137 / 279
第一幕 板東編
千紗の交渉
しおりを挟む
「…………そんな事は……分かっておる」
「……?」
「私がついて行った所で、足手纏いにしかならぬ事くらい、ちゃんと分かっておる」
「……千紗」
「だから、私の代わりに秋成を、秋成を連れて行って欲しいのだ」
千紗の言葉に、それまで全く姿の見えなかった秋成が、馬に跨がり塀の陰から颯爽と姿を現した。
「んでもって、ついでにおいらも~!」
清太もまた元気良く手を上げながら、千紗達の元へと駆け戻り秋成の隣に並んだ。
嬉しそうに秋成の隣に立つ清太の姿を振り返りながら、春太郎は言う。
「本当は僕も連れて行って欲しいんだけど……」
「ダメだって! 春太郎は留守番して姫さんとヒナを守るって、秋成の兄貴と約束したろ」
「分かってるよ。もう~清太の馬鹿!」
「はぁ~? 何で馬鹿なんだよ。昨日ちゃんと公平に虫拳で決めただろ。負けた春太郎が悪いんだ」
話の腰を折って言い争いを始めてしまう春太郎と清太。
そんな二人を無視して、千紗と秋成は小次郎への交渉を続けた。
「この二人ならば、お前の役に立つだろ、小次郎」
「兄上、千紗姫様の変わりに是非、俺と清太も共にお連れ下さい」
「……千紗……秋成……」
痛い程真っ直ぐで、真剣な目を向けてくる千紗と秋成に、小次郎の顔は苦痛に歪む。
本当ならば秋成と言えども戦場に連れて行きたくはない。それでも、千紗なりに一生懸命模索し、妥協点を探した結果の交渉なのだろう。その気持ちを考えると、千紗の思いを無下に断るのも申し訳ない気がしてならなかった。
それになにより、ここで頭ごなしに反対して千紗がこれ以上素直に諦めてくれるとも思えなかった。
暫くの間、眉間に深い皺を刻ませ考え込む小次郎だったが、千紗と秋成、二人から向けられる熱い視線に「はぁ……」と大きく溜息を吐くと
「好きにしろ」
たった一言、それだけを言い残して、小次郎は止めていた馬の歩みを再び進めた。
「良かったな姫さん。兄貴からお許しが出たぜ」
千紗に向かって片目を瞑って見せる四郎。
秋成と清太に、隊を付いてくるよう促しながら四郎もまた小次郎の後に続いて馬を進ませた。
もっと反対されるかと思った願いが、以外にもあっさり聞き入れられて、唖然としながらも千紗はへなへなとその場に座り込んでしまう。
「千紗姫様、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。問題ない」
馬を下りて千紗の元へと駆け寄ろうとする秋成を制して、千紗はすぐに立ち上がる。
「小次郎からの許しは出た。秋成、後はお前に任せたぞ」
「……はい」
すぐさま気持ちを切り替えた千紗の思いをくみ取って、秋成は馬を下りる事を止め、馬上から千紗のその思いを受け止めた。
「……?」
「私がついて行った所で、足手纏いにしかならぬ事くらい、ちゃんと分かっておる」
「……千紗」
「だから、私の代わりに秋成を、秋成を連れて行って欲しいのだ」
千紗の言葉に、それまで全く姿の見えなかった秋成が、馬に跨がり塀の陰から颯爽と姿を現した。
「んでもって、ついでにおいらも~!」
清太もまた元気良く手を上げながら、千紗達の元へと駆け戻り秋成の隣に並んだ。
嬉しそうに秋成の隣に立つ清太の姿を振り返りながら、春太郎は言う。
「本当は僕も連れて行って欲しいんだけど……」
「ダメだって! 春太郎は留守番して姫さんとヒナを守るって、秋成の兄貴と約束したろ」
「分かってるよ。もう~清太の馬鹿!」
「はぁ~? 何で馬鹿なんだよ。昨日ちゃんと公平に虫拳で決めただろ。負けた春太郎が悪いんだ」
話の腰を折って言い争いを始めてしまう春太郎と清太。
そんな二人を無視して、千紗と秋成は小次郎への交渉を続けた。
「この二人ならば、お前の役に立つだろ、小次郎」
「兄上、千紗姫様の変わりに是非、俺と清太も共にお連れ下さい」
「……千紗……秋成……」
痛い程真っ直ぐで、真剣な目を向けてくる千紗と秋成に、小次郎の顔は苦痛に歪む。
本当ならば秋成と言えども戦場に連れて行きたくはない。それでも、千紗なりに一生懸命模索し、妥協点を探した結果の交渉なのだろう。その気持ちを考えると、千紗の思いを無下に断るのも申し訳ない気がしてならなかった。
それになにより、ここで頭ごなしに反対して千紗がこれ以上素直に諦めてくれるとも思えなかった。
暫くの間、眉間に深い皺を刻ませ考え込む小次郎だったが、千紗と秋成、二人から向けられる熱い視線に「はぁ……」と大きく溜息を吐くと
「好きにしろ」
たった一言、それだけを言い残して、小次郎は止めていた馬の歩みを再び進めた。
「良かったな姫さん。兄貴からお許しが出たぜ」
千紗に向かって片目を瞑って見せる四郎。
秋成と清太に、隊を付いてくるよう促しながら四郎もまた小次郎の後に続いて馬を進ませた。
もっと反対されるかと思った願いが、以外にもあっさり聞き入れられて、唖然としながらも千紗はへなへなとその場に座り込んでしまう。
「千紗姫様、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。問題ない」
馬を下りて千紗の元へと駆け寄ろうとする秋成を制して、千紗はすぐに立ち上がる。
「小次郎からの許しは出た。秋成、後はお前に任せたぞ」
「……はい」
すぐさま気持ちを切り替えた千紗の思いをくみ取って、秋成は馬を下りる事を止め、馬上から千紗のその思いを受け止めた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
浅井長政は織田信長に忠誠を誓う
ピコサイクス
歴史・時代
1570年5月24日、織田信長は朝倉義景を攻めるため越後に侵攻した。その時浅井長政は婚姻関係の織田家か古くから関係ある朝倉家どちらの味方をするか迷っていた。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
連合航空艦隊
ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年のロンドン海軍軍縮条約を機に海軍内では新時代の軍備についての議論が活発に行われるようになった。その中で生れたのが”航空艦隊主義”だった。この考えは当初、一部の中堅将校や青年将校が唱えていたものだが途中からいわゆる海軍左派である山本五十六や米内光政がこの考えを支持し始めて実現のためにの政治力を駆使し始めた。この航空艦隊主義と言うものは”重巡以上の大型艦を全て空母に改装する”というかなり極端なものだった。それでも1936年の条約失効を持って日本海軍は航空艦隊主義に傾注していくことになる。
デモ版と言っては何ですが、こんなものも書く予定があるんだなぁ程度に思ってい頂けると幸いです。
枢軸国
よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年
第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。
主人公はソフィア シュナイダー
彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。
生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う
偉大なる第三帝国に栄光あれ!
Sieg Heil(勝利万歳!)
本能のままに
揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった
もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください!
※更新は不定期になると思います。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる