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第一幕 板東編
道真と千紗②
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「貞盛?! お主、そのような所でいったい何を?!」
「申し訳ございません。千紗様達の話を盗み聞いていた詫びは後ほど致します。それよりも今は、寛明様が……」
「チビ助がいったいどうしたのじゃ?」
「分かりません。急に小刻みに震え出したかと思ったら、突然狂ったように叫ばれて、そのまま気絶なされてしまいました」
「……その方をこちらに」
顔を真っ青に染めながら、落ち着かない様子の貞盛に、景行が冷静に声をかける。
貞盛は景行の指示に素直に従い、朱雀帝を抱えたまま屋敷へと駆け上がると、景行の元へ朱雀帝を預けた。
景行は、朱雀帝を一度横にさせると、口元に耳を当て呼吸を確認する。
「寛明様は……大丈夫ですか? もしや本当に、寛明様が恐れていたとおり道真公の呪いにかかってしまわれたのですか?」
「馬鹿を申せ! 何でもかんでも道真公の呪いのせいにするでない」
景行の前で、あまりにも失礼な貞盛の発言に、千紗は強い口調で窘める。
「そうだよ太郎さん。ちょっと落ち着いて。先生に任せておけば大丈夫だから」
加えて四郎が貞盛を落ち着かせようと千紗に加勢した。
その間、テキパキと朱雀帝の様態を調べた景行は、ほっと小さく息を吐くと、穏やかな口調で診断結果を語り出した。
「大丈夫。体には何の異常も見当たりません。それから、これは呪いでも何でもない。理由は分かりませんが、精神的に追い詰められて一時的な錯乱状態に陥ったのでしょう。このまま静かに、寝かせていれば大丈夫ですよ」
「……良かった」
景行の診断に、貞盛はへなへなと力無くその場に座り込んだ。
「全く人騒がせな。秋成、こやつを部屋まで運んでやれ」
「仰せのままに」
言葉とは裏腹に、秋成に抱え上げられた朱雀帝を見つめながら、千紗もまた安堵の溜め息を漏らしていた。
こうして朱雀帝の無事に、事なきを得たかに見えた。
だが、この時はまだ誰も気付いいなかったのだ。朱雀帝の心に巣くっている闇の深さに――
◆◆◆
――数刻後
「…………ん……」
「目を覚まされましたか、寛明様。ご気分はいかがですか?」
眠っている間、ずっと彼の傍に付き添っていた貞盛が、朱雀帝の目覚めに気づき優しく声を掛ける。
「……貞盛? 私は……いったい………」
「暫くの間、気を失っておったのだ。全く迷惑をかけおって」
「…………」
そんな貞盛の後ろからヒョッコリと顔を覗かせた千紗が貞盛に代わって答えた。
突然目の前に現れた千紗に、朱雀帝の顔がみるみると青ざめて行く。
そして――
「うわぁぁぁ~~~~~…………」
朱雀帝は再び、狂ったように叫び出した。
「なんじゃ、なんじゃ? また、急にどうしたと言うんじゃ?」
朱雀帝の様子に、一体何事かと困惑しながらも彼を落ち着かせようと朱雀帝に向かって手を伸ばす千紗。
だが、それは全くの逆効果だったようで、朱雀帝は落ち着くどころか更に錯乱した様子で、千紗の手を強く払いのけると、まるで千紗から身を守るかのように地にうずくまり、頭を抱えた。
そして、まるで天敵に命を狙われ怯えている子ウサギのように、小刻みに体を震わせていた。
「……………」
朱雀帝のその態度に、周囲はやっと理解する。
朱雀帝が何に怯えているのか。
そう。あれ程までに懐いていたはずの千紗に怯えていたのだ。
「………チビ助?」
朱雀帝に払いのけられた手を宙にさ迷わせながら、千紗はただただ戸惑うしかなかった。
そしてこの日を境に、朱雀帝は床に伏せる事が多くなり、部屋に閉じ籠り気味の生活を送るようになって行った。
京にいた頃の、幼かった日々のように――
「申し訳ございません。千紗様達の話を盗み聞いていた詫びは後ほど致します。それよりも今は、寛明様が……」
「チビ助がいったいどうしたのじゃ?」
「分かりません。急に小刻みに震え出したかと思ったら、突然狂ったように叫ばれて、そのまま気絶なされてしまいました」
「……その方をこちらに」
顔を真っ青に染めながら、落ち着かない様子の貞盛に、景行が冷静に声をかける。
貞盛は景行の指示に素直に従い、朱雀帝を抱えたまま屋敷へと駆け上がると、景行の元へ朱雀帝を預けた。
景行は、朱雀帝を一度横にさせると、口元に耳を当て呼吸を確認する。
「寛明様は……大丈夫ですか? もしや本当に、寛明様が恐れていたとおり道真公の呪いにかかってしまわれたのですか?」
「馬鹿を申せ! 何でもかんでも道真公の呪いのせいにするでない」
景行の前で、あまりにも失礼な貞盛の発言に、千紗は強い口調で窘める。
「そうだよ太郎さん。ちょっと落ち着いて。先生に任せておけば大丈夫だから」
加えて四郎が貞盛を落ち着かせようと千紗に加勢した。
その間、テキパキと朱雀帝の様態を調べた景行は、ほっと小さく息を吐くと、穏やかな口調で診断結果を語り出した。
「大丈夫。体には何の異常も見当たりません。それから、これは呪いでも何でもない。理由は分かりませんが、精神的に追い詰められて一時的な錯乱状態に陥ったのでしょう。このまま静かに、寝かせていれば大丈夫ですよ」
「……良かった」
景行の診断に、貞盛はへなへなと力無くその場に座り込んだ。
「全く人騒がせな。秋成、こやつを部屋まで運んでやれ」
「仰せのままに」
言葉とは裏腹に、秋成に抱え上げられた朱雀帝を見つめながら、千紗もまた安堵の溜め息を漏らしていた。
こうして朱雀帝の無事に、事なきを得たかに見えた。
だが、この時はまだ誰も気付いいなかったのだ。朱雀帝の心に巣くっている闇の深さに――
◆◆◆
――数刻後
「…………ん……」
「目を覚まされましたか、寛明様。ご気分はいかがですか?」
眠っている間、ずっと彼の傍に付き添っていた貞盛が、朱雀帝の目覚めに気づき優しく声を掛ける。
「……貞盛? 私は……いったい………」
「暫くの間、気を失っておったのだ。全く迷惑をかけおって」
「…………」
そんな貞盛の後ろからヒョッコリと顔を覗かせた千紗が貞盛に代わって答えた。
突然目の前に現れた千紗に、朱雀帝の顔がみるみると青ざめて行く。
そして――
「うわぁぁぁ~~~~~…………」
朱雀帝は再び、狂ったように叫び出した。
「なんじゃ、なんじゃ? また、急にどうしたと言うんじゃ?」
朱雀帝の様子に、一体何事かと困惑しながらも彼を落ち着かせようと朱雀帝に向かって手を伸ばす千紗。
だが、それは全くの逆効果だったようで、朱雀帝は落ち着くどころか更に錯乱した様子で、千紗の手を強く払いのけると、まるで千紗から身を守るかのように地にうずくまり、頭を抱えた。
そして、まるで天敵に命を狙われ怯えている子ウサギのように、小刻みに体を震わせていた。
「……………」
朱雀帝のその態度に、周囲はやっと理解する。
朱雀帝が何に怯えているのか。
そう。あれ程までに懐いていたはずの千紗に怯えていたのだ。
「………チビ助?」
朱雀帝に払いのけられた手を宙にさ迷わせながら、千紗はただただ戸惑うしかなかった。
そしてこの日を境に、朱雀帝は床に伏せる事が多くなり、部屋に閉じ籠り気味の生活を送るようになって行った。
京にいた頃の、幼かった日々のように――
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