もしくは保国が嘘をついているとしか思えなかった。
「だ、だがな……もしあの姫君が本当に偉い方の姫君で、更にあの火計は姫君が承知してやった事だとしたら、将門と言う男を謀反人として訴えた私が逆に、太政大臣様を陥れようと企む謀反人となりはしないか? やはり今回の事を京へ報告する必要はないと思うのだ……」
皆が反対した。
護以外は皆が。
それどころか――
「護殿。この戦、我等の完敗です。これ以上戦を続けるのはもうやめにしませんか?」
良兼は、小次郎に対する己の戦意が既に薄れている事実を遠慮がちに語った。
「何を……何を馬鹿な事を申しておる! 勝つまで戦う、それが我等坂東の武士だ。違うか良兼殿。逃げるなどこの私が許さぬぞ!」
思い通りにならない良兼等を、護は血走った目で睨みながら怒鳴り付ける。
義父である護の怒りに、良兼は飛び上がって怯えを示した。
「保国殿も、もし先程の私の願いを聞きいれていただけないのならば、この先貴方様への貢ぎ物は一切止めさせていただきます。貴方様が今、下野守の地位に立てていらっしゃるのは、この私の後ろ楯があったからこそ。その事実をよもや忘れたわけではございますまい?」
「それは………」
保国もまた、護の脅しにタジタジになって言葉を詰まらせた。
「よいか、どんな手を使ってでも平将門を討ち取るのだ。坂東にあの男をこれ以上のさばらせるな!」
最後にそれだけ怒鳴り散らすと、護は足音荒く保国の館を後にする。彼の後ろに娘達も続いた。
「な、撫子………」
「では良兼様。ご健闘をお祈りしております。負けたままでいるつもりなら私、貴方様と夫婦でいる事は出来ません。だって私、弱い男は嫌いですもの」
キツネのように目を細めて、涼しい微笑を浮かべながら去っていく愛する妻、撫子。
その背中を良兼はただただ呆然と見送る事しか出来なかった。
「そうだな。あの者は身を挺して我が館を炎から守ってくれた。屋敷を燃やした責任もしっかりとると言っておったし、改めて謝罪に来るとも言っていた。謀反の意思があるとは到底思えぬ。それに」
「それに、何です?」
「……それに将門の側には太政大臣様の一の姫様が味方しておられたのだ」
「太政大臣様の? そんな馬鹿な話……奴の虚言に決まっております。惑わされないでください下野守様」
保国の言い分に、護の反応は冷ややかだった。
実際にその場にいなかった護には、保国の話は到底信じられなかったのだろう。敵軍に嘘をつかれているか、もしくは保国が嘘をついているとしか思えなかった。
「だ、だがな……もしあの姫君が本当に偉い方の姫君で、更にあの火計は姫君が承知してやった事だとしたら、将門と言う男を謀反人として訴えた私が逆に、太政大臣様を陥れようと企む謀反人となりはしないか? やはり今回の事を京へ報告する必要はないと思うのだ……」
皆が反対した。
護以外は皆が。
それどころか――
「護殿。この戦、我等の完敗です。これ以上戦を続けるのはもうやめにしませんか?」
良兼は、小次郎に対する己の戦意が既に薄れている事実を遠慮がちに語った。
「何を……何を馬鹿な事を申しておる! 勝つまで戦う、それが我等坂東の武士だ。違うか良兼殿。逃げるなどこの私が許さぬぞ!」
思い通りにならない良兼等を、護は血走った目で睨みながら怒鳴り付ける。
義父である護の怒りに、良兼は飛び上がって怯えを示した。
「保国殿も、もし先程の私の願いを聞きいれていただけないのならば、この先貴方様への貢ぎ物は一切止めさせていただきます。貴方様が今、下野守の地位に立てていらっしゃるのは、この私の後ろ楯があったからこそ。その事実をよもや忘れたわけではございますまい?」
「それは………」
保国もまた、護の脅しにタジタジになって言葉を詰まらせた。
「よいか、どんな手を使ってでも平将門を討ち取るのだ。坂東にあの男をこれ以上のさばらせるな!」
最後にそれだけ怒鳴り散らすと、護は足音荒く保国の館を後にする。彼の後ろに娘達も続いた。
「な、撫子………」
「では良兼様。ご健闘をお祈りしております。負けたままでいるつもりなら私、貴方様と夫婦でいる事は出来ません。だって私、弱い男は嫌いですもの」
キツネのように目を細めて、涼しい微笑を浮かべながら去っていく愛する妻、撫子。
その背中を良兼はただただ呆然と見送る事しか出来なかった。
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