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第一幕 板東編
小次郎の決起
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――『もしお主の下した決断に、少しでも迷いが残っていたその時は、私は全力でお主を止めるぞ』
千紗の残した言葉が、何度も小次郎の頭の中思い起こされる。
小次郎は心のどこかで、まだ誰かに止めて欲しいと、そう願っていたのかもしれない。
だからこそ千紗の言葉に、心が少し軽くなるのを感じた。
そしてついに小次郎は決心を固める。
「兄貴、兄貴! 大変だ!!」
「……四郎」
「――て、ん? なんか兄貴嬉しそう? 何だ? 何か良い事でもあったのか?」
千紗達と入れ違いに小次郎の部屋へと駆け込んで来た四郎。
兄のどこか穏やかな表情に、四郎は首をかしげた。
「いや、何でもない」
「ふ~ん。まぁ、いいや。それより大変なんだ!」
「どうした? 何かあったのか?」
「あいつが、あの自称大悪党のおっさんが、馬を盗んでとんずらしやがった!」
「玄明が?」
そう言えば、いつの間にか玄明の姿がなくなっていたなと、小次郎は今初めて気が付く。
だが鼻息荒く怒りを露わにしている四郎とは対称的に、小次郎はクスクスと笑いを溢した。
「そうか、玄明がな。流石は自称大悪党」
「兄貴笑い事じゃないって。これから戦をおっ始めようって時に、大事な戦道具を盗まれたんだぞ」
「そう怒ってやるな四郎。あいつはそれに見合うだけの十分な働きをしてくれた。馬一頭くらい、その礼にくれてやれ」
「兄貴~。……ったく。相変わらず甘いんだからな兄貴は」
ムスッと膨れっ面の四郎。小次郎はそんな四郎にクスクスと笑いを溢しながらこう言葉を続けた。
「四郎、丁度良い機会だ。馬を何頭か飼い足そうか。それから弓矢や刀、戦に必要な道具を集められるだけ集めてくれ。いつ戦になっても良いように、準備を進めて欲しいんだ」
「お、おぉ! 任してくれ兄貴!」
「頼んだぞ、四郎」
四郎に戦の準備を進めるよう命を出しながら小次郎は、何か吹っ切れたように心の中、ある決意を固めていた。
(悩んでいる時間はない。時はすぐそこまで迫っている。敵が攻めてくると言うのならば、抗うまで。たとえ敵が血を分けた一族だとしても……背負っている者を守る為には抗うしか道はない。ならば進め。自分が信じた道を信じて前へ。もし進むべき道を違えそうになったその時は、きっと千紗が正しき道を示してくれる。だから俺は進む。恐れず前へ。自分の決断を信じて前へ――)
◆◆◆
――それからおよそ一ヶ月の後。梅雨も半ばを迎える六月の下旬。
ついにその時がやって来た。
良兼、良正の両軍が、二千三百にも及ぶ大軍を、大蛇の如く引き連れて、小次郎が治める領地、豊田を目指し進軍を始めた。
迎える小次郎は、日頃から豊田の治安を守るべく、弓や剣の訓練を受けた兵つわもの、およそ百余人を引き連れて豊田を旅立つ。
その瞬間、後に『下野国庁付近の戦い』と呼ばれる戦の火蓋が切って落とされた。
千紗の残した言葉が、何度も小次郎の頭の中思い起こされる。
小次郎は心のどこかで、まだ誰かに止めて欲しいと、そう願っていたのかもしれない。
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兄のどこか穏やかな表情に、四郎は首をかしげた。
「いや、何でもない」
「ふ~ん。まぁ、いいや。それより大変なんだ!」
「どうした? 何かあったのか?」
「あいつが、あの自称大悪党のおっさんが、馬を盗んでとんずらしやがった!」
「玄明が?」
そう言えば、いつの間にか玄明の姿がなくなっていたなと、小次郎は今初めて気が付く。
だが鼻息荒く怒りを露わにしている四郎とは対称的に、小次郎はクスクスと笑いを溢した。
「そうか、玄明がな。流石は自称大悪党」
「兄貴笑い事じゃないって。これから戦をおっ始めようって時に、大事な戦道具を盗まれたんだぞ」
「そう怒ってやるな四郎。あいつはそれに見合うだけの十分な働きをしてくれた。馬一頭くらい、その礼にくれてやれ」
「兄貴~。……ったく。相変わらず甘いんだからな兄貴は」
ムスッと膨れっ面の四郎。小次郎はそんな四郎にクスクスと笑いを溢しながらこう言葉を続けた。
「四郎、丁度良い機会だ。馬を何頭か飼い足そうか。それから弓矢や刀、戦に必要な道具を集められるだけ集めてくれ。いつ戦になっても良いように、準備を進めて欲しいんだ」
「お、おぉ! 任してくれ兄貴!」
「頼んだぞ、四郎」
四郎に戦の準備を進めるよう命を出しながら小次郎は、何か吹っ切れたように心の中、ある決意を固めていた。
(悩んでいる時間はない。時はすぐそこまで迫っている。敵が攻めてくると言うのならば、抗うまで。たとえ敵が血を分けた一族だとしても……背負っている者を守る為には抗うしか道はない。ならば進め。自分が信じた道を信じて前へ。もし進むべき道を違えそうになったその時は、きっと千紗が正しき道を示してくれる。だから俺は進む。恐れず前へ。自分の決断を信じて前へ――)
◆◆◆
――それからおよそ一ヶ月の後。梅雨も半ばを迎える六月の下旬。
ついにその時がやって来た。
良兼、良正の両軍が、二千三百にも及ぶ大軍を、大蛇の如く引き連れて、小次郎が治める領地、豊田を目指し進軍を始めた。
迎える小次郎は、日頃から豊田の治安を守るべく、弓や剣の訓練を受けた兵つわもの、およそ百余人を引き連れて豊田を旅立つ。
その瞬間、後に『下野国庁付近の戦い』と呼ばれる戦の火蓋が切って落とされた。
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