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第一幕 板東編
下野国庁付近の戦い
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「敵の人員の配置や、軍の形態なんかも把握していないか? たとえば、幾つに軍を分けているとか、誰がどの軍を指揮しているだとか。巻き込まれた農民兵にはなるべく危害を加えずに伯父達に近付きたいんだ」
「形態? 形態つっても、二千三百の兵がまるで大蛇の如く、長い長~い列を成して進軍して来るだけだぜ」
「力を分散させたりはしていないのか?」
「あぁ。言ったろ。向こうは数で圧倒してるから油断してるって。将門が気にしてるような、んな手のこんだ策を練ってる様子はなかった。単純に、お前達の背後をとって、後は数で勝負! ってな感じだな」
「……そうか、そうなのか。大蛇の如く……か。それならば、意外と簡単に伯父上達に近づけるかもしれないな」
「? 何か良い案でもあるの、兄貴?」
それまで静かに玄明の話を訊いていた四郎が、横から口を挟んだ。
「ある事はある。だが、些か卑怯な作戦ではあるがな……」
「卑怯で気が引ける?」
四郎に図星をつかれて、小次郎は無言で苦笑いを浮かべる。
「あのさ兄貴、考えてもみてよ。背後を狙うって時点で伯父貴達も十分卑怯だ。それになにより、農繁期に戦をしかけてくる事自体が卑怯な事だって忘れてる? 先に卑怯な事をしたのは伯父貴達だ。そんな奴等に卑怯だなんだと気を使ってやる必要なんてないさ」
「……あぁ、そうだな」
力なく答える小次郎に、四郎は小さく溜め息をつく。
「とにかく、勝つ為に手段なんか選んでる場合じゃないよ。卑怯でもなんでも、可能性があるなら試してみようぜ兄貴」
「……あぁ、分かってる。分かっているさ……」
伯父と戦う事を頭では納得していても、やはり気持ちではまだどこか納得しきれていない様子の小次郎。
だが覚悟を決めたのか、ゆっくりと、躊躇い気味に、皆に作戦を説明して行く。
その姿を一歩引いた後ろから、秋成は静かに見守っていた。
――『あやつの心はまだ迷ってる。伯父に刃を向ける事を迷ってる』
――『小次郎にもう二度と同じ後悔はさせたくない。後悔の残る選択だけはさせたくない』
千紗の思いを胸に抱いて――
◆◆◆
小次郎の作戦を受け、小次郎軍の兵士達は下総と下野の国境付近、人の手が行き届いていない草原地帯で、良兼軍が来るのを待つ事にした。
玄明の集めた情報から、敵軍の通るだろう道筋の大方を知り得た小次郎は、自身の兵を隠しながら待ち伏せできる絶好の場所として、草が生い茂るこの場所を選んだ。
茂みの間を通る一本の獣道を間に挟んで、小次郎が率いる50程の兵と、四郎が率いる50程の兵を二手に別けて配置する。
実は小次郎が草原地帯のこの場所を選んだ事にはもう1つ理由があって――
農民達が大事に育てる田畑に、なるべく被害が出ないよう言うにと、彼なりの配慮がそこにはあった。
伸び放題の草むらに身を潜め、敵を待つ事数刻後、未の刻(およそ午後2時頃)になって、ようやく待ちに待った良兼軍の“頭”部分が小次郎達の前に姿を現す。
「形態? 形態つっても、二千三百の兵がまるで大蛇の如く、長い長~い列を成して進軍して来るだけだぜ」
「力を分散させたりはしていないのか?」
「あぁ。言ったろ。向こうは数で圧倒してるから油断してるって。将門が気にしてるような、んな手のこんだ策を練ってる様子はなかった。単純に、お前達の背後をとって、後は数で勝負! ってな感じだな」
「……そうか、そうなのか。大蛇の如く……か。それならば、意外と簡単に伯父上達に近づけるかもしれないな」
「? 何か良い案でもあるの、兄貴?」
それまで静かに玄明の話を訊いていた四郎が、横から口を挟んだ。
「ある事はある。だが、些か卑怯な作戦ではあるがな……」
「卑怯で気が引ける?」
四郎に図星をつかれて、小次郎は無言で苦笑いを浮かべる。
「あのさ兄貴、考えてもみてよ。背後を狙うって時点で伯父貴達も十分卑怯だ。それになにより、農繁期に戦をしかけてくる事自体が卑怯な事だって忘れてる? 先に卑怯な事をしたのは伯父貴達だ。そんな奴等に卑怯だなんだと気を使ってやる必要なんてないさ」
「……あぁ、そうだな」
力なく答える小次郎に、四郎は小さく溜め息をつく。
「とにかく、勝つ為に手段なんか選んでる場合じゃないよ。卑怯でもなんでも、可能性があるなら試してみようぜ兄貴」
「……あぁ、分かってる。分かっているさ……」
伯父と戦う事を頭では納得していても、やはり気持ちではまだどこか納得しきれていない様子の小次郎。
だが覚悟を決めたのか、ゆっくりと、躊躇い気味に、皆に作戦を説明して行く。
その姿を一歩引いた後ろから、秋成は静かに見守っていた。
――『あやつの心はまだ迷ってる。伯父に刃を向ける事を迷ってる』
――『小次郎にもう二度と同じ後悔はさせたくない。後悔の残る選択だけはさせたくない』
千紗の思いを胸に抱いて――
◆◆◆
小次郎の作戦を受け、小次郎軍の兵士達は下総と下野の国境付近、人の手が行き届いていない草原地帯で、良兼軍が来るのを待つ事にした。
玄明の集めた情報から、敵軍の通るだろう道筋の大方を知り得た小次郎は、自身の兵を隠しながら待ち伏せできる絶好の場所として、草が生い茂るこの場所を選んだ。
茂みの間を通る一本の獣道を間に挟んで、小次郎が率いる50程の兵と、四郎が率いる50程の兵を二手に別けて配置する。
実は小次郎が草原地帯のこの場所を選んだ事にはもう1つ理由があって――
農民達が大事に育てる田畑に、なるべく被害が出ないよう言うにと、彼なりの配慮がそこにはあった。
伸び放題の草むらに身を潜め、敵を待つ事数刻後、未の刻(およそ午後2時頃)になって、ようやく待ちに待った良兼軍の“頭”部分が小次郎達の前に姿を現す。
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