時ノ糸~絆~

汐野悠翔

文字の大きさ
上 下
139 / 285
第一幕 板東編

心強い味方?

しおりを挟む
「よっ! 皆さんお揃いで。何処へお出掛けで?」

「あぁ、お前はっ!!」


良兼軍との戦に向けて進軍を続ける道中、小次郎軍の前に、突然ヒョッコリと一人の男が姿を表す。

予期せぬ男の登場に大声を上げる四郎。


「あぁ!? 自称大悪党! だがその実態は単なるせこいこそ泥、藤原玄明!!」

「おいコラ! 誰がこそ泥だ、誰が!」

「こっそり馬を一頭盗んで、とんずらしたじゃないか、このこそ泥が! お前、今更何しに来やがった」

「盗んでなどいない! ちょっと借りただけだ!」

「はぁ~?! 何が借りただけだ。しらばっくれるのも大概にしろよ」


四郎と玄明、顔を合わせるなり始まった二人の喧嘩に呆れ顔の小次郎。


「四郎、少し黙っていてくれ。玄明も、悪いが今お前の相手をしてる暇は――」


ないと言いかけた小次郎の言葉を遮って、玄明は得意顔で会話を続けた。


「まぁまぁまぁ、そんな連れない事を言ってくれるな。折角敵さんの情報を探って来てやったんだからよぉ」

「何、情報を?」


いぶかしみながらも興味を示す小次郎。

そんな小次郎の反応に玄明は何処か楽しんでいるように上機嫌で


「あぁ。戦において情報は何にも勝る武器になる。違うか?」


それはそれは満足そうに、楽しげな笑みを浮かべていた。


「因みにな将門、敵はお前の背後を責めるつもりで、今は下野しもつけ方面を目指して北上中だ。このまま上総かずさを目指したら、敵の思う壺だぞ」

「何? 今の話は本当か玄明」

「あぁ、本当さ。何せ俺様は、将門、お前の為に敵さんの情報を探って来てやろうと、今までずっと敵の動きを見張っててやったんだからな。馬だってな、その為にちょこっと拝借したんだ。まったく、感謝して欲しいくらいだぜ」


玄明が小次郎の屋敷を抜け出した、思いもよらない理由に、小次郎を始めその場にいた誰もが驚いた。

玄明はそんな小次郎達の反応に満足した様子で、貴重な情報を惜し気もなく語り始めた。


「いいかお前等、耳の穴かっぽじってよ~く聞け。さっきも言った通り、敵さんは現在、下野に向けて進軍している。そして下野と下総しもうさの国境付近で南下して、お前の背後を取ろうとしている。その数およそ二千三百。だが数に驚く必要はない。奴の軍の大半は上総や下野の豪族共から借り受けた兵だ。身内の兵は半分の半分もいねぇ。将門の言った通り、敵さんの士気は高くねぇ。ついでに言えば奴等、とにかく兵の数を稼ごうと、繁忙期の農民達まで無理矢理駆り出してやがる。駆り出された農民達は不満たらたらで、はっきり言ってあれは単なる足手まといにしかないだろう。だが敵さんは、集めた兵の士気の低さに全く気付いちゃいねぇ。数で圧倒してるからと油断しまくっている。つまり奴等は隙だらけだ」


玄明の示した情報は、小次郎の予想を裏付けるには十分すぎる内容で、聞きながら小次郎は安堵の声を漏らした。


「そうか。やはり予想通りと言うわけか」

「あぁ。あの敵さんの様子なら、将門、お前が言っていた作戦で、奴等の足元を掬う事もきっとできるはずだ」

「そうか……。そうか。玄明、恩に着るぞ。お前のおかげで道が開けそうだ。だがもう少しだけ、お前の集めた情報を俺達に教えてくれないか?」

「少しと言わず全部教えてやらぁ。その為にわざわざ敵の内部に忍び込んだんだからな。他に何が知りたい? 何を知ればお前達に有利になる?」


小次郎の願いを、あっさりと聞き入れる玄明。

情報を材料に金をせびるでもなく、惜しみもなく集めた情報を提示する姿に、四郎をはじめ彼を警戒していた小次郎軍の兵士達は驚きを隠せない。

呆気にとられながらも真剣に、玄明が集めた情報に耳を傾けた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

金蝶の武者 

ポテ吉
歴史・時代
時は天正十八年。 関東に覇を唱えた小田原北条氏は、関白豊臣秀吉により滅亡した。 小田原征伐に参陣していない常陸国府中大掾氏は、領地没収の危機になった。 御家存続のため、選ばれたのは当主大掾清幹の従弟三村春虎である。 「おんつぁま。いくらなんでもそったらこと、むりだっぺよ」 春虎は嘆いた。 金の揚羽の前立ての武者の奮戦記 ──

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

戦国三法師伝

kya
歴史・時代
歴史物だけれども、誰にでも見てもらえるような作品にしていこうと思っています。 異世界転生物を見る気分で読んでみてください。 本能寺の変は戦国の覇王織田信長ばかりではなく織田家当主織田信忠をも戦国の世から葬り去り、織田家没落の危機を迎えるはずだったが。 信忠が子、三法師は平成日本の人間が転生した者だった…

天明奇聞 ~たとえば意知が死ななかったら~

ご隠居
歴史・時代
タイトル通りです。意知が暗殺されなかったら(助かったら)という架空小説です。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

不屈の葵

ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む! これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。 幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。 本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。 家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。 今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。 家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。 笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。 戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。 愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目! 歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』 ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!

永き夜の遠の睡りの皆目醒め

七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。 新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。 しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。 近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。 首はどこにあるのか。 そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。 ※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

処理中です...