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第一幕 板東編
賑やかな宴の後に
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深夜遅くまで続けられた賑やかな宴は気がつけば皆が酔い潰れ、騒ぎ疲れてお開きとなった。
そして多くの者がそのまま大広間にて眠りに落ち、雑魚寝情態で夜を明かした。
「……ん」
まだ外も薄暗い時間帯、肌寒さに千紗が一人目を覚ます。
千紗の両隣には、寄りそうように眠る朱雀帝とヒナの姿が。
少し離れた位置には小次郎と秋成と四郎、昨日散々に酒を飲んだ三人が背中合わせに器用に支えあいながら眠っていた。
厠へ行こうと立ち上がる千紗は、秋成を供に起こそうと傍に寄るも、普段滅多に見る事のない彼の寝顔を前に、申し訳ない気持ちになって一人忍び足で部屋を出た。
すっかり明かりの消えた薄暗い廊下を、外から差し込む微かな光を頼りに先へ進む。
起きたばかりでまだ寝ぼけているのか、足下はフラフラと覚束無い。
「のわっ!?」
突き当たりを右に曲がった所で、何か固いものにぶつかった千紗。その反動で思わず後ろに尻餅をつきそうになった。
「おっと、大丈夫か?」
咄嗟に前から腕を掴まれ、何とか体勢を立て直す事に成功した千紗は、ぶつかった相手がどうやら人であった事を理解する。
「すまぬ。大丈夫だ。ありがとう」
千紗を支えてくれた人物に、謝罪と感謝を伝えながら顔を上げると、その人物の持つ松明の明かりに灯され、無精髭だらけの汚らしい男の顔が薄暗闇の中、ぬっと現れた。
「っ?! ぎゃああああ~!!!」
「何だ何だ? 急に叫び出してどうした?」
「ばばば化け物!? 化け物が……」
「はぁ~? 誰が化け物だ!」
突如目の前に現れた、その汚らしい無精髭の厳つい男の顔が、寝ぼけ眼の千紗にはとんでもなく恐ろしい化け物に見えたらしい。
混乱状況に陥りながら、必死に目の前の恐怖から逃れようと千紗は抗った。
だが男も、化け物と言われたまま黙ってはいられず、誤解を解こうと千紗の腕を握りしめた。
「離せ! 離せ、この――」
「千紗姫様っ!!? どうされたのですか? 先程の悲鳴は??」
そんな所に千紗の悲鳴を聞きつけ秋成が、血相を変えて駆けつけて来たからさぁ大変。
まるで男に乱暴されているかのように見える二人の様子に、頭に血がのぼった秋成はその勢いのまま刀を抜く。
「お前、姫様に何をした?! 姫様を離せ!」
「ま、待て待て。とにかく落ち着いて話を聞いてくれ。ほら、刀もおさめて……な?」
怒りに任せて今にも斬りかかってきそうな秋成を、男は必死に宥めた。
「何の騒ぎだ。一体どうした?」
騒ぎを聞きつけ、松明片手に小次郎が遅れてやって来る。
その後ろから続々と館の人間が集まってきていた。
「兄上、この男が姫様に」
秋成の訴えに、小次郎は手にしていた松明で男の顔を照らすと、灯りに照され浮かび上がった男の顔に、小次郎の後ろから四郎が驚いた様子で大きな声を上げた。
「あ~、あんた!」
驚いたのは四郎だけではない。その場にいた誰もが男の顔に息を飲んだ。
「あんた、この間兄貴が捕まえた、自称大悪党のおっさんじゃん」
「一度脱走した男が、どうしてまたここに?」
「一体何を考えているんだ?」
予想だにしない男の突然の登場に、皆口々に驚きや疑問を囁きあい、辺りはざわめきに包まれた。
だが、そんなざわめきの中、誰よりも玄明の登場に驚き、動揺していたのは他の誰でもない、小次郎だった。
玄明がここにいる。つまりは――
「皆騒がせてすまない。こいつは俺の客人だ」
「…客人? 兄上、いったい何を言って……。こいつは、姫様に無礼を働いた不届き者」
「だ~から、何もしてないって! この姫さんが俺の顔を見て化け物だとかほざくから、訂正しようとしだけだ」
自身の無実を説明する玄明に、秋成は刀を構え直し、キッと彼を睨みつける。
「秋成よせ、刀をおさめろ」
一触即発の二人に、小次郎は一方的に秋成だけを制止した。
何故自分の方が制止されるのか、納得が行かないながらも小次郎に言われては刀を納めるしかない。秋成は悔しそうに歯を食い縛りながら刀を鞘に納めた。
「とにかく騒がせてすまなかった。詳しい話をするから、皆、大広間に集まってくれないか」
不服そうな秋成の肩にぽんと手を置きながら、小次郎はざわざわと騒がしい群衆に向けて、再び広間へ集まるよう呼びかけた。
そして多くの者がそのまま大広間にて眠りに落ち、雑魚寝情態で夜を明かした。
「……ん」
まだ外も薄暗い時間帯、肌寒さに千紗が一人目を覚ます。
千紗の両隣には、寄りそうように眠る朱雀帝とヒナの姿が。
少し離れた位置には小次郎と秋成と四郎、昨日散々に酒を飲んだ三人が背中合わせに器用に支えあいながら眠っていた。
厠へ行こうと立ち上がる千紗は、秋成を供に起こそうと傍に寄るも、普段滅多に見る事のない彼の寝顔を前に、申し訳ない気持ちになって一人忍び足で部屋を出た。
すっかり明かりの消えた薄暗い廊下を、外から差し込む微かな光を頼りに先へ進む。
起きたばかりでまだ寝ぼけているのか、足下はフラフラと覚束無い。
「のわっ!?」
突き当たりを右に曲がった所で、何か固いものにぶつかった千紗。その反動で思わず後ろに尻餅をつきそうになった。
「おっと、大丈夫か?」
咄嗟に前から腕を掴まれ、何とか体勢を立て直す事に成功した千紗は、ぶつかった相手がどうやら人であった事を理解する。
「すまぬ。大丈夫だ。ありがとう」
千紗を支えてくれた人物に、謝罪と感謝を伝えながら顔を上げると、その人物の持つ松明の明かりに灯され、無精髭だらけの汚らしい男の顔が薄暗闇の中、ぬっと現れた。
「っ?! ぎゃああああ~!!!」
「何だ何だ? 急に叫び出してどうした?」
「ばばば化け物!? 化け物が……」
「はぁ~? 誰が化け物だ!」
突如目の前に現れた、その汚らしい無精髭の厳つい男の顔が、寝ぼけ眼の千紗にはとんでもなく恐ろしい化け物に見えたらしい。
混乱状況に陥りながら、必死に目の前の恐怖から逃れようと千紗は抗った。
だが男も、化け物と言われたまま黙ってはいられず、誤解を解こうと千紗の腕を握りしめた。
「離せ! 離せ、この――」
「千紗姫様っ!!? どうされたのですか? 先程の悲鳴は??」
そんな所に千紗の悲鳴を聞きつけ秋成が、血相を変えて駆けつけて来たからさぁ大変。
まるで男に乱暴されているかのように見える二人の様子に、頭に血がのぼった秋成はその勢いのまま刀を抜く。
「お前、姫様に何をした?! 姫様を離せ!」
「ま、待て待て。とにかく落ち着いて話を聞いてくれ。ほら、刀もおさめて……な?」
怒りに任せて今にも斬りかかってきそうな秋成を、男は必死に宥めた。
「何の騒ぎだ。一体どうした?」
騒ぎを聞きつけ、松明片手に小次郎が遅れてやって来る。
その後ろから続々と館の人間が集まってきていた。
「兄上、この男が姫様に」
秋成の訴えに、小次郎は手にしていた松明で男の顔を照らすと、灯りに照され浮かび上がった男の顔に、小次郎の後ろから四郎が驚いた様子で大きな声を上げた。
「あ~、あんた!」
驚いたのは四郎だけではない。その場にいた誰もが男の顔に息を飲んだ。
「あんた、この間兄貴が捕まえた、自称大悪党のおっさんじゃん」
「一度脱走した男が、どうしてまたここに?」
「一体何を考えているんだ?」
予想だにしない男の突然の登場に、皆口々に驚きや疑問を囁きあい、辺りはざわめきに包まれた。
だが、そんなざわめきの中、誰よりも玄明の登場に驚き、動揺していたのは他の誰でもない、小次郎だった。
玄明がここにいる。つまりは――
「皆騒がせてすまない。こいつは俺の客人だ」
「…客人? 兄上、いったい何を言って……。こいつは、姫様に無礼を働いた不届き者」
「だ~から、何もしてないって! この姫さんが俺の顔を見て化け物だとかほざくから、訂正しようとしだけだ」
自身の無実を説明する玄明に、秋成は刀を構え直し、キッと彼を睨みつける。
「秋成よせ、刀をおさめろ」
一触即発の二人に、小次郎は一方的に秋成だけを制止した。
何故自分の方が制止されるのか、納得が行かないながらも小次郎に言われては刀を納めるしかない。秋成は悔しそうに歯を食い縛りながら刀を鞘に納めた。
「とにかく騒がせてすまなかった。詳しい話をするから、皆、大広間に集まってくれないか」
不服そうな秋成の肩にぽんと手を置きながら、小次郎はざわざわと騒がしい群衆に向けて、再び広間へ集まるよう呼びかけた。
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