123 / 285
第一幕 板東編
賑やかな宴
しおりを挟む
貞盛が二人の伯父の元へ向かっていたのと同じ頃――
豊田では賑やかな宴が開かれていた。
「どうした秋成、そんな不機嫌な顔をして?」
「兄上。戦になるかもしれないこんな時に、何故宴など興じておられるのですか? こちらに来てから祭だ宴だと騒いでばかり。流石にこんな時くらいは控えるべきでは?」
「こんな時だからこそだよ。秋成お前こそ、こんな雨の日にまで、外で番犬に徹する必要はないんだぞ。ほら、お前も皆と一緒に宴を楽しめ」
賑やかな宴の中、今日も一人庭に立ち、番犬に徹する秋成。彼を気に掛けて、小次郎は義弟を宴の席へと誘っていた。
「いいえ。俺みたいな身分の者が、千紗姫様と同じ部屋に上がる事など許されません」
「……お前も頑固だな。ここでは身分なんて気にする必要はないと言っているのに」
だが、頑なにいう事を訊こうとしない秋成に、小次郎は呆れ顔。
「そうはいきません。一度姫の護衛になると決めたからには身分はわきまえなくては。そう忠平様とも約束いたしましたから」
「……はぁ、やれやれ。よっと――」
「あ、兄上! 何を?!」
「口で言って分からない奴には強引に行くしかないだろ」
秋成の頑固さに、小次郎はやれやれとため息を吐きながら、最終的には彼の胸ぐらを捕まえて強引に庭から屋敷へと引き上げたのだった。
「これは命令だ。千紗の護衛だと言うのなら、今日はあいつの側にいてやってくれ」
そっと秋成の耳元で囁きながら、チラリと空を見上げた小次郎。その仕草にやっと秋成は納得する。今日の宴が何故開かれたのかを。
これはきっと、千紗の為の宴だ。雷が苦手な千紗の気を、さりげなくまぎらわせる為に小次郎は、宴と称して態と騒がしくさせていたのだと。
一歩も二歩も先を見ている義兄の偉大さを感じて、適わないなと項垂れながら秋成は、義兄の想いに静かに頷いた。
「……分かりました。ご命令とあらば」
「よしよし、良い子だ。秋成に言う事を聞かせるにはやはり千紗を利用するのが一番だな」
「兄上……子供扱いはやめて下さい」
――前言撤回。やはり小次郎は、ただ単に騒ぎたかっただけなのかもしれない。
ぐりぐりと、まるで幼子にするかのように秋成の頭をなで回す義兄の姿に、秋成は考えを改めた。
そして、これ以上義兄にからかわれてはたまらないと、逃げるように秋成は千紗の元へと向かった。
そんな秋成の後ろ姿を見送りながら、小次郎は満足顔で部屋中を見渡し、今度は皆に向けて高らかかに無礼講を宣言する。
「よし、これで全員揃ったか。さぁ皆、これから秋の収穫期に向け益々忙しくなる。皆には沢山働いてもらわないとならないからな、今日は労いの意味も込めて細やかな宴を用意した。飲んで食って騒いで、今のうちにはめをはずしておいてくれよ」
小次郎から贈られた労いの言葉に、既に出来上がっていた酔っぱらい連中は、飲めや唄えやのどんちゃん騒ぎ。
わいわい賑やかな酔っぱらいの間を掻き分けて千紗の元へと辿り着いた秋成は、顔を真っ赤に染めながら千紗に絡む四郎を押しのけ、千紗の隣へと腰を下ろした。
豊田では賑やかな宴が開かれていた。
「どうした秋成、そんな不機嫌な顔をして?」
「兄上。戦になるかもしれないこんな時に、何故宴など興じておられるのですか? こちらに来てから祭だ宴だと騒いでばかり。流石にこんな時くらいは控えるべきでは?」
「こんな時だからこそだよ。秋成お前こそ、こんな雨の日にまで、外で番犬に徹する必要はないんだぞ。ほら、お前も皆と一緒に宴を楽しめ」
賑やかな宴の中、今日も一人庭に立ち、番犬に徹する秋成。彼を気に掛けて、小次郎は義弟を宴の席へと誘っていた。
「いいえ。俺みたいな身分の者が、千紗姫様と同じ部屋に上がる事など許されません」
「……お前も頑固だな。ここでは身分なんて気にする必要はないと言っているのに」
だが、頑なにいう事を訊こうとしない秋成に、小次郎は呆れ顔。
「そうはいきません。一度姫の護衛になると決めたからには身分はわきまえなくては。そう忠平様とも約束いたしましたから」
「……はぁ、やれやれ。よっと――」
「あ、兄上! 何を?!」
「口で言って分からない奴には強引に行くしかないだろ」
秋成の頑固さに、小次郎はやれやれとため息を吐きながら、最終的には彼の胸ぐらを捕まえて強引に庭から屋敷へと引き上げたのだった。
「これは命令だ。千紗の護衛だと言うのなら、今日はあいつの側にいてやってくれ」
そっと秋成の耳元で囁きながら、チラリと空を見上げた小次郎。その仕草にやっと秋成は納得する。今日の宴が何故開かれたのかを。
これはきっと、千紗の為の宴だ。雷が苦手な千紗の気を、さりげなくまぎらわせる為に小次郎は、宴と称して態と騒がしくさせていたのだと。
一歩も二歩も先を見ている義兄の偉大さを感じて、適わないなと項垂れながら秋成は、義兄の想いに静かに頷いた。
「……分かりました。ご命令とあらば」
「よしよし、良い子だ。秋成に言う事を聞かせるにはやはり千紗を利用するのが一番だな」
「兄上……子供扱いはやめて下さい」
――前言撤回。やはり小次郎は、ただ単に騒ぎたかっただけなのかもしれない。
ぐりぐりと、まるで幼子にするかのように秋成の頭をなで回す義兄の姿に、秋成は考えを改めた。
そして、これ以上義兄にからかわれてはたまらないと、逃げるように秋成は千紗の元へと向かった。
そんな秋成の後ろ姿を見送りながら、小次郎は満足顔で部屋中を見渡し、今度は皆に向けて高らかかに無礼講を宣言する。
「よし、これで全員揃ったか。さぁ皆、これから秋の収穫期に向け益々忙しくなる。皆には沢山働いてもらわないとならないからな、今日は労いの意味も込めて細やかな宴を用意した。飲んで食って騒いで、今のうちにはめをはずしておいてくれよ」
小次郎から贈られた労いの言葉に、既に出来上がっていた酔っぱらい連中は、飲めや唄えやのどんちゃん騒ぎ。
わいわい賑やかな酔っぱらいの間を掻き分けて千紗の元へと辿り着いた秋成は、顔を真っ赤に染めながら千紗に絡む四郎を押しのけ、千紗の隣へと腰を下ろした。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

金蝶の武者
ポテ吉
歴史・時代
時は天正十八年。
関東に覇を唱えた小田原北条氏は、関白豊臣秀吉により滅亡した。
小田原征伐に参陣していない常陸国府中大掾氏は、領地没収の危機になった。
御家存続のため、選ばれたのは当主大掾清幹の従弟三村春虎である。
「おんつぁま。いくらなんでもそったらこと、むりだっぺよ」
春虎は嘆いた。
金の揚羽の前立ての武者の奮戦記 ──
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
戦国三法師伝
kya
歴史・時代
歴史物だけれども、誰にでも見てもらえるような作品にしていこうと思っています。
異世界転生物を見る気分で読んでみてください。
本能寺の変は戦国の覇王織田信長ばかりではなく織田家当主織田信忠をも戦国の世から葬り去り、織田家没落の危機を迎えるはずだったが。
信忠が子、三法師は平成日本の人間が転生した者だった…

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
不屈の葵
ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む!
これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。
幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。
本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。
家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。
今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。
家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。
笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。
戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。
愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目!
歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』
ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!

永き夜の遠の睡りの皆目醒め
七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。
新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。
しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。
近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。
首はどこにあるのか。
そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。
※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる