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第一幕 板東編
嵐の後で
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小次郎軍が兵を引き上げてから程無くして、良兼軍に援軍が駆け付けた。
「良兼様、良正様、御無事ですか?!」
「おぉ撫子、来てくれたのか」
「太郎様、繁盛様!」
「……義姉様」
夫の安否を心配した彼等の妻達が、父源護の軍を連れ下野国司の館まで駆け込んで来たのだ。
「良兼殿、遅くなり申した」
「これはこれは護殿。来てくださったのですか。ありがとうございます。ですが申し訳ない。小次郎軍は既に撤退した後でございまして……」
良兼の話に護は周囲を見回す。
二千以上いたはずの兵が、今や二百にも満たない数になっていたこと、更には兵士達のくたくたに疲れきった姿に護は烈火の如く怒り出す。
「こ、これはどう言う事か良兼殿。二千を越える数の兵を用意してやったと言うのに、そなた達は負けたと申すのか? そんな……ばかな事が……?」
「面目次第もございません」
「それに何故館が焼かれている。もしやそなた達が自棄を起こして焼いたのか?」
「め、滅相もございません! 下野国司であらせられる保国殿の屋敷に火を放つなど、そんな恐れ多い事この良兼には出来ませぬ」
「ならば何故館が燃えている。鉄壁の要塞にいながらして、兵数兵数で劣る相手に何故負けたのだ?」
「…………それは…………」
良兼は小次郎との戦の全容を全て源護に話して聞かせた。
小次郎に待ち伏せされた挙げ句挟み撃ちにあい、味方の兵を削がれた事。逃げた先で火計にあい、何故か敵であるはずの小次郎軍と共に火消しに励んだ事。己の恥も何もかもを全て、包み隠さず話して訊かせた。
良兼の話に、何故か急に狂ったように笑いはじめる護。
「……は、ははは。ははははは。そうか、屋敷に火を放ったは将門の方だったか。何と恐れ多い事を」
「……護……殿?」
「良兼殿、良正殿、ようやった。ようやってくれたな」
先程まで酷く苛立っていたはずが、突然上機嫌に良兼と良正を労いはじめた護の変化に、二人は訳が分からず、訝しんだ様子で互いに顔を見合せた。
「ふふふ、ふはははは。これで将門を追い詰められる。天は我らに味方した。ふははははは。まだ終わっていない。この戦ははまだ終わってなどいないぞ!」
「………護殿、それはいったいどう言う意味でしょうか?」
狂ったように、いつまでも高笑いを浮かべる護に、良兼は恐怖を感じながらも恐る恐る聞き返した。
「将門は国の役人に牙を向いたのだ。これは謀反も同じ事。ですよね下野守――橘保国様」
突然護に話を振られ、ギクリと肩を跳ねあげる保国。
「そ、それは……」
「今すぐ、京にこの事実を報せて下さい。奴は謀反人だと御上に訴えて下さい」
「ちょ、ちょっと待ってくだせえ。それは違います」
護の保国への要求に、慌てて口を出したのは良兼軍の兵士達。
「将門様の軍は一生懸命、下野守様のお屋敷の火を消そうとしていたんです。我等を救って下さったのは将門様だ。あの方がいなかったら屋敷は全焼して、おいら達は今頃この館と一緒に丸焼きになっていたかもしれねぇ。我等を救って下さったあの方が謀反人だなんてとんでもねぇ話です」
「「「そうだ、そうだ!」」」
一人の兵士の異議に他の兵士達も皆力強く賛同する。
「良兼様、良正様、御無事ですか?!」
「おぉ撫子、来てくれたのか」
「太郎様、繁盛様!」
「……義姉様」
夫の安否を心配した彼等の妻達が、父源護の軍を連れ下野国司の館まで駆け込んで来たのだ。
「良兼殿、遅くなり申した」
「これはこれは護殿。来てくださったのですか。ありがとうございます。ですが申し訳ない。小次郎軍は既に撤退した後でございまして……」
良兼の話に護は周囲を見回す。
二千以上いたはずの兵が、今や二百にも満たない数になっていたこと、更には兵士達のくたくたに疲れきった姿に護は烈火の如く怒り出す。
「こ、これはどう言う事か良兼殿。二千を越える数の兵を用意してやったと言うのに、そなた達は負けたと申すのか? そんな……ばかな事が……?」
「面目次第もございません」
「それに何故館が焼かれている。もしやそなた達が自棄を起こして焼いたのか?」
「め、滅相もございません! 下野国司であらせられる保国殿の屋敷に火を放つなど、そんな恐れ多い事この良兼には出来ませぬ」
「ならば何故館が燃えている。鉄壁の要塞にいながらして、兵数兵数で劣る相手に何故負けたのだ?」
「…………それは…………」
良兼は小次郎との戦の全容を全て源護に話して聞かせた。
小次郎に待ち伏せされた挙げ句挟み撃ちにあい、味方の兵を削がれた事。逃げた先で火計にあい、何故か敵であるはずの小次郎軍と共に火消しに励んだ事。己の恥も何もかもを全て、包み隠さず話して訊かせた。
良兼の話に、何故か急に狂ったように笑いはじめる護。
「……は、ははは。ははははは。そうか、屋敷に火を放ったは将門の方だったか。何と恐れ多い事を」
「……護……殿?」
「良兼殿、良正殿、ようやった。ようやってくれたな」
先程まで酷く苛立っていたはずが、突然上機嫌に良兼と良正を労いはじめた護の変化に、二人は訳が分からず、訝しんだ様子で互いに顔を見合せた。
「ふふふ、ふはははは。これで将門を追い詰められる。天は我らに味方した。ふははははは。まだ終わっていない。この戦ははまだ終わってなどいないぞ!」
「………護殿、それはいったいどう言う意味でしょうか?」
狂ったように、いつまでも高笑いを浮かべる護に、良兼は恐怖を感じながらも恐る恐る聞き返した。
「将門は国の役人に牙を向いたのだ。これは謀反も同じ事。ですよね下野守――橘保国様」
突然護に話を振られ、ギクリと肩を跳ねあげる保国。
「そ、それは……」
「今すぐ、京にこの事実を報せて下さい。奴は謀反人だと御上に訴えて下さい」
「ちょ、ちょっと待ってくだせえ。それは違います」
護の保国への要求に、慌てて口を出したのは良兼軍の兵士達。
「将門様の軍は一生懸命、下野守様のお屋敷の火を消そうとしていたんです。我等を救って下さったのは将門様だ。あの方がいなかったら屋敷は全焼して、おいら達は今頃この館と一緒に丸焼きになっていたかもしれねぇ。我等を救って下さったあの方が謀反人だなんてとんでもねぇ話です」
「「「そうだ、そうだ!」」」
一人の兵士の異議に他の兵士達も皆力強く賛同する。
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