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第一幕 板東編
苦悩と対話②
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同じ頃――
「寛明様? こんな庭の片隅で何をなされているのですか?部屋に戻っても姿が見あたらず、心配しました」
「……貞盛、私を置いて、どこかへ行ってしまうのか?」
「寛明様?」
「約束したではないか。お主は私の側にいてくれると、約束したではないか」
「……寛明様。もしや、先程のあの場にいらっしゃったのですね?」
「……」
「心配なさらないで下さい。ほんの少しの間、ここを留守にするだけです。すぐに戻って参ります」
「誠か? 誠すぐに戻ってくるか?私の元へ……戻って来てくれるのか?」
「はい、必ず。役目を果たしましたらば、すぐに貴方様の元へ戻って参ります」
貞盛との別れを惜しむ朱雀帝に、貞盛は忠誠の証しとばかりに地面に片膝をつけ、朱雀帝に向かって深々と頭を下げて見せた。
「私は貴方様の臣。決して主を裏切るような真似はいたしません。どうか、信じて下さい」
「………」
貞盛の行為をじっと静かに見つめる朱雀帝。
長い長い沈黙の果てに
「分かった。お主の言葉、信じよう。すぐに帰ってくるのだぞ、朕の元へ。待っておるからな」
不安や寂しさをぐっと心の奥へと押し殺しながら、朱雀帝は貞盛を送り出す決意を固めた。
そして、それから二日の後――
貞盛は豊田の地を立った。
大きな使命を担って、実家へと帰る貞盛を一目見送ろうと、大勢の小次郎の館の者達が門前へと集まっていた。
この日ばかりは、朱雀帝の姿もそこにあった。
「「「太郎様、どうぞお気を付けて」」」
多くの者から声を掛けられる中、朱雀帝は群衆から少し離れた位置に、一人ぽつんと立っていた。
そんな朱雀帝の姿を見つけた貞盛は、彼に向かってにっこり微笑みかけると、遠くから彼に向かって手を振ってみせた。
朱雀帝もまた、小さく手を振り返していた。
「小次郎、私が留守の間、寛明様の事を頼んだぞ」
「あぁ。お前も――頼んだぞ」
「分かっている。必ず伯父達を説得して戻ってくるから。私に全て任せておけ」
「……あぁ」
貞盛は最後に、小次郎と二、三言葉を交わした後、「じゃあな」と言って歩き出す。
大きな使命を担って旅立つ友との別れは、以外なほどあっさりしたものだなと周囲は思った。
だが、逆にお互いを信頼しあっているからこその別れにも思えて、周囲は貞盛に対する期待を大きくした。
「これできっと、大丈夫。これでもう戦も終わる」
「そうだな。貞盛様に任せておけば大丈夫だ。秋の収穫に向けて、わしらはわしらの仕事に励もうぞ」
貞盛の姿が見えなくなる頃、皆が貞盛への期待を口にしながら、散り散りに館へと戻って行く。
そんな中、何故か小次郎だけはなかなかその場を離れようとせず、ぽつりと小さく声を漏らした。
「頼んだぞ……貞盛。信じているからな、お前の事……信じているからな……」
そんな小次郎の呟きを、彼のすぐ隣いた四郎は聞き逃さなかった。
思わず見上げた兄の横顔。
四郎の瞳には小次郎が、やけに寂しそうに映って見えて
「……兄貴?」
四郎は何故か、言い知れない胸騒ぎを覚えたのだった。
「寛明様? こんな庭の片隅で何をなされているのですか?部屋に戻っても姿が見あたらず、心配しました」
「……貞盛、私を置いて、どこかへ行ってしまうのか?」
「寛明様?」
「約束したではないか。お主は私の側にいてくれると、約束したではないか」
「……寛明様。もしや、先程のあの場にいらっしゃったのですね?」
「……」
「心配なさらないで下さい。ほんの少しの間、ここを留守にするだけです。すぐに戻って参ります」
「誠か? 誠すぐに戻ってくるか?私の元へ……戻って来てくれるのか?」
「はい、必ず。役目を果たしましたらば、すぐに貴方様の元へ戻って参ります」
貞盛との別れを惜しむ朱雀帝に、貞盛は忠誠の証しとばかりに地面に片膝をつけ、朱雀帝に向かって深々と頭を下げて見せた。
「私は貴方様の臣。決して主を裏切るような真似はいたしません。どうか、信じて下さい」
「………」
貞盛の行為をじっと静かに見つめる朱雀帝。
長い長い沈黙の果てに
「分かった。お主の言葉、信じよう。すぐに帰ってくるのだぞ、朕の元へ。待っておるからな」
不安や寂しさをぐっと心の奥へと押し殺しながら、朱雀帝は貞盛を送り出す決意を固めた。
そして、それから二日の後――
貞盛は豊田の地を立った。
大きな使命を担って、実家へと帰る貞盛を一目見送ろうと、大勢の小次郎の館の者達が門前へと集まっていた。
この日ばかりは、朱雀帝の姿もそこにあった。
「「「太郎様、どうぞお気を付けて」」」
多くの者から声を掛けられる中、朱雀帝は群衆から少し離れた位置に、一人ぽつんと立っていた。
そんな朱雀帝の姿を見つけた貞盛は、彼に向かってにっこり微笑みかけると、遠くから彼に向かって手を振ってみせた。
朱雀帝もまた、小さく手を振り返していた。
「小次郎、私が留守の間、寛明様の事を頼んだぞ」
「あぁ。お前も――頼んだぞ」
「分かっている。必ず伯父達を説得して戻ってくるから。私に全て任せておけ」
「……あぁ」
貞盛は最後に、小次郎と二、三言葉を交わした後、「じゃあな」と言って歩き出す。
大きな使命を担って旅立つ友との別れは、以外なほどあっさりしたものだなと周囲は思った。
だが、逆にお互いを信頼しあっているからこその別れにも思えて、周囲は貞盛に対する期待を大きくした。
「これできっと、大丈夫。これでもう戦も終わる」
「そうだな。貞盛様に任せておけば大丈夫だ。秋の収穫に向けて、わしらはわしらの仕事に励もうぞ」
貞盛の姿が見えなくなる頃、皆が貞盛への期待を口にしながら、散り散りに館へと戻って行く。
そんな中、何故か小次郎だけはなかなかその場を離れようとせず、ぽつりと小さく声を漏らした。
「頼んだぞ……貞盛。信じているからな、お前の事……信じているからな……」
そんな小次郎の呟きを、彼のすぐ隣いた四郎は聞き逃さなかった。
思わず見上げた兄の横顔。
四郎の瞳には小次郎が、やけに寂しそうに映って見えて
「……兄貴?」
四郎は何故か、言い知れない胸騒ぎを覚えたのだった。
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