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第一幕 板東編
信じるままに
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朱雀帝の部屋へと戻って来た三人。秋成は朱雀帝の体を床へと横にさせると千紗に一礼し、そのまま庭へと降りて行った。
「ご苦労だったな秋成」
千紗から掛けられた労いの言葉に再び一礼すると、秋成はそのまま庭から静かに二人の様子を見守った。
「少しは落ち着いたか、チビ助?」
未だめそめそと泣きじゃくる朱雀帝の頭を、優しい手付きで撫でてやりながら、千紗は横になる朱雀帝の顔を覗き込んだ。
すると朱雀帝は、もう片方空いていた千紗の手を握って、千紗の温もりを求めた。
貞盛がいない今、朱雀帝が唯一心を許せる相手はもう千紗しかいなかったから、この手だけは離したくないと、ギュッと強く握り締めた。
「チビ助?」
自分の手を握り締める小さな手。その手を握り返してやりながら、千紗は優しい声音で朱雀帝に語り掛けた。
「大丈夫。大丈夫だ。周りの言葉に惑わされる必要などない。お主は、お主が信じる貞盛を信じてやれば良い」
「……」
千紗が朱雀帝に掛けた言葉は、数ヵ月前、秋成が千紗自身に掛けてくれた言葉。
――『姫様はただ、姫様がよくご存知の兄上を信じていれば良い。ただそれだけの事です』
秋成の言葉のおかげで、千紗自身、不安だった気持ちがすっと軽くなった。秋成の言葉に、千紗は救われた。だから今度は自分が――
「大丈夫だ。泣かなくても大丈夫だ」
「……でください」
「ん? どうした?」
「……かないでください。私を置いて……何処にもいかないでください、千紗姫様。一人はもう嫌だ……」
「……ああ、分かった。私はどこにもいかない。お主が落ち着くまで傍にいてやる。だから、安心して眠るがよい」
優しく頭を撫でてくれる千紗の手が温かくて、心地好くて、朱雀帝の意識はそのままゆっくりと夢の世界へと誘われて行った。
「チビ助?」
千紗の呼び掛けに、朱雀帝からの反応はもうなかった。
朱雀帝が眠った事を確認すると、千紗はそっと彼の手を解いた。
「すまないが秋成、少しの間チビ助の事を頼みたい」
解いて庭に控える秋成に向かってそう声を掛けた。
真剣な表情で頼み事をする千紗に、秋成は全てを理解したようにただ短く言葉を返した。
「行くのですね。兄上の所へ」
「あぁ。小次郎もまた、太郎貞盛の裏切りに心を痛めている一人だろうからな。……心配なのだ」
「貴方と言う人は」
「何だ?」
「……いえ、何でも。分かりました。こちらの事は俺に任せてください」
「すまないな。ありがとう秋成」
「……いえ」
秋成に感謝を伝えるや、足早に部屋を出て行く千紗。
秋成はそんな彼女の後ろ姿を見送りながら、ぽつりと小さく漏らした。
「人の心配ばかりして。自分だって苦しいくせに」
「ご苦労だったな秋成」
千紗から掛けられた労いの言葉に再び一礼すると、秋成はそのまま庭から静かに二人の様子を見守った。
「少しは落ち着いたか、チビ助?」
未だめそめそと泣きじゃくる朱雀帝の頭を、優しい手付きで撫でてやりながら、千紗は横になる朱雀帝の顔を覗き込んだ。
すると朱雀帝は、もう片方空いていた千紗の手を握って、千紗の温もりを求めた。
貞盛がいない今、朱雀帝が唯一心を許せる相手はもう千紗しかいなかったから、この手だけは離したくないと、ギュッと強く握り締めた。
「チビ助?」
自分の手を握り締める小さな手。その手を握り返してやりながら、千紗は優しい声音で朱雀帝に語り掛けた。
「大丈夫。大丈夫だ。周りの言葉に惑わされる必要などない。お主は、お主が信じる貞盛を信じてやれば良い」
「……」
千紗が朱雀帝に掛けた言葉は、数ヵ月前、秋成が千紗自身に掛けてくれた言葉。
――『姫様はただ、姫様がよくご存知の兄上を信じていれば良い。ただそれだけの事です』
秋成の言葉のおかげで、千紗自身、不安だった気持ちがすっと軽くなった。秋成の言葉に、千紗は救われた。だから今度は自分が――
「大丈夫だ。泣かなくても大丈夫だ」
「……でください」
「ん? どうした?」
「……かないでください。私を置いて……何処にもいかないでください、千紗姫様。一人はもう嫌だ……」
「……ああ、分かった。私はどこにもいかない。お主が落ち着くまで傍にいてやる。だから、安心して眠るがよい」
優しく頭を撫でてくれる千紗の手が温かくて、心地好くて、朱雀帝の意識はそのままゆっくりと夢の世界へと誘われて行った。
「チビ助?」
千紗の呼び掛けに、朱雀帝からの反応はもうなかった。
朱雀帝が眠った事を確認すると、千紗はそっと彼の手を解いた。
「すまないが秋成、少しの間チビ助の事を頼みたい」
解いて庭に控える秋成に向かってそう声を掛けた。
真剣な表情で頼み事をする千紗に、秋成は全てを理解したようにただ短く言葉を返した。
「行くのですね。兄上の所へ」
「あぁ。小次郎もまた、太郎貞盛の裏切りに心を痛めている一人だろうからな。……心配なのだ」
「貴方と言う人は」
「何だ?」
「……いえ、何でも。分かりました。こちらの事は俺に任せてください」
「すまないな。ありがとう秋成」
「……いえ」
秋成に感謝を伝えるや、足早に部屋を出て行く千紗。
秋成はそんな彼女の後ろ姿を見送りながら、ぽつりと小さく漏らした。
「人の心配ばかりして。自分だって苦しいくせに」
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