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第一幕 板東編
次なる作戦会議②
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「閃いた! こう言うのはどう? 1回、兵を引き上げるんだ」
「はぁ? お前こそ何を馬鹿な事を言ってやがる。攻めるのが厄介だからって敵を見逃すってのか?」
「違う。兵を引き上げたフリをするんだ」
「……フリ?」
「そう。引き上げたフリをして、敵を油断させる。油断して外の様子を見に敵が姿を現す。その隙をついて一斉攻撃をしかけるんだ。どう? 良い考えだと思わない?」
「そう上手くいくか? もし引き上げた後も警戒して出て来なかったらどうする。今の状況と何も変わらんぞ」
「それは……そうだけど……」
「脚下だな」
今度は玄明が四郎の策を否定する番だった。
「何でだよ! おっさんの策より現実的だろ」
「どこがだ! 俺様の策の方が断然現実的だ。それに勝利する可能性だって高い!」
結局は、再びの言い争いを始める二人。
「よせ、やめろ。喧嘩はやめろ」
「だって兄貴!」
「止めるな将門! こいつとはちゃんと決着をつけなくてはならんのだ!」
「だから今は言い争っている場合じゃないだろ。良いから落ち着け」
二人の喧嘩を止めに入りながら小次郎の口からは大きな大きな溜め息が溢れた。
「他に……他に何か策のある者はいないのか?」
そして小次郎は他の者達にも更なる案を求めた。
――と、そこに一人、そっと手を挙げる者がいた。
「おぉ、秋成。お前も何か策があるのか。是非聞かせてくれ」
秋成だった。秋成は、小次郎を真っ直ぐに見据えながら、ただ一言、訴えた。「退きましょう」と。
秋成の言葉に、それまで喧嘩していた四郎と玄明の二人が、息ピッタリに否定する。
「それはない! ここまで追い詰めたのに、ここで撤退なんて、ありえないぜ、あっきー」
「そうだな。戦において敵に情けをかける事は、後々になって己の身を滅ぼしかねない」
「そうだ。こればっかりはおっさんの言う通りだよ。伯父貴達に情けをかけて見逃して、その情けに報いるような人達じゃない。むしろ馬鹿にされたと怒りを深めるかもしれない。そうなったら、また豊田を襲いに来るに決まってる。それじゃあ、現状と何も変わらない。分かってるだろ兄貴。 兄貴はちゃんと、分かってるよな?」
四郎がどこか不安気に、小次郎を見る。
小次郎はと言えば、難しい顔をして、じっと何かを考えている様子で――
秋成は、周囲から猛反対を受けながらも、未だ叔父達を倒す事に迷っているであろう小次郎に向けて、語り掛けるように冷静に言葉を紡いで行く。
「何故そうやって最初から決めつけて諦めるのですか? 相手だって、かけた情けに報いるかもしれない。先の事なんて誰にも分からない。さっき、そこの“自称大悪党"も言ってたじゃないですか」
「うぐ……それは……」
自分の発言を利用して説得してくる秋成に、玄明が苦い顔をした。
「こうも言ってました。先の事は、その時考えれば良いと。難しい事は今は置いておいて、まずは自分の気持ちに正直になってみませんか、兄上?」
「…………」
「兄上、貴方の本当の気持ちは? 今一度、自分の胸に手を当てて考えてみてください。この先、後悔しないように」
真っ直な瞳を向けて語り駆けてくる秋成に、小次郎の顔は苦痛に歪む。
叔父を見逃すか、このまま攻め滅ぼすか、示された2つの相反する意見に、暫く悩んだ末小次郎は、ついに耐えられなくなり、皆にある事を願い出た。
「皆、すまない……。もう少しだけ俺に時間をくれないか」
「兄貴……」
小次郎の申し出に、四郎が不安そうに小次郎を見る。
「小半刻(=約30分)で良い。今少しだけ……考える時間をくれ……」
「おいおい、そんな時間っ――」
玄明が小次郎の提案に拒否の意を示そうとした時、四郎がそれを遮った。
「分かった。もう少しだけ待つよ。だから、この先兄貴が後悔しないよう、気持ちに整理をつけて来てくれ」
「四郎……すまない。すぐに戻ってくる。戻ってくるから………」
それだけ言い残して、小次郎は皆のもとから離れると、暗闇へと姿を消して行った。
「あ、おい、将門!将門っ!……ったく、大将があんなんで大丈夫なのか?」
暗闇に消え行く小次郎の後ろ姿を呼び止めながら、玄明が呆れた様子で頭をかいた。
四郎はと言えば、小次郎が消えた闇の先を、ただじっと、静かに見送った。
そしてもう一人。小次郎に四郎とは別の道を示した秋成はと言えば――
「姫様……俺が出来るのはここまでです。早く……早く兄上を止めてあげて下さい。姫様……」
四郎同様、小次郎の背中を見送りながら、そんな独り言をポツリと漏らし、こっそり隊を抜け出した。
そして、もと来た道を馬に乗り駆け出して行った。
「はぁ? お前こそ何を馬鹿な事を言ってやがる。攻めるのが厄介だからって敵を見逃すってのか?」
「違う。兵を引き上げたフリをするんだ」
「……フリ?」
「そう。引き上げたフリをして、敵を油断させる。油断して外の様子を見に敵が姿を現す。その隙をついて一斉攻撃をしかけるんだ。どう? 良い考えだと思わない?」
「そう上手くいくか? もし引き上げた後も警戒して出て来なかったらどうする。今の状況と何も変わらんぞ」
「それは……そうだけど……」
「脚下だな」
今度は玄明が四郎の策を否定する番だった。
「何でだよ! おっさんの策より現実的だろ」
「どこがだ! 俺様の策の方が断然現実的だ。それに勝利する可能性だって高い!」
結局は、再びの言い争いを始める二人。
「よせ、やめろ。喧嘩はやめろ」
「だって兄貴!」
「止めるな将門! こいつとはちゃんと決着をつけなくてはならんのだ!」
「だから今は言い争っている場合じゃないだろ。良いから落ち着け」
二人の喧嘩を止めに入りながら小次郎の口からは大きな大きな溜め息が溢れた。
「他に……他に何か策のある者はいないのか?」
そして小次郎は他の者達にも更なる案を求めた。
――と、そこに一人、そっと手を挙げる者がいた。
「おぉ、秋成。お前も何か策があるのか。是非聞かせてくれ」
秋成だった。秋成は、小次郎を真っ直ぐに見据えながら、ただ一言、訴えた。「退きましょう」と。
秋成の言葉に、それまで喧嘩していた四郎と玄明の二人が、息ピッタリに否定する。
「それはない! ここまで追い詰めたのに、ここで撤退なんて、ありえないぜ、あっきー」
「そうだな。戦において敵に情けをかける事は、後々になって己の身を滅ぼしかねない」
「そうだ。こればっかりはおっさんの言う通りだよ。伯父貴達に情けをかけて見逃して、その情けに報いるような人達じゃない。むしろ馬鹿にされたと怒りを深めるかもしれない。そうなったら、また豊田を襲いに来るに決まってる。それじゃあ、現状と何も変わらない。分かってるだろ兄貴。 兄貴はちゃんと、分かってるよな?」
四郎がどこか不安気に、小次郎を見る。
小次郎はと言えば、難しい顔をして、じっと何かを考えている様子で――
秋成は、周囲から猛反対を受けながらも、未だ叔父達を倒す事に迷っているであろう小次郎に向けて、語り掛けるように冷静に言葉を紡いで行く。
「何故そうやって最初から決めつけて諦めるのですか? 相手だって、かけた情けに報いるかもしれない。先の事なんて誰にも分からない。さっき、そこの“自称大悪党"も言ってたじゃないですか」
「うぐ……それは……」
自分の発言を利用して説得してくる秋成に、玄明が苦い顔をした。
「こうも言ってました。先の事は、その時考えれば良いと。難しい事は今は置いておいて、まずは自分の気持ちに正直になってみませんか、兄上?」
「…………」
「兄上、貴方の本当の気持ちは? 今一度、自分の胸に手を当てて考えてみてください。この先、後悔しないように」
真っ直な瞳を向けて語り駆けてくる秋成に、小次郎の顔は苦痛に歪む。
叔父を見逃すか、このまま攻め滅ぼすか、示された2つの相反する意見に、暫く悩んだ末小次郎は、ついに耐えられなくなり、皆にある事を願い出た。
「皆、すまない……。もう少しだけ俺に時間をくれないか」
「兄貴……」
小次郎の申し出に、四郎が不安そうに小次郎を見る。
「小半刻(=約30分)で良い。今少しだけ……考える時間をくれ……」
「おいおい、そんな時間っ――」
玄明が小次郎の提案に拒否の意を示そうとした時、四郎がそれを遮った。
「分かった。もう少しだけ待つよ。だから、この先兄貴が後悔しないよう、気持ちに整理をつけて来てくれ」
「四郎……すまない。すぐに戻ってくる。戻ってくるから………」
それだけ言い残して、小次郎は皆のもとから離れると、暗闇へと姿を消して行った。
「あ、おい、将門!将門っ!……ったく、大将があんなんで大丈夫なのか?」
暗闇に消え行く小次郎の後ろ姿を呼び止めながら、玄明が呆れた様子で頭をかいた。
四郎はと言えば、小次郎が消えた闇の先を、ただじっと、静かに見送った。
そしてもう一人。小次郎に四郎とは別の道を示した秋成はと言えば――
「姫様……俺が出来るのはここまでです。早く……早く兄上を止めてあげて下さい。姫様……」
四郎同様、小次郎の背中を見送りながら、そんな独り言をポツリと漏らし、こっそり隊を抜け出した。
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