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第一幕 板東編
門が開かれる時
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“ドンドン、ドンドンドン”
「開けよ!ここを開けよ! 我が名は千紗。太政大臣藤原忠平が子、藤原千紗なり! 平良兼、良正に命じる。今すぐこの門が開けよ!」
門を叩く音と共に外から聞こえて来たのは、甲高い女の声。その女が名乗る名に、館の主であり現下野守である橘保国が驚きの声をあげた。
「だ……太政上大臣……藤原忠平様?! な、何故そのような高貴な御方のご息女様がこのような場所に?!」
顔を真っ青にして驚く保国の姿に繁盛は不思議そうに訪ねる。
「下野守様? 何をそのように驚かれておられるのですか?」
だが驚いているのは保国だけではなかったようで、良兼までもが脅えた様子で繁盛に対して強い口調で命じた。
「繁盛、今すぐ門を開けよ!」
「な、伯父上まで何を。何度も申している通り、たとえ伯父上の命と言えどもここを開けるわけには――」
「バカ者! これはもうわしの命ではない。これは……国家の命じゃ。お主は太政大臣様に……国家に逆らうと言うのか?!」
「国家って、何故そうなるのですか。私はただ――」
小次郎に負けたくないだけと、言いかけた繁盛の言葉を遮って、良兼は怒声を浴びせた。
「黙れ繁盛! お主は知らぬのか。太政大臣様と言えばこの国で帝の次に偉い御方。その御方のご息女とあらば命令に背くわけには行くまい!」
「帝の次に?! ……いや……でも待って下さい伯父上。そのような高貴な御方が、何故この板東にいると言うのですか。しかも将門軍と一緒に。きっとこれも俺達を誘きだす為の奴等の罠に決まっています。少し冷静になってお考え下さい!」
「た、確かに……そうだな。そのような高貴な御方が坂東の、しかも戦場になどいるはずが……いや、だが……しかし……」
太政大臣の名に萎縮する良兼。何がなんでも門を開ける事を拒否する繁盛。意見の噛み合わない二人の言い争いに痺れをきらした下野守、保国が割って入る。
「ええい!ごちゃごちゃ言っていないで、早くそこを開けよ!」
そして、もう他人の内輪揉めになど構っていられないと保国は、門の前に立つ繁盛を乱暴に押し退け、自らの手で門を固く閉ざしていた閂に手をかけた。
「お止めください下野守様!!」
「黙れ黙れ! これ以上お主等のくだらぬ喧嘩に付き合う道理はないわ!」
流石の繁盛も、国の役人である下野守を切りつけるわけにはいかず、ついに保国の手によって固く閉ざされていた屋敷の門が開け放たれた。
◆◆◆
「門が……門が開くぞ~!」
待ち望んだ瞬間に、屋敷の外の小次郎軍は歓喜に沸く。
「姫様、御下がり下さい」
「お前は下がっていろ、千紗」
それまで先頭に立って開門に尽力していた千紗の前に、秋成と小次郎が千紗を庇うように一歩踏出す。二人の背に守られながら千紗は、小次郎軍の兵士達に向けて大きな声で叫んだ。
「よいか皆のもの、私が合図をしたら皆で中へ突入するぞ」
千紗の命に「おぉぉ~~~!」と勇ましい声で小次郎軍の兵士達は返事をした。
そして、完全に館の門が開放された時、ついに千紗は彼等に合図を送った。
「突入じゃ~~~!!」
千紗の合図に小次郎軍は勢い良く一斉に館内へと雪崩れ込んで行く。
敵の侵入を許してしまった良兼軍の兵士達は、全てを諦めたように絶望していた。
彼等の瞳に宿る光はもうありはしない。戦う気力も失くし次々と武器を手離し目を閉じて行く。
まるで敵に殺されるその瞬間を待っているかのように――
だが、“その瞬間”はいくら待っても訪れなかった。
屋敷内へと侵入した小次郎軍は、何故か良兼軍の兵士達には目もくれないで、燃え盛る炎に向かって屋敷の奥へと進んで行く。
「開けよ!ここを開けよ! 我が名は千紗。太政大臣藤原忠平が子、藤原千紗なり! 平良兼、良正に命じる。今すぐこの門が開けよ!」
門を叩く音と共に外から聞こえて来たのは、甲高い女の声。その女が名乗る名に、館の主であり現下野守である橘保国が驚きの声をあげた。
「だ……太政上大臣……藤原忠平様?! な、何故そのような高貴な御方のご息女様がこのような場所に?!」
顔を真っ青にして驚く保国の姿に繁盛は不思議そうに訪ねる。
「下野守様? 何をそのように驚かれておられるのですか?」
だが驚いているのは保国だけではなかったようで、良兼までもが脅えた様子で繁盛に対して強い口調で命じた。
「繁盛、今すぐ門を開けよ!」
「な、伯父上まで何を。何度も申している通り、たとえ伯父上の命と言えどもここを開けるわけには――」
「バカ者! これはもうわしの命ではない。これは……国家の命じゃ。お主は太政大臣様に……国家に逆らうと言うのか?!」
「国家って、何故そうなるのですか。私はただ――」
小次郎に負けたくないだけと、言いかけた繁盛の言葉を遮って、良兼は怒声を浴びせた。
「黙れ繁盛! お主は知らぬのか。太政大臣様と言えばこの国で帝の次に偉い御方。その御方のご息女とあらば命令に背くわけには行くまい!」
「帝の次に?! ……いや……でも待って下さい伯父上。そのような高貴な御方が、何故この板東にいると言うのですか。しかも将門軍と一緒に。きっとこれも俺達を誘きだす為の奴等の罠に決まっています。少し冷静になってお考え下さい!」
「た、確かに……そうだな。そのような高貴な御方が坂東の、しかも戦場になどいるはずが……いや、だが……しかし……」
太政大臣の名に萎縮する良兼。何がなんでも門を開ける事を拒否する繁盛。意見の噛み合わない二人の言い争いに痺れをきらした下野守、保国が割って入る。
「ええい!ごちゃごちゃ言っていないで、早くそこを開けよ!」
そして、もう他人の内輪揉めになど構っていられないと保国は、門の前に立つ繁盛を乱暴に押し退け、自らの手で門を固く閉ざしていた閂に手をかけた。
「お止めください下野守様!!」
「黙れ黙れ! これ以上お主等のくだらぬ喧嘩に付き合う道理はないわ!」
流石の繁盛も、国の役人である下野守を切りつけるわけにはいかず、ついに保国の手によって固く閉ざされていた屋敷の門が開け放たれた。
◆◆◆
「門が……門が開くぞ~!」
待ち望んだ瞬間に、屋敷の外の小次郎軍は歓喜に沸く。
「姫様、御下がり下さい」
「お前は下がっていろ、千紗」
それまで先頭に立って開門に尽力していた千紗の前に、秋成と小次郎が千紗を庇うように一歩踏出す。二人の背に守られながら千紗は、小次郎軍の兵士達に向けて大きな声で叫んだ。
「よいか皆のもの、私が合図をしたら皆で中へ突入するぞ」
千紗の命に「おぉぉ~~~!」と勇ましい声で小次郎軍の兵士達は返事をした。
そして、完全に館の門が開放された時、ついに千紗は彼等に合図を送った。
「突入じゃ~~~!!」
千紗の合図に小次郎軍は勢い良く一斉に館内へと雪崩れ込んで行く。
敵の侵入を許してしまった良兼軍の兵士達は、全てを諦めたように絶望していた。
彼等の瞳に宿る光はもうありはしない。戦う気力も失くし次々と武器を手離し目を閉じて行く。
まるで敵に殺されるその瞬間を待っているかのように――
だが、“その瞬間”はいくら待っても訪れなかった。
屋敷内へと侵入した小次郎軍は、何故か良兼軍の兵士達には目もくれないで、燃え盛る炎に向かって屋敷の奥へと進んで行く。
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