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第一幕 板東編
初恋物語③
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「えぇ……? 小次郎様には、会えなくなってしまうのですか?」
「はい、杏子姫様。小次郎の実家は下総にある相馬郡。半年の間、我が石田の屋敷へ社会勉強も兼ね遊びに来ていたのですが、近々実家に帰る事になりまして。今日は最後の挨拶に伺いました。なぁ小次郎」
「はい」
「……そう……なのですか。小次郎様は……」
「はい。数ヶ月と短い間でしたがお世話になりました。俺は実家へ帰る為の準備がありますのでここで失礼します」
杏子への別れの挨拶を終えた小次郎は一人屋敷を去って行く。
杏子を励まそうと太郎は今暫くその場へ残った。
「杏子姫様、そのような悲しい顔をなさらないで下さい。この先永遠に会えなくなるわけではなし。またいつか、この上総に遊びに来てくれますよ」
「……それでも、今までのようには……お会いできないのでしょう?」
「姫様、私はずっとここにいます。私はこれからも変わらず、杏子姫様に会いに来ますから」
「……」
太郎の慰めも虚しく、杏子の頬を大粒の涙が静かに流れ落ちた。
どうして涙が流れるのか、理由がわからず戸惑う杏子姫。
「泣いているのですか? 小次郎に会えなくなる事は泣く程淋しいですか? 私は、変わらず会いに来ると、言っているのに……」
「……」
「貴方は……小次郎の事が好きなのですね」
「…………好き? 私が……小次郎様の事を?」
思いがけず太郎から掛けられた言葉に、杏子の瞳からは後から後から涙が溢れ出してくる。
知らぬ間に己の中に芽生えていた小次郎への恋心をついに自覚してじったから。
「……好き。好き。私、小次郎様の事が好きです。行かないで小次郎様……。私から離れて……行かないで……」
それ以上、小次郎の為、杏子の泣いてる姿を見る事に耐えられなかった太郎は、そっと静かに彼女の部屋から出て行った。
太郎がいなくなった後も、目を真っ赤に腫らして泣き続けた杏子姫。
屋敷の者達に心配されながら、その日は泣き疲れて眠りに落ちた。
◆◆◆
「ん……」
目を覚ました時には外はすっかり暗く、虫の音さえも聞こえなくて、辺りはシンと静まりかえっていた。
だからこそ余計に耳に響いた。部屋の外から聞こえて来る足音が――
足音は、杏子の部屋の前で止まる。
「……誰か、そこにいるの?」
御簾を隔てた向こう側に感じる人の気配に、杏子は恐る恐る声を掛ける。と、ゆっくり静かに御簾は上げられた。
沈み掛けの微かな月明かりに照らされながら、写し出されるその人物を必死に目を凝らし見る杏子姫。
服装や背格好的にはとても侍女達とは思えない。かと言って父のような大人の男のものでもない。体の線は細く、身長も自分とさほど変わらないくらいの――子供?
沈みかけの月明かりでは光が弱く、それ以上確認する事は敵わなかった。
次第に再び御簾は閉ざされ、暗闇が二人を包む。
「貴方は誰? どうしてこのような時間に、私の部屋へ忍び込んで来たのですか?」
「………」
杏子は侵入者に対して震える声で問いかける。
だが、相手からの返事はない。ゆっくりと近付いてくる足音に、恐怖からか背中に汗が流れ落ちるのを感じた。
「それ以上、近付く事は許しません。今ここで大声をあげて人を呼びますよ」
必死に虚勢を張る杏子姫。だが、虚勢も虚しく次の瞬間には強引に手で口を塞がれてしまった。
「んん!」
「しっ。静かに。私です。杏子姫様」
口を塞ぐその人物から、ほのかに香る甘い香り――橘の花の香りに杏子ははっとした。
「もしかして、小次郎様ですか?」
香りに誘われ頭に浮かんだ人物の名を口にすると、相手は「はい」と短く返事をする。
「あぁ、小次郎様……小次郎様!」
忍び込んだ相手が、愛しの小次郎だと分かって安堵と供に込み上げる嬉しさから、杏子は小次郎へと抱きついた。
自身へと体を預け来る杏子に、その人物は優しく接吻する。
そっと杏子姫の体を押し倒しながら、おでこへ、頬へ、唇へ、顔中に接吻の嵐を落として行く。
杏子姫は、くすぐったそうに微笑んだ。
その行為は、次第に下へと降りて行き、着物の帯を器用に解きながら、首筋へ、肩先へ、そして、まだ膨らみかけの小さな胸へ。
「あっ……」
小さな胸のてっぺんで硬く尖った突起をそっと吸われた瞬間、感じた事のない快感に襲われて、杏子姫の口から思わず甘い声が漏れた。
始めての快感を今一度求めるかのように、杏子は自身を抱く小次郎の背中へと腕を回す。
「……小次郎……様。小次郎様……。杏子は貴方をお慕いしております。どうか私を置いていかないで――」
「はい、杏子姫様。小次郎の実家は下総にある相馬郡。半年の間、我が石田の屋敷へ社会勉強も兼ね遊びに来ていたのですが、近々実家に帰る事になりまして。今日は最後の挨拶に伺いました。なぁ小次郎」
「はい」
「……そう……なのですか。小次郎様は……」
「はい。数ヶ月と短い間でしたがお世話になりました。俺は実家へ帰る為の準備がありますのでここで失礼します」
杏子への別れの挨拶を終えた小次郎は一人屋敷を去って行く。
杏子を励まそうと太郎は今暫くその場へ残った。
「杏子姫様、そのような悲しい顔をなさらないで下さい。この先永遠に会えなくなるわけではなし。またいつか、この上総に遊びに来てくれますよ」
「……それでも、今までのようには……お会いできないのでしょう?」
「姫様、私はずっとここにいます。私はこれからも変わらず、杏子姫様に会いに来ますから」
「……」
太郎の慰めも虚しく、杏子の頬を大粒の涙が静かに流れ落ちた。
どうして涙が流れるのか、理由がわからず戸惑う杏子姫。
「泣いているのですか? 小次郎に会えなくなる事は泣く程淋しいですか? 私は、変わらず会いに来ると、言っているのに……」
「……」
「貴方は……小次郎の事が好きなのですね」
「…………好き? 私が……小次郎様の事を?」
思いがけず太郎から掛けられた言葉に、杏子の瞳からは後から後から涙が溢れ出してくる。
知らぬ間に己の中に芽生えていた小次郎への恋心をついに自覚してじったから。
「……好き。好き。私、小次郎様の事が好きです。行かないで小次郎様……。私から離れて……行かないで……」
それ以上、小次郎の為、杏子の泣いてる姿を見る事に耐えられなかった太郎は、そっと静かに彼女の部屋から出て行った。
太郎がいなくなった後も、目を真っ赤に腫らして泣き続けた杏子姫。
屋敷の者達に心配されながら、その日は泣き疲れて眠りに落ちた。
◆◆◆
「ん……」
目を覚ました時には外はすっかり暗く、虫の音さえも聞こえなくて、辺りはシンと静まりかえっていた。
だからこそ余計に耳に響いた。部屋の外から聞こえて来る足音が――
足音は、杏子の部屋の前で止まる。
「……誰か、そこにいるの?」
御簾を隔てた向こう側に感じる人の気配に、杏子は恐る恐る声を掛ける。と、ゆっくり静かに御簾は上げられた。
沈み掛けの微かな月明かりに照らされながら、写し出されるその人物を必死に目を凝らし見る杏子姫。
服装や背格好的にはとても侍女達とは思えない。かと言って父のような大人の男のものでもない。体の線は細く、身長も自分とさほど変わらないくらいの――子供?
沈みかけの月明かりでは光が弱く、それ以上確認する事は敵わなかった。
次第に再び御簾は閉ざされ、暗闇が二人を包む。
「貴方は誰? どうしてこのような時間に、私の部屋へ忍び込んで来たのですか?」
「………」
杏子は侵入者に対して震える声で問いかける。
だが、相手からの返事はない。ゆっくりと近付いてくる足音に、恐怖からか背中に汗が流れ落ちるのを感じた。
「それ以上、近付く事は許しません。今ここで大声をあげて人を呼びますよ」
必死に虚勢を張る杏子姫。だが、虚勢も虚しく次の瞬間には強引に手で口を塞がれてしまった。
「んん!」
「しっ。静かに。私です。杏子姫様」
口を塞ぐその人物から、ほのかに香る甘い香り――橘の花の香りに杏子ははっとした。
「もしかして、小次郎様ですか?」
香りに誘われ頭に浮かんだ人物の名を口にすると、相手は「はい」と短く返事をする。
「あぁ、小次郎様……小次郎様!」
忍び込んだ相手が、愛しの小次郎だと分かって安堵と供に込み上げる嬉しさから、杏子は小次郎へと抱きついた。
自身へと体を預け来る杏子に、その人物は優しく接吻する。
そっと杏子姫の体を押し倒しながら、おでこへ、頬へ、唇へ、顔中に接吻の嵐を落として行く。
杏子姫は、くすぐったそうに微笑んだ。
その行為は、次第に下へと降りて行き、着物の帯を器用に解きながら、首筋へ、肩先へ、そして、まだ膨らみかけの小さな胸へ。
「あっ……」
小さな胸のてっぺんで硬く尖った突起をそっと吸われた瞬間、感じた事のない快感に襲われて、杏子姫の口から思わず甘い声が漏れた。
始めての快感を今一度求めるかのように、杏子は自身を抱く小次郎の背中へと腕を回す。
「……小次郎……様。小次郎様……。杏子は貴方をお慕いしております。どうか私を置いていかないで――」
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