時ノ糸~絆~

汐野悠翔

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第一幕 板東編

御田植祭

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清太へと使いを頼んだ四郎、彼はその足で祭りの準備で賑わう屋敷の外へとやって来た。

門を出た所で、早乙女衣装に着替え、桔梗の元へ戻ろうとしていた千紗とヒナ、そして秋成の三人と出会った。


「おぉ四郎、お主もやっと来たか。……ん?清太とは一緒ではなかったか? 桔梗が清太にお主を呼びに行くよう頼んでおったはずじゃが」

「あぁ姫さん。清太には会ったよ。けどその後、もう一つあいつにはお使いを頼んだんだ」

「……お使い?」


使いを頼んだと口にする四郎の表情が、どこか寂しげに映った気がして、千紗はキョトンと首をかしげる。


「さ~て姫さん、祭りが始まる。一年の豊作を願う大事な祭だ。姫さんに俺達の一年がかかってる。今日は早乙女としてしっかり頼んだぜ」


だが、次の瞬間にはいつものヒョウヒョウとした四郎に戻っていて、気のせいだったかと、千紗は一人納得した。

そして四郎の期待に元気な声で応えた。

「おう、任せておけ!」と。
千紗からの頼もしい返答に、満足気に微笑む四郎。


「良い返事だ。それに衣装も良く似合ってるぜ。可愛い可愛い」


そう言って千紗の頭をポンポンと叩いた。

と、その時、千紗の頭に乗せられていた四郎の手が、横から伸びてきた手によって力強く払いのけられる。


 “バシン”

「痛っ。何すんだよお前」

「汚い手で姫様に触るな」


秋成だ。
秋成は、千紗を庇うように千紗と四郎の間に立つと、冷ややかな瞳で四郎を睨み付けた。

そんな秋成の様子に四郎は小さな溜め息を漏らすと、秋成の耳元へと自身の顔を寄せ、彼にしか聞こえない小さな声でこんな言葉を呟いた。


「嫉妬はみっともないぜ、あっきー」

「………………はぁ~?」


四郎から贈られた言葉に、一瞬思考を停止させた後、秋成は顔を真っ赤に染めながら、大きな声を上げる。

何ともからかいがいのある反応に、四郎はいつにも増してニヤニヤと嫌みな笑顔を浮かべながら、馴れ馴れしく秋成の肩に腕を回し、更に彼をからかってみることに。


「妬くくらいなら、お前も姫さんに対してもっと素直になればいいじゃん。姫さんに早乙女の衣装、似合ってるくらいの事言ってやったか?」

「なっ、お前……さっきから何わけの分からない事を言って……」


四郎のからかいに、秋成は更に顔を赤く染めながら、必死に四郎の腕を振りほどこうと、藻掻いた。

だが、彼から逃げる事は叶わない。


「だからさ、姫さんを俺に触れさせるのが嫌だったんだろ?」

「そうだ。お前みたいな奴が姫様になれなれしく触るな」

「だからさ~、その触れて欲しくないって感情が嫉妬なんだよ、あっきー。あんたも鈍いなぁ」

「な? ば、馬鹿な事を言うな! 俺は護衛として言っているわけであって……」

「そうやって、必死になる所が怪しいぞ、あっきー」

「な……何なんだお前は! さっきからわけのわからない事を。それにあっきーって言う、その変な呼び方もやめろ!鳥肌が立つ!」

「おい、お主等、さっきから二人して何をコソコソ話しておるのだ」


いつの間に仲良くなったのか、急にイチャイチャとじゃれ合い始めた四郎と秋成に、退屈を感じた千紗が堪らず二人の会話に割って入る。


「いやいや、何でもないよ。ちょっとこっちの話」


だが、意味深な笑みを浮かべながら、四郎によってはぐらかされてしまった。

余計気になる返答にムッとした千紗は、四郎にしつこく食い下がる事に。


「だからこっちの話って言うの何じゃ? 何故そのようにニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべておる? 余計気になるじゃないか! 良いから千紗も混ぜろ」

「いやいや、本当に何でもないから、気にすんなって。なぁ、あっきー」


四郎から同意を求められた秋成。
彼は四郎とは対照的にとてもふて腐れた様子で「俺に振るな」と短く吐き捨てると、そのままぷいと背を向けてしまった。

そんな秋成を横目に、四郎はクックと堪えきれない笑いを漏らしはじめて……ついには秋成は、悔しそうに四郎を睨み付けていた。

そんな二人の遣り取りに、今度はヒナが割って入った。
先程、千紗を庇った秋成のように、今度はヒナが二人の間に立ちはだかったのだ。

まるで、秋成を庇うように。


「――え?」


突然のヒナの乱入に、秋成は驚きを隠せない様子で彼女を見た。


「??? どうしたのじゃ、ヒナ?」


千紗もまた、少し驚いた様子で首を傾げている。
驚きに固まる二人を余所にヒナはと言えば、小動物のような震える瞳で四郎を威嚇しながら、これ以上秋成をいじめるなと、必死に訴えていた。


「…………あ~……悪かった、悪かったよヒナ。ちょっといじめが過ぎたな。もうしない」


普段は温厚なはずのヒナの睨みに、四郎はいたたまれない気持ちになって、ヒナに謝罪の言葉を述べながら肩をすくめて見せる。


「……ヒナはずいぶんと、あっきーに懐いたんだな」


かつての仲間をすっかり取られた気分の四郎は、そんな事をぼやきながらポリポリと頭をかいた。

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