時ノ糸~絆~

汐野悠翔

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第一幕 板東編

拭えぬ不安から

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貞盛を見送った後、小次郎はその足である場所へとやって来ていた。


「あぁ退屈だ。せっかく俺様の登場場面が来たと思えば、さほど出番もなくこんな所に閉じ込められて、あぁ退屈だ。退屈だ退屈だ! 退屈で死んでしまいそうだぁ!!」

「ヒヒ~ン」

「……返ってくるのは馬の鳴き声だけ。はぁ~……」

「ヒヒ~ン」

「泣く子も黙る大悪党、藤原玄明様がいつまでもこんな所で大人しく捕まってるなんて、らしくねぇよな?  あぁ、らしくねぇ」

「ヒヒン?」

「そろそろ抜け出す頃合いか。よし、そうだな。そうしよう。そうと決まれば、おい、お前。そこのお前」

「ヒヒ~ン?」

「そうだ馬野郎、お前この縄を噛み切ってくれ」

「ヒヒ~ン」


小次郎がやってきたある場所とは、馬小屋。
 
馬小屋では、数日前に小次郎によって捉えられた、自称“大悪党”藤原玄明が脱走計画を企てている真っ最中で、馬を相手に会話をしていた玄明に対し、小次郎は呆れた様子で声をかけた。


「それは困るな、自称大悪党さん」

「うおっ?!  びっくりしたなぁ。おい。お前いつからそこにいた? 気配もなく突然話かけるな。寿命が縮まっちまっただろ」

「……」

「な、何だよ。そのアホな子を見るような冷たい目は」

「…………いや、なんと言うか……馬を相手に会話をして、虚しくならないか?」

「う、うるせぇ! 仕方ねぇだろ、ここには馬しか話相手がいないんだから! なんだお前、俺様をわざわざ馬鹿にしに来たのか?くそったれが。悪いが俺様は今忙しいんだ。用事がないなら、さっさと失せろ」


まさか今の馬との会話を人に見られていたとは、玄明は顔を真っ赤に染めて怒鳴った。

対して小次郎は、急に真剣な顔をして

 
「いや、用事ならある。お前に仕事を頼みたいんだ」


耳を疑うような言葉を口にした。

 
「……は?仕事??あんだが?俺様に?」

「あぁ」


小次郎の申し出に、面食らう玄明。


「な、何寝ぼけた事言ってやがる。俺をこんな所に閉じ込めた張本人が」

「だから、お前に機会をくれてやるのさ。もし俺のお願いする仕事を引き受けるのであれば、任務が終わり次第お前を自由の身にしてやる」

「引き受けなければ?」

「勿論今のまま、拘束され続けるだけだ」

「……仕事って? 俺様に何をさせるつもりだ、将門さんよぉ」

「偵察だ。太郎貞盛と言う男の動きを見張ってほしい」

「太郎貞盛?」

「あぁ、俺の従兄弟だ。太郎は今し方、常陸国ひたちのくにの真壁郡にある石田と言う地へ向かった。石田は太郎の故郷で、伯父達を説得する為に一度故郷へと帰る事になったんだが――」


小次郎は全ての事の経緯を玄明に説明した。

平一門で起こっているいざこざについて。
そして貞盛が、石田へと向かった理由について。

玄明は静かに小次郎の話に耳を傾けていた。


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