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第一幕 板東編
貞盛の本音
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「さて、面倒な事になった。せっかく帝からの信頼を掴みかけていたと言うのに、とんだ邪魔が入ったものだ」
馬に揺られながら、小次郎が治める下総国豊田郡から、貞盛の父が治めていた常陸国真壁郡を目指す道中、貞盛は退屈な一人旅にグチグチと愚痴をこぼしていた。
「このような田舎の土地になど興味はない。私が欲しているのは京での出世だ。欲しくもない土地の争いに巻き込まれて、出世街道から外れるなど馬鹿馬鹿しいにも程がある。何故このような面倒事にこの私が巻き込まれねばならぬのだ、まったく。太政大臣 藤原忠平様とその一の姫、はたまた帝とお近づきになれる絶好の機会と思うて付き人に志願したが……失敗だったかのぉ。私は一体いつになったら京へ戻れるのだろう? 私がいるべき場所は雅な京こそ相応しい。このような田舎……どうなろうと知ったことではないわ」
背後に人の視線があるとも知らず、グチグチと延々愚痴をこぼし続ける貞盛。
「あれが太郎貞盛か? さっきから愚痴ばかり口にして。あんな男を将門は信じたがっていたのか?」
小次郎より貞盛の監視を頼まれていた玄明は、馬で前を歩く貞盛の想像以上のクズ男ぶりに、うんざりした顔でそう呟いた。
――『まだ奴が裏切るとは決まってない!』
――『…………信じたい。あいつは、俺の従兄弟で、俺の友だ。友を疑う事など、したくはない』
――『だが、あいつの性格は俺が一番良く知っている。あいつは、お調子者で、意志が弱くて……風が吹けばすぐどこかへ飛ばされる』
小次郎の言葉の数々を思い出しながら、玄明は一人納得した。
「確かに……信じたくてもあれじゃあ信じきれない。将門が言った、風が吹けばすぐどこかへ飛ばされる、あの言葉の意味も頷ける。これは見届けるべくもないか――」
ついには足を止める玄明。
遣り甲斐のない仕事に飽きて、そのままとんずらする事を考え踵を返すも、何故か見張りを頼まれた時に見た小次郎の苦痛に歪んだ顔が頭にちらつく。
「信じてた従兄弟に裏切られて……俺様まで裏切っちまったら……あいつは悲しむかな……」
――『その時は俺に、見る目がなかっただけだ』
小次郎から受けた言葉を思い出し、ぽりぽりと頭をかく玄明。
少なからず小次郎は玄明に何かしら期待をして、仕事を頼んで来たのであろうから、一度寄せられた信頼を裏切ると言うのはやはり、何とも後味の悪いものだなと玄明は思った。
「…………仕方ねぇ。俺様一人くらいはちゃんと、あいつの信頼に応えてやらないとな。あぁ~俺様って相変わらず情に熱い、良い男!」
自画自賛しながら玄明は、再び踵を返し貞盛を追うべく歩みを進めはじめた。
馬に揺られながら、小次郎が治める下総国豊田郡から、貞盛の父が治めていた常陸国真壁郡を目指す道中、貞盛は退屈な一人旅にグチグチと愚痴をこぼしていた。
「このような田舎の土地になど興味はない。私が欲しているのは京での出世だ。欲しくもない土地の争いに巻き込まれて、出世街道から外れるなど馬鹿馬鹿しいにも程がある。何故このような面倒事にこの私が巻き込まれねばならぬのだ、まったく。太政大臣 藤原忠平様とその一の姫、はたまた帝とお近づきになれる絶好の機会と思うて付き人に志願したが……失敗だったかのぉ。私は一体いつになったら京へ戻れるのだろう? 私がいるべき場所は雅な京こそ相応しい。このような田舎……どうなろうと知ったことではないわ」
背後に人の視線があるとも知らず、グチグチと延々愚痴をこぼし続ける貞盛。
「あれが太郎貞盛か? さっきから愚痴ばかり口にして。あんな男を将門は信じたがっていたのか?」
小次郎より貞盛の監視を頼まれていた玄明は、馬で前を歩く貞盛の想像以上のクズ男ぶりに、うんざりした顔でそう呟いた。
――『まだ奴が裏切るとは決まってない!』
――『…………信じたい。あいつは、俺の従兄弟で、俺の友だ。友を疑う事など、したくはない』
――『だが、あいつの性格は俺が一番良く知っている。あいつは、お調子者で、意志が弱くて……風が吹けばすぐどこかへ飛ばされる』
小次郎の言葉の数々を思い出しながら、玄明は一人納得した。
「確かに……信じたくてもあれじゃあ信じきれない。将門が言った、風が吹けばすぐどこかへ飛ばされる、あの言葉の意味も頷ける。これは見届けるべくもないか――」
ついには足を止める玄明。
遣り甲斐のない仕事に飽きて、そのままとんずらする事を考え踵を返すも、何故か見張りを頼まれた時に見た小次郎の苦痛に歪んだ顔が頭にちらつく。
「信じてた従兄弟に裏切られて……俺様まで裏切っちまったら……あいつは悲しむかな……」
――『その時は俺に、見る目がなかっただけだ』
小次郎から受けた言葉を思い出し、ぽりぽりと頭をかく玄明。
少なからず小次郎は玄明に何かしら期待をして、仕事を頼んで来たのであろうから、一度寄せられた信頼を裏切ると言うのはやはり、何とも後味の悪いものだなと玄明は思った。
「…………仕方ねぇ。俺様一人くらいはちゃんと、あいつの信頼に応えてやらないとな。あぁ~俺様って相変わらず情に熱い、良い男!」
自画自賛しながら玄明は、再び踵を返し貞盛を追うべく歩みを進めはじめた。
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