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第一幕 板東編
知らされた裏切りの事実
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小次郎の呼びかけにより、ぞろぞろと大広間へ戻って来た群衆は、ぐるりと小次郎を囲いながら着席する。
昨日の賑やかな宴が嘘のように、何処か重苦しい空気が漂っていた。
そんな空気の中、小次郎は重たい口を開いて、玄明がここに戻って来ただろう理由を説明した。
貞盛の動向を探らせる為、わざと彼を逃した事を。皆には内緒で、秘密裏に彼に動いてもらっていた事を説明した。
「ちょっと待てよ。兄貴は最初は逃がすつもりでこいつに仕事を頼んだ。なのにこいつは逃げずに戻って来たって事は……」
「太郎は伯父達の側へついた。そう言う事だな玄明」
「ま、そう言う事だ」
貞盛の裏切りを、玄明は濁すでも、躊躇うでもなく淡白に肯定した。
そして玄明は、自身が見聞きして来た事の全てを皆に話して聞かせる。貞盛が今回、裏切りに至った経緯を。貞盛を始め、良正達は既に戦に備えて二千人近い兵を集めているという事実を。それから、良正達の裏にいる、源家の存在を。
皆が戸惑い、ざわめきあう中、小次郎だけはただただ静かに、玄明の話を聞いていた。
「嘘、ですよね、小次郎様……」
「貞盛様が敵側についたなんて嘘ですよね? 説得して下さると約束したのに」
貞盛の裏切りの事実を信じられない屋敷の者達からは、次々に動揺の声が溢れた。
小次郎はただただ謝罪することしかできなかった。
「……皆、すまない」
「……嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ! 貞盛様が裏切ったなんて」
「そうだ、嘘に決まっている。その盗賊が俺達を騙そうと嘘を言ってるんだ。御田植祭も終わって、これから本格的に農作業が始まるってこの時期に、戦なんて起こせるはずがないんだ。ましてや同門の方々がそんな卑怯な事をする筈が……。そうですよね、将門様」
「…………」
だが、謝罪も虚しく、何とかして戦の事実を否定したい者達が、否定材料を並べて矢継ぎ早に小次郎を責め立てる。
小次郎はただただ彼等の攻めを黙って受け止めることしかできなかった。
「どうして何もおっしゃってくれないのですか? 相手は盗賊ですよ?! 盗賊の言う事を何故否定してくださらないのですか?」
「……」
「小次郎様!」
「……そうだな。突然こんな話をして、信じろと言う方が難しい」
「おい将門、お前この玄明様が嘘を言ってると言うのか? 人がせっかく律儀に約束守って報せに戻って来てやったって言うのに、寄ってたかって嘘つき呼ばわりか? あぁ!?」
「いや違う。そうではない。仲間だと思っていた者の突然の裏切りを伝えられて、信じられない皆の気持ちも分かると言っただけだ。何を信じ、何を疑うかはそれぞれの自由なのだから。盗賊であった玄明の話を信じろと、俺がいくら訴えたところで、ここにいる全員が納得することはきっとない。ならばお前達は、お前達がそれぞろに信じるものを信じれば良い。だが俺は……玄明を信じる」
「……正気ですか将門様? 従兄弟である太郎様を疑い、盗賊の言う事を信じるなど……」
従兄弟であり、幼なじみであり、古くからの親友であるはずの貞盛より、出会ったばかりの盗賊を信じると言う小次郎に、多くの者が絶句した。
「あぁ。俺は正気だ。玄明はちゃんとこうして約束を果たしに帰って来てくれたんだ。途中で逃げる事もできただろうに。この男は盗みはするが、きっと嘘をついて人を嵌めるような男じゃない」
小次郎の言葉に、再び多くの者が絶句する。たったそれだけの理由で人を信用するなど、お人好しにも程があると。
「だから、俺も覚悟を決める。伯父上達が本気で攻めてくるのであれば、今度こそ俺も本気で迎え撃つ」
そんな皆のあきれを感じながらも、小次郎はついに決意する。
伯父に、従兄弟に、刃を向ける決意を――
昨日の賑やかな宴が嘘のように、何処か重苦しい空気が漂っていた。
そんな空気の中、小次郎は重たい口を開いて、玄明がここに戻って来ただろう理由を説明した。
貞盛の動向を探らせる為、わざと彼を逃した事を。皆には内緒で、秘密裏に彼に動いてもらっていた事を説明した。
「ちょっと待てよ。兄貴は最初は逃がすつもりでこいつに仕事を頼んだ。なのにこいつは逃げずに戻って来たって事は……」
「太郎は伯父達の側へついた。そう言う事だな玄明」
「ま、そう言う事だ」
貞盛の裏切りを、玄明は濁すでも、躊躇うでもなく淡白に肯定した。
そして玄明は、自身が見聞きして来た事の全てを皆に話して聞かせる。貞盛が今回、裏切りに至った経緯を。貞盛を始め、良正達は既に戦に備えて二千人近い兵を集めているという事実を。それから、良正達の裏にいる、源家の存在を。
皆が戸惑い、ざわめきあう中、小次郎だけはただただ静かに、玄明の話を聞いていた。
「嘘、ですよね、小次郎様……」
「貞盛様が敵側についたなんて嘘ですよね? 説得して下さると約束したのに」
貞盛の裏切りの事実を信じられない屋敷の者達からは、次々に動揺の声が溢れた。
小次郎はただただ謝罪することしかできなかった。
「……皆、すまない」
「……嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ! 貞盛様が裏切ったなんて」
「そうだ、嘘に決まっている。その盗賊が俺達を騙そうと嘘を言ってるんだ。御田植祭も終わって、これから本格的に農作業が始まるってこの時期に、戦なんて起こせるはずがないんだ。ましてや同門の方々がそんな卑怯な事をする筈が……。そうですよね、将門様」
「…………」
だが、謝罪も虚しく、何とかして戦の事実を否定したい者達が、否定材料を並べて矢継ぎ早に小次郎を責め立てる。
小次郎はただただ彼等の攻めを黙って受け止めることしかできなかった。
「どうして何もおっしゃってくれないのですか? 相手は盗賊ですよ?! 盗賊の言う事を何故否定してくださらないのですか?」
「……」
「小次郎様!」
「……そうだな。突然こんな話をして、信じろと言う方が難しい」
「おい将門、お前この玄明様が嘘を言ってると言うのか? 人がせっかく律儀に約束守って報せに戻って来てやったって言うのに、寄ってたかって嘘つき呼ばわりか? あぁ!?」
「いや違う。そうではない。仲間だと思っていた者の突然の裏切りを伝えられて、信じられない皆の気持ちも分かると言っただけだ。何を信じ、何を疑うかはそれぞれの自由なのだから。盗賊であった玄明の話を信じろと、俺がいくら訴えたところで、ここにいる全員が納得することはきっとない。ならばお前達は、お前達がそれぞろに信じるものを信じれば良い。だが俺は……玄明を信じる」
「……正気ですか将門様? 従兄弟である太郎様を疑い、盗賊の言う事を信じるなど……」
従兄弟であり、幼なじみであり、古くからの親友であるはずの貞盛より、出会ったばかりの盗賊を信じると言う小次郎に、多くの者が絶句した。
「あぁ。俺は正気だ。玄明はちゃんとこうして約束を果たしに帰って来てくれたんだ。途中で逃げる事もできただろうに。この男は盗みはするが、きっと嘘をついて人を嵌めるような男じゃない」
小次郎の言葉に、再び多くの者が絶句する。たったそれだけの理由で人を信用するなど、お人好しにも程があると。
「だから、俺も覚悟を決める。伯父上達が本気で攻めてくるのであれば、今度こそ俺も本気で迎え撃つ」
そんな皆のあきれを感じながらも、小次郎はついに決意する。
伯父に、従兄弟に、刃を向ける決意を――
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