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第一幕 板東編
叔父達との対面
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着替えを済ませた貞盛が連れて来られた部屋には良兼と良正、二人の伯父が座していて、仲良く膳を囲んでいた。
「おぉ貞盛。やっと参ったか。待ちくたびれたぞ」
「……ご無沙汰しております。良兼伯父上」
「全くだ貞盛。帰ったら挨拶に来いと言っておいただろう」
「良正伯父上。なかなかご挨拶に来られず申し訳ございませんでした」
「まぁまぁまぁ、そう怒ってやるな良正。貞盛も、そんな所に突っ立っていないで、ここへ座れ」
二人の膳の前にはもう一つ膳が用意されていて、伯父達は貞盛をその膳の前に座るよう促した。
平良兼。彼は貞盛の父である国香のすぐ下の弟で、小次郎の父良将からすれば一つ上の兄にあたる人物。
良兼は普段から垂れ下がっている目尻を更に垂れさせて、ニコニコと優しい笑顔で貞盛を迎え入れた。
体格はコロコロとした印象で肉付きがよく、背は低い。彼を一言で例えるならば、"狸"のようだと、貞盛は常々思っていた。
そんな良兼とは対照的に、仏頂面で睨むもう一人の伯父、平良正。彼は五人いる兄弟の一番末弟にあたる。
つり上がった目元に、ゴツゴツとえらの張った輪郭。加えて恵まれた大柄な体格は、パッと見悪人のような印象を与える。
半年前、貞盛や千紗達が森の中で小次郎と再会した際に、小次郎から逃げるように去って行ったのがこの良正。
その際に、挨拶に来いと言われていたのに、実際に挨拶に来たのが半年も経った今が初めてであったものだから、元来短気で怒りっぽい良正は酷く苛立っているようだった。
「改めまして、良兼叔父上、良正叔父上、挨拶が遅れてしまい誠に申し訳ございませんでした」
「よいよい。こうして今、挨拶に来てくれたのだからな」
「良兼伯父上、ありがとうございます。所で我が弟、繁盛はここに来ておりますでしょうか?」
「おぉおぉ、繁盛もな、少し前に来てくれたぞ」
「そうですか。では、妻の杏子、それから母上、我が家臣達も一緒でしょうか?」
「勿論だ。皆よく我の呼びかけに応えてくれた。感謝するぞ。さぁさぁ、その膳は私からのほんの感謝の気持ちだ。存分に食べて行ってくれ」
「そうですか。では皆を連れて私は失礼させていただきます」
「……な、何?!」
それまでニコニコと穏やかだった良兼の笑顔が、貞盛の放った一言で一気に凍り付く。
彼の表情に浮かんだ不満を代弁するように良正が怒鳴り出した。
「何を馬鹿な事を言っている貞盛!? お前達は父の敵を打つために、良兼兄者の元へ参ったのであろう?」
「申し訳ありませんが、私に小次郎と戦う意志はございません。ここへは弟達を連れ戻しに参りました」
「貞盛貴様っ! 我等にあだなすと言うのか?」
「いいえ、それも違います。私は誰とも争うつもりはございません」
「何を馬鹿な!お前は父を殺されて悔しくはないのか?」
「父は小次郎の土地を騙しとったのですよ。殺されても仕方のない事を父はしました」
「なっ……」
「では、逆に聞かせて下さい。伯父上達は何故小次郎と戦うのですか? 小次郎と我が父、国香との間に起きた揉め事に、伯父上達は何の関係もないかと存じますが」
「関係ない? 馬鹿を言うな! 奴は国香の兄者を殺したのだぞ! 兄を殺されて関係ないわけないだろう!!」
「小次郎もまた、伯父上達にとっては実の甥。兄が殺されて怒るのに、甥を殺す事には何の抵抗もないと?」
「……それは……」
「この揉め事に平和的解決は望めないのでしょうか。同じ血を分けた一族同士が争うなど悲し過ぎるではありませんか」
「…………」
それまで貞盛の意見に噛み付いていた良正が黙り混む。
良兼もまた、目を閉じて静かに貞盛の言葉に耳を傾けていた。
「私は平和的解決を望みます。その為の話も小次郎とつけてきました。伯父上達もどうか怒りをお沈め下さい」
「…………そうか、そうか。お主の話は良くわか……」
貞盛の話を、それまで黙って聞いていた良兼が、閉ざしていた口を静かに開きかけた時――
「これはこれは貞盛様、お久しぶりです」
「……撫子様。……お久しぶりです」
良兼の妻、撫子がまるで時期を計っていたかのように突然に、部屋へと入って来た。
貞盛に軽く挨拶をすると、貞盛の横を通りすぎ、夫、良兼の隣へ座る。
そして――
「殿。殿は、私と約束してくださいましたよね。我が弟達の仇を打って下さると。国香殿と供に殺された弟、隆と繁の仇を打って下さると、そう約束しましたよね? 殿は撫子との約束を破るのですか?」
甘えるように、良兼にすりよる撫子。人目も気にせずに頬や胸板など、ぺたぺたと夫の体を嫌らしい手つきで撫で回すその姿に、ついつい貞盛は心の声を漏らした。
「……全く……姉妹そろってとんだ女狐だ」
「おぉ貞盛。やっと参ったか。待ちくたびれたぞ」
「……ご無沙汰しております。良兼伯父上」
「全くだ貞盛。帰ったら挨拶に来いと言っておいただろう」
「良正伯父上。なかなかご挨拶に来られず申し訳ございませんでした」
「まぁまぁまぁ、そう怒ってやるな良正。貞盛も、そんな所に突っ立っていないで、ここへ座れ」
二人の膳の前にはもう一つ膳が用意されていて、伯父達は貞盛をその膳の前に座るよう促した。
平良兼。彼は貞盛の父である国香のすぐ下の弟で、小次郎の父良将からすれば一つ上の兄にあたる人物。
良兼は普段から垂れ下がっている目尻を更に垂れさせて、ニコニコと優しい笑顔で貞盛を迎え入れた。
体格はコロコロとした印象で肉付きがよく、背は低い。彼を一言で例えるならば、"狸"のようだと、貞盛は常々思っていた。
そんな良兼とは対照的に、仏頂面で睨むもう一人の伯父、平良正。彼は五人いる兄弟の一番末弟にあたる。
つり上がった目元に、ゴツゴツとえらの張った輪郭。加えて恵まれた大柄な体格は、パッと見悪人のような印象を与える。
半年前、貞盛や千紗達が森の中で小次郎と再会した際に、小次郎から逃げるように去って行ったのがこの良正。
その際に、挨拶に来いと言われていたのに、実際に挨拶に来たのが半年も経った今が初めてであったものだから、元来短気で怒りっぽい良正は酷く苛立っているようだった。
「改めまして、良兼叔父上、良正叔父上、挨拶が遅れてしまい誠に申し訳ございませんでした」
「よいよい。こうして今、挨拶に来てくれたのだからな」
「良兼伯父上、ありがとうございます。所で我が弟、繁盛はここに来ておりますでしょうか?」
「おぉおぉ、繁盛もな、少し前に来てくれたぞ」
「そうですか。では、妻の杏子、それから母上、我が家臣達も一緒でしょうか?」
「勿論だ。皆よく我の呼びかけに応えてくれた。感謝するぞ。さぁさぁ、その膳は私からのほんの感謝の気持ちだ。存分に食べて行ってくれ」
「そうですか。では皆を連れて私は失礼させていただきます」
「……な、何?!」
それまでニコニコと穏やかだった良兼の笑顔が、貞盛の放った一言で一気に凍り付く。
彼の表情に浮かんだ不満を代弁するように良正が怒鳴り出した。
「何を馬鹿な事を言っている貞盛!? お前達は父の敵を打つために、良兼兄者の元へ参ったのであろう?」
「申し訳ありませんが、私に小次郎と戦う意志はございません。ここへは弟達を連れ戻しに参りました」
「貞盛貴様っ! 我等にあだなすと言うのか?」
「いいえ、それも違います。私は誰とも争うつもりはございません」
「何を馬鹿な!お前は父を殺されて悔しくはないのか?」
「父は小次郎の土地を騙しとったのですよ。殺されても仕方のない事を父はしました」
「なっ……」
「では、逆に聞かせて下さい。伯父上達は何故小次郎と戦うのですか? 小次郎と我が父、国香との間に起きた揉め事に、伯父上達は何の関係もないかと存じますが」
「関係ない? 馬鹿を言うな! 奴は国香の兄者を殺したのだぞ! 兄を殺されて関係ないわけないだろう!!」
「小次郎もまた、伯父上達にとっては実の甥。兄が殺されて怒るのに、甥を殺す事には何の抵抗もないと?」
「……それは……」
「この揉め事に平和的解決は望めないのでしょうか。同じ血を分けた一族同士が争うなど悲し過ぎるではありませんか」
「…………」
それまで貞盛の意見に噛み付いていた良正が黙り混む。
良兼もまた、目を閉じて静かに貞盛の言葉に耳を傾けていた。
「私は平和的解決を望みます。その為の話も小次郎とつけてきました。伯父上達もどうか怒りをお沈め下さい」
「…………そうか、そうか。お主の話は良くわか……」
貞盛の話を、それまで黙って聞いていた良兼が、閉ざしていた口を静かに開きかけた時――
「これはこれは貞盛様、お久しぶりです」
「……撫子様。……お久しぶりです」
良兼の妻、撫子がまるで時期を計っていたかのように突然に、部屋へと入って来た。
貞盛に軽く挨拶をすると、貞盛の横を通りすぎ、夫、良兼の隣へ座る。
そして――
「殿。殿は、私と約束してくださいましたよね。我が弟達の仇を打って下さると。国香殿と供に殺された弟、隆と繁の仇を打って下さると、そう約束しましたよね? 殿は撫子との約束を破るのですか?」
甘えるように、良兼にすりよる撫子。人目も気にせずに頬や胸板など、ぺたぺたと夫の体を嫌らしい手つきで撫で回すその姿に、ついつい貞盛は心の声を漏らした。
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