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第一幕 板東編
小次郎と貞盛
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「で? いったい私に何の用だと言うんだ四郎。わざわざ部屋から呼び出して、大事な話をしたいとは」
ぶつぶつと文句を言いながら、四郎に連れられ屋敷中の人間が集まる広間へやって来た貞盛。
広間とは、いつも屋敷の者達が揃って食事をするこの館で一番広い部屋。畳20畳分程の広さがあるだろうか。
それでも入りきらずに庭先まで溢れかえった群衆を目にして、貞盛の表情は更に不機嫌なものへと歪められた。
「……しかも皆、勢揃いして」
「まぁ座れ、太郎」
「これはこれは、いつの間にやら小次郎殿もご帰還か?」
目の前のただならぬ様子に、貞盛は小次郎へと皮肉を込めた返答をしながらも、大人しく小次郎の隣へと腰をおろした。
◇◇◇
「で? 一体今から何の話がはじまるのだろうな秋成? 皆を勢揃いさせて」
「さあ?」
「そして何故私達だけはあの和の中へ入れてもらえなかったのだろうな?」
「さあ?」
緊迫した空気が流れる中、庭に溢れ出した群衆のそのまた最後尾。コソコソと小次郎から身を潜めながら見物する千紗と秋成の姿がそこにはあった。
何故二人がこんな所でコソコソしているのかと言えば――
『秋成、千紗を連れて部屋へ戻っていろ』
『むむむ。何故私達だけ部屋へ戻らなければならぬのだ?私達もお前達の話し合いに混ざりたいぞ』
『良いから、部屋へ戻っていろ。今からする話合いは、お前達には全く関係のない話だ。これ以上、俺たちの事情に首を突っ込んでくるな』
四郎が貞盛を呼びに行っている間に、二人だけは小次郎から部屋へ戻るよう言われたのだ。
だが、千紗が大人しく言う事を聞くはずもなく、こっそりと群衆に紛れて、今から始められる小次郎達の集会をそこから盗み訊く事にしたのだ。
「……ん?あやつ、あんな所で何をしておるのだ?」
するとそこに、貞盛の後を追いかけ紛れ込んだのか、ふらふらと群衆の中を彷徨い歩く朱雀帝の姿を見つけた。
人にぶつかっては弾き飛ばされ、転んではめそめそと泣きじゃくる朱雀帝の姿に、見かねた千紗が秋成に命じた。
「全く世話の焼ける……。秋成、危なっかしいからあやつをここへ連れて参れ」
「……仰せのままに」
千紗の命を受けた秋成は、足音一つ立てずに朱雀帝の背後へと近づくと、後ろから口を塞いだ状態で、力尽くで千紗の元へと連れて来た。
突然の出来事に朱雀帝の体は恐怖に震える。
そして更には、目の前に現れた千紗対して怯えを示し、体を強ばらせていた。
自分に対する朱雀帝の怯えを感じながらも、千紗は気にせず声をかける。
「お主、こんな所まで出て来てどうした?」
「………急に貞盛が連れていかれたから。……心配になって後をつけてきた……」
「成る程。奴ならあそこにおるぞ」
「貞盛!」
千紗が差し示すや、貞盛の元へと飛び出して行かんばかりの勢いに、千紗と秋成の二人は慌てて朱雀帝の体を押さえつけた。
「待て、今出ていってはまずい。あやつの事が心配なのなら、お主もここで大人しく見守っていろ」
「…………」
場の雰囲気を察したのか、それとも恐怖心からなのか、千紗の説得に素直に従う意を見せた朱雀帝。
三人は群衆の最後尾から、今まさに始められる集会を静かに見守った。
ぶつぶつと文句を言いながら、四郎に連れられ屋敷中の人間が集まる広間へやって来た貞盛。
広間とは、いつも屋敷の者達が揃って食事をするこの館で一番広い部屋。畳20畳分程の広さがあるだろうか。
それでも入りきらずに庭先まで溢れかえった群衆を目にして、貞盛の表情は更に不機嫌なものへと歪められた。
「……しかも皆、勢揃いして」
「まぁ座れ、太郎」
「これはこれは、いつの間にやら小次郎殿もご帰還か?」
目の前のただならぬ様子に、貞盛は小次郎へと皮肉を込めた返答をしながらも、大人しく小次郎の隣へと腰をおろした。
◇◇◇
「で? 一体今から何の話がはじまるのだろうな秋成? 皆を勢揃いさせて」
「さあ?」
「そして何故私達だけはあの和の中へ入れてもらえなかったのだろうな?」
「さあ?」
緊迫した空気が流れる中、庭に溢れ出した群衆のそのまた最後尾。コソコソと小次郎から身を潜めながら見物する千紗と秋成の姿がそこにはあった。
何故二人がこんな所でコソコソしているのかと言えば――
『秋成、千紗を連れて部屋へ戻っていろ』
『むむむ。何故私達だけ部屋へ戻らなければならぬのだ?私達もお前達の話し合いに混ざりたいぞ』
『良いから、部屋へ戻っていろ。今からする話合いは、お前達には全く関係のない話だ。これ以上、俺たちの事情に首を突っ込んでくるな』
四郎が貞盛を呼びに行っている間に、二人だけは小次郎から部屋へ戻るよう言われたのだ。
だが、千紗が大人しく言う事を聞くはずもなく、こっそりと群衆に紛れて、今から始められる小次郎達の集会をそこから盗み訊く事にしたのだ。
「……ん?あやつ、あんな所で何をしておるのだ?」
するとそこに、貞盛の後を追いかけ紛れ込んだのか、ふらふらと群衆の中を彷徨い歩く朱雀帝の姿を見つけた。
人にぶつかっては弾き飛ばされ、転んではめそめそと泣きじゃくる朱雀帝の姿に、見かねた千紗が秋成に命じた。
「全く世話の焼ける……。秋成、危なっかしいからあやつをここへ連れて参れ」
「……仰せのままに」
千紗の命を受けた秋成は、足音一つ立てずに朱雀帝の背後へと近づくと、後ろから口を塞いだ状態で、力尽くで千紗の元へと連れて来た。
突然の出来事に朱雀帝の体は恐怖に震える。
そして更には、目の前に現れた千紗対して怯えを示し、体を強ばらせていた。
自分に対する朱雀帝の怯えを感じながらも、千紗は気にせず声をかける。
「お主、こんな所まで出て来てどうした?」
「………急に貞盛が連れていかれたから。……心配になって後をつけてきた……」
「成る程。奴ならあそこにおるぞ」
「貞盛!」
千紗が差し示すや、貞盛の元へと飛び出して行かんばかりの勢いに、千紗と秋成の二人は慌てて朱雀帝の体を押さえつけた。
「待て、今出ていってはまずい。あやつの事が心配なのなら、お主もここで大人しく見守っていろ」
「…………」
場の雰囲気を察したのか、それとも恐怖心からなのか、千紗の説得に素直に従う意を見せた朱雀帝。
三人は群衆の最後尾から、今まさに始められる集会を静かに見守った。
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