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第一幕 板東編
合流
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その頃――
清太が呼びに行った千紗と春太郎、そして朱雀帝の一向は、小次郎軍の待つ下野国司の館付近までやって来ていた。
「ん?」
千紗を後ろに乗せ、先頭を走っていた清太が不意に馬を止める。
周りには木も家も、隠れる場所などどこにもない、永遠と続く田んぼの畦道。
その見晴らしの良い場所で、前方から馬に乗ってやってくる人影に気付いたのだ。
「どうしたのじゃ清太?」
「誰か来る」
清太の言葉に、千紗を始め清太の操る馬の後ろついてきていた春太郎と朱雀帝の間に緊張が走った。
「そこにいるのは誰?」
そんな皆の緊張を一身に背負って、普段はおちゃらけている清太が珍しく真剣な声色で前方の人影に向かって短く問い掛ける。
すると、清太のに前方の人影も同じく警戒を示すかと思いきや、何故か速度を速めてこちらに向かって駆け寄って来て――
「千紗姫様っ!」
と、暗闇の中千紗の名を呼んだ。
そのどこか聞き慣れた声に、緊張から強ばっていた千紗の顔が一瞬にしてほどけて行く。
そして清太の操る馬から飛び降り、人影の方へと自ら駆け寄って行った。「秋成!」と叫びながら。
「千紗姫様、お待ちしておりました。清太もご苦労だったな」
「な、何だよ、秋成の兄貴かよ~。もぉ、脅かすなんて酷いじゃないか。ってか何で兄貴がここにいるんだよ~?」
人影の正体に、一気に緊張がほどけた様子の清太。
へなへなと馬の首もとに抱き付くと、先程の緊張した声から一転、情けない程力の抜けた声でそう疑問を投げ掛けた。
「驚かせてすまなかったな。だが、急ぎ千紗姫様をお連れしなければと思って、ここまでお迎えにあがりました」
「……秋成………では、小次郎が……」
千紗を迎えに来たと言う秋成に、千紗が何かを言いかけた時、突如後ろにいた春太郎と朱雀帝が「わっ」と大きな声を上げる。
「何じゃ、何事じゃ?!」
「あ、あれ……あれを……見て……」
そう言いながら、すっと前方を指差す春太郎。
どこか怯えた様子の春太郎と朱雀帝に首を傾げながら、春太郎が指し示した方向へと振り返る千紗。
瞬間、目に飛び込んで来た光景に、千紗は絶句した。
「な……なんじゃ……あれは……」
月も星も見えない暗いはずの夜空を、不気味な紅色がじわりじわりと染め上げて行くのだ。
「馬鹿な、どうして……」
その紅く染まりゆく空に、秋成もまた驚きの声を上げた。
「秋成! 戦況は? 戦況は今どうなっておる? 小次郎は本気で伯父達を討とうとしているのか?」
「いえ……兄上は、敵を殲滅するよう決断を迫られ、酷く苦しんでいるご様子でした。本当は誰かに戦いを止めて欲しいと、俺には兄上が心の中でそう叫んでいるよう見えました。だからここに貴方様をお呼びした。今ならば、まだ間に合う。まだ兄上を止められる。そう思ったから俺はここへ……」
千紗を呼んだのに、なのにどうして?
どうして館の方角から火の手が?
秋成は小次郎の本心を見謝ったと言うのか?
ここまで第三者として、冷静に物事を見守り、判断して来たはずの秋成の心が焦った。
「秋成!」
「っ!?」
呆然と立ち尽くす秋成の腕を、不意に掴んだ千紗は彼の操る馬に強引に登ろうとする。
「千紗……姫様……」
「ボサッとしている場合ではないぞ。お主の言う通り、まだ小次郎の心に迷いがあるというならば、今からでも小次郎を止めに行かねば! ほら、早く小次郎の元へ案内してくれ!」
「……姫様……」
秋成を見上げる千紗の瞳は、どこまでも真っ直ぐで迷いがない。千紗はまだ、諦めてはいない。小次郎と交わした約束を、諦めてなど――
千紗の瞳は悔しい程真っ直ぐに小次郎の元へと向けられていて、彼女の瞳には小次郎の姿しか写ってはいない。そんないつも通りの千紗の姿に思わず笑いを溢しながら、彼女が握るその手をギュッと握り返し、千紗の体をグイっと抱き寄せた秋成は、自身が乗る馬へと力一杯引き上げた。
「仰せのままに。行きましょう、兄上の元へ!」
そして、千紗を連れ力を得た秋成は、もと来た道を颯爽と馬で駆け出して行く。
秋成の後に続けとばかりに、清太や春太郎もまた小次郎の元へと馬を急がせた。
『神様、どうか……どうかお願いします。小次郎と、小次郎の伯父達をお守り下さい。みんなみんな……どうか無事で……お願いします………』
激しく揺れる馬の背中。何とかそこから振り落とされまいと、必死に鬣にしがみつきながら、千紗は何度も何度も天に祈った。
すると千紗の頬へ、ポツリと一滴の水が流れ落ちて――
「…………雨?」
思わず空を仰ぎ見た千紗。
見上げた空からはポツリポツリと、幾重にも水の雫が降り注いでいた。
そしてそれはまるで、千紗の祈りに応えるかのように、次第に勢いを増して行った。
清太が呼びに行った千紗と春太郎、そして朱雀帝の一向は、小次郎軍の待つ下野国司の館付近までやって来ていた。
「ん?」
千紗を後ろに乗せ、先頭を走っていた清太が不意に馬を止める。
周りには木も家も、隠れる場所などどこにもない、永遠と続く田んぼの畦道。
その見晴らしの良い場所で、前方から馬に乗ってやってくる人影に気付いたのだ。
「どうしたのじゃ清太?」
「誰か来る」
清太の言葉に、千紗を始め清太の操る馬の後ろついてきていた春太郎と朱雀帝の間に緊張が走った。
「そこにいるのは誰?」
そんな皆の緊張を一身に背負って、普段はおちゃらけている清太が珍しく真剣な声色で前方の人影に向かって短く問い掛ける。
すると、清太のに前方の人影も同じく警戒を示すかと思いきや、何故か速度を速めてこちらに向かって駆け寄って来て――
「千紗姫様っ!」
と、暗闇の中千紗の名を呼んだ。
そのどこか聞き慣れた声に、緊張から強ばっていた千紗の顔が一瞬にしてほどけて行く。
そして清太の操る馬から飛び降り、人影の方へと自ら駆け寄って行った。「秋成!」と叫びながら。
「千紗姫様、お待ちしておりました。清太もご苦労だったな」
「な、何だよ、秋成の兄貴かよ~。もぉ、脅かすなんて酷いじゃないか。ってか何で兄貴がここにいるんだよ~?」
人影の正体に、一気に緊張がほどけた様子の清太。
へなへなと馬の首もとに抱き付くと、先程の緊張した声から一転、情けない程力の抜けた声でそう疑問を投げ掛けた。
「驚かせてすまなかったな。だが、急ぎ千紗姫様をお連れしなければと思って、ここまでお迎えにあがりました」
「……秋成………では、小次郎が……」
千紗を迎えに来たと言う秋成に、千紗が何かを言いかけた時、突如後ろにいた春太郎と朱雀帝が「わっ」と大きな声を上げる。
「何じゃ、何事じゃ?!」
「あ、あれ……あれを……見て……」
そう言いながら、すっと前方を指差す春太郎。
どこか怯えた様子の春太郎と朱雀帝に首を傾げながら、春太郎が指し示した方向へと振り返る千紗。
瞬間、目に飛び込んで来た光景に、千紗は絶句した。
「な……なんじゃ……あれは……」
月も星も見えない暗いはずの夜空を、不気味な紅色がじわりじわりと染め上げて行くのだ。
「馬鹿な、どうして……」
その紅く染まりゆく空に、秋成もまた驚きの声を上げた。
「秋成! 戦況は? 戦況は今どうなっておる? 小次郎は本気で伯父達を討とうとしているのか?」
「いえ……兄上は、敵を殲滅するよう決断を迫られ、酷く苦しんでいるご様子でした。本当は誰かに戦いを止めて欲しいと、俺には兄上が心の中でそう叫んでいるよう見えました。だからここに貴方様をお呼びした。今ならば、まだ間に合う。まだ兄上を止められる。そう思ったから俺はここへ……」
千紗を呼んだのに、なのにどうして?
どうして館の方角から火の手が?
秋成は小次郎の本心を見謝ったと言うのか?
ここまで第三者として、冷静に物事を見守り、判断して来たはずの秋成の心が焦った。
「秋成!」
「っ!?」
呆然と立ち尽くす秋成の腕を、不意に掴んだ千紗は彼の操る馬に強引に登ろうとする。
「千紗……姫様……」
「ボサッとしている場合ではないぞ。お主の言う通り、まだ小次郎の心に迷いがあるというならば、今からでも小次郎を止めに行かねば! ほら、早く小次郎の元へ案内してくれ!」
「……姫様……」
秋成を見上げる千紗の瞳は、どこまでも真っ直ぐで迷いがない。千紗はまだ、諦めてはいない。小次郎と交わした約束を、諦めてなど――
千紗の瞳は悔しい程真っ直ぐに小次郎の元へと向けられていて、彼女の瞳には小次郎の姿しか写ってはいない。そんないつも通りの千紗の姿に思わず笑いを溢しながら、彼女が握るその手をギュッと握り返し、千紗の体をグイっと抱き寄せた秋成は、自身が乗る馬へと力一杯引き上げた。
「仰せのままに。行きましょう、兄上の元へ!」
そして、千紗を連れ力を得た秋成は、もと来た道を颯爽と馬で駆け出して行く。
秋成の後に続けとばかりに、清太や春太郎もまた小次郎の元へと馬を急がせた。
『神様、どうか……どうかお願いします。小次郎と、小次郎の伯父達をお守り下さい。みんなみんな……どうか無事で……お願いします………』
激しく揺れる馬の背中。何とかそこから振り落とされまいと、必死に鬣にしがみつきながら、千紗は何度も何度も天に祈った。
すると千紗の頬へ、ポツリと一滴の水が流れ落ちて――
「…………雨?」
思わず空を仰ぎ見た千紗。
見上げた空からはポツリポツリと、幾重にも水の雫が降り注いでいた。
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