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第一幕 板東編
貞盛の帰還②
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「まぁいいや。この話は後ほど深く訊くとしましょう。とにかく私は、父の仇だとかそんなくだらない話にのるつもりはありません。私はそのくだらない争いを止める為に帰って来たのですから」
「ちょ、ちょっと待てよ兄者! 何馬鹿な事を言って――」
「馬鹿な事ではない。私はいたって真面目だよ繁盛。悪いが私が帰って来たからには、これ以上伯父達と供に無駄な戦をする真似はさせない。私はこの戦において平和的解決を望んでいるのだ。その為の話も小次郎と既につけて来たしな」
「どうして。どうしてそんな事を……兄者は親父の仇をうちたいとは思わないのか。兄者は憎くないのか、父上を殺した将門が!」
「憎んだ所で仕方なかろう。小次郎を憎んだとて死んだ父上が帰ってくるわけでもなし。違うか?」
「それなら将門が犯した罪だって無くなるわけじゃない。兄者は将門のやった事を黙って許せって言うのか?!」
「そうだ」
「そうだって……どうして! どうしてだよ兄者!! 親父を殺されて悔しくないのか?」
「悔しくないわけではない。だが小次郎は身内ぞ。何故身内どうして争わねばならぬ? 身内同士でいがみ合うなど、それこそ虚しいだけではないか。悲しみの連鎖はどこかで断ち切らねばならぬのだ」
「だからって……どうして俺達が我慢しなきゃならないんだよ!」
「はて。ずっと我慢して来たのは、小次郎の方ではないか? 先に小次郎に手を出したのは父上であろう。まさか繁盛、お主が知らぬわけもあるまい?」
「それは……」
「私に言わせればこうなったのは全て父上の自業自得。仕方のない事だったのではないか」
「兄者、そんな言い方はあんまりだ!」
「ええい、うるさい! 黙れ繁盛!!」
「っ……」
「とにかくだ、これ以上の無用な争いはこの私が許さない。憎しみなどと言う下らない感情は今すぐ捨てろ。お前は私の言う事を訊いていれば良いのだ。分かったか繁盛」
「そんな……俺には出来ない。父上を殺した将門を許す事など、俺には出来ない!」
「これは命令だ! 父上亡き後、一門の棟梁は長男であるこの私。私が下した決断に、口答えなど許さない!」
貞盛の威圧感に、怯む繁盛。
繁盛はそれ以上何も言い返す事は出来なかった。
繁盛の手にはきつく拳が握りしめられる。
その拳は、抑えきれない怒りによって、プルプルと震えていた。
「へぇ、散々愚痴を溢しまくっていたわりに、案外頑張ってんじゃねぇか」
今のやり取りの一部始終を、忍び込んだ床下からこっそり盗み聴いていた玄明。
屋敷までの道中、ずっと愚痴だらけだった貞盛が始めて見せた威厳に、少しばかり感心したように呟いた。
「だが、あんだけ愚痴ってた人間が、いつまでその仮面を被っていられるか、見物だな」
「ちょ、ちょっと待てよ兄者! 何馬鹿な事を言って――」
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「そうだ」
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「だからって……どうして俺達が我慢しなきゃならないんだよ!」
「はて。ずっと我慢して来たのは、小次郎の方ではないか? 先に小次郎に手を出したのは父上であろう。まさか繁盛、お主が知らぬわけもあるまい?」
「それは……」
「私に言わせればこうなったのは全て父上の自業自得。仕方のない事だったのではないか」
「兄者、そんな言い方はあんまりだ!」
「ええい、うるさい! 黙れ繁盛!!」
「っ……」
「とにかくだ、これ以上の無用な争いはこの私が許さない。憎しみなどと言う下らない感情は今すぐ捨てろ。お前は私の言う事を訊いていれば良いのだ。分かったか繁盛」
「そんな……俺には出来ない。父上を殺した将門を許す事など、俺には出来ない!」
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「へぇ、散々愚痴を溢しまくっていたわりに、案外頑張ってんじゃねぇか」
今のやり取りの一部始終を、忍び込んだ床下からこっそり盗み聴いていた玄明。
屋敷までの道中、ずっと愚痴だらけだった貞盛が始めて見せた威厳に、少しばかり感心したように呟いた。
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