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第一幕 板東編
誤解がとけて
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それから千紗は、世話係の少女達と、共に語らい時を過ごした。
歳も近いからか、三人共すっかり打ち解け合った様子。
退屈だった筈の時間もあっと言う間に過ぎ、気がつけばすっかり空も赤く染まっていた。
「あら、いつの間にこんな時間に? 千紗様、せっかく楽しい時間を過ごしておりましたが、私達は夕餉の支度に参らねばなりません」
自らを桔梗と名乗った世話係の少女が、名残惜しそうに言った。
「そうか、それは残念じゃ。だが仕事ならば仕方あるまい。大人しく夕餉の時間を待つ事にしよう。何せここの飯は、京では食べたこともないような美味いものが多いからな。楽しみにしておるぞ」
千紗もまた、残念そうに眉を垂らしながら、桔梗ともう一人の下女を仕事へと送り出す為の言葉を掛けた。
そんな千紗の言葉に、どこか不機嫌な様子で朱雀帝が口を挟む。
「そうですか? 私はどうも、ここの濃い味付けが苦手にございます。それに京ではあり得なかった、生きていたものを食すと言う坂東の食文化が気持ち悪くて私は大嫌いです」
「さようでございましたか……。それは今まで気が付かず申し訳ございませんでした。では寛明様は何がお好きですか? 寛明様にも喜んでいただける物を作りたいと思いますので、参考までに教えて下さいませ」
「……」
桔梗からの問いかけに、朱雀帝は口を閉ざす。
京では下女と会話を交わす習慣などなかった朱雀帝は、どうやら桔梗を拒んでいる様子。
見かねて千紗が朱雀帝の代わりに答えた。
「よいよい、このチビ助はまだまだお子ちゃま故、食べ物の好き嫌いが多いのじゃ」
「酷いです千紗姫! 私だってあと少ししたら元服をして、立派な大人の男に――」
「こやつの我が儘など気にする必要はない。お主達のお勧めの料理を頼む」
「かしこまりました。では、準備ができましたらいつものようにこちらのお座敷へお運びいたしますね」
「それも良い。このような離れで、顔の見知った者達とだけ囲う食事にはもう飽きた。食事時、いつも遠くから聞こえていたこの屋敷の者達の賑やかな様子を羨ましく思っておったのだ。是非今日は我らも皆の輪の中に加えて欲しい。今日は、そちらに膳の準備をしてはもらえないだろうか」
「ち、千紗姫、お待ち下さい。私は嫌にございます。このような下賎の者達と食事を共にするなど。絶対に嫌です!」
千紗の提案にすかさず朱雀帝が反対の異を唱える。
「では桔梗、こやつの分はこの部屋で構わぬ」
「え……ちょ……千紗姫、何故そうなるのでしょうか?」
「だって嫌なのじゃろう? 無理強いはせぬよ。チビ助はチビ助の食べたい場所で食べれば良い」
「ならば私は……千紗姫様のお傍で食べとうございます……」
「チビ助の好きにしろ。だが私は屋敷の皆と共に食べるぞ」
「そんなぁ…………」
結局朱雀帝の食事は何処に運べば良いのか、着地点の見えない二人の会話に戸惑いながら、桔梗は首を傾げる。
「あの、えっと……では寛明様の御膳はどちらにお運びいたせば宜しいでしょうか?」
「………」
恐る恐る訪ねる桔梗の問いに、やはり口を開こうとはしない朱雀帝。
そんな彼の代わりに、今度は一歩下がった位置から千紗と朱雀帝の遣り取りを見守っていた貞盛が、躊躇い気味に答えた。
「え~と……寛明様も、千紗姫様同様、大広間に。……で、宜しいでしょうかね、みか……寛明様?」
「……うむ」
貞盛が提示した答えに、不機嫌ながらも朱雀帝は小さく頷いた。
「承知いたしました。では、準備が整いましたら皆様を呼びに参りますので」
深々とお辞儀をして去ろうとする桔梗。
そんな彼女達に四郎から声が掛かった。
「あぁ、俺ももう暫くこの部屋にいるから、俺の事もこっちに呼びに来てくれ」
「はい、畏まりました四郎様」
四郎からのお願いに、ニッコリと微笑み了承すると、桔梗はもう一人の侍女を連れて、千紗達の部屋を後にした。
歳も近いからか、三人共すっかり打ち解け合った様子。
退屈だった筈の時間もあっと言う間に過ぎ、気がつけばすっかり空も赤く染まっていた。
「あら、いつの間にこんな時間に? 千紗様、せっかく楽しい時間を過ごしておりましたが、私達は夕餉の支度に参らねばなりません」
自らを桔梗と名乗った世話係の少女が、名残惜しそうに言った。
「そうか、それは残念じゃ。だが仕事ならば仕方あるまい。大人しく夕餉の時間を待つ事にしよう。何せここの飯は、京では食べたこともないような美味いものが多いからな。楽しみにしておるぞ」
千紗もまた、残念そうに眉を垂らしながら、桔梗ともう一人の下女を仕事へと送り出す為の言葉を掛けた。
そんな千紗の言葉に、どこか不機嫌な様子で朱雀帝が口を挟む。
「そうですか? 私はどうも、ここの濃い味付けが苦手にございます。それに京ではあり得なかった、生きていたものを食すと言う坂東の食文化が気持ち悪くて私は大嫌いです」
「さようでございましたか……。それは今まで気が付かず申し訳ございませんでした。では寛明様は何がお好きですか? 寛明様にも喜んでいただける物を作りたいと思いますので、参考までに教えて下さいませ」
「……」
桔梗からの問いかけに、朱雀帝は口を閉ざす。
京では下女と会話を交わす習慣などなかった朱雀帝は、どうやら桔梗を拒んでいる様子。
見かねて千紗が朱雀帝の代わりに答えた。
「よいよい、このチビ助はまだまだお子ちゃま故、食べ物の好き嫌いが多いのじゃ」
「酷いです千紗姫! 私だってあと少ししたら元服をして、立派な大人の男に――」
「こやつの我が儘など気にする必要はない。お主達のお勧めの料理を頼む」
「かしこまりました。では、準備ができましたらいつものようにこちらのお座敷へお運びいたしますね」
「それも良い。このような離れで、顔の見知った者達とだけ囲う食事にはもう飽きた。食事時、いつも遠くから聞こえていたこの屋敷の者達の賑やかな様子を羨ましく思っておったのだ。是非今日は我らも皆の輪の中に加えて欲しい。今日は、そちらに膳の準備をしてはもらえないだろうか」
「ち、千紗姫、お待ち下さい。私は嫌にございます。このような下賎の者達と食事を共にするなど。絶対に嫌です!」
千紗の提案にすかさず朱雀帝が反対の異を唱える。
「では桔梗、こやつの分はこの部屋で構わぬ」
「え……ちょ……千紗姫、何故そうなるのでしょうか?」
「だって嫌なのじゃろう? 無理強いはせぬよ。チビ助はチビ助の食べたい場所で食べれば良い」
「ならば私は……千紗姫様のお傍で食べとうございます……」
「チビ助の好きにしろ。だが私は屋敷の皆と共に食べるぞ」
「そんなぁ…………」
結局朱雀帝の食事は何処に運べば良いのか、着地点の見えない二人の会話に戸惑いながら、桔梗は首を傾げる。
「あの、えっと……では寛明様の御膳はどちらにお運びいたせば宜しいでしょうか?」
「………」
恐る恐る訪ねる桔梗の問いに、やはり口を開こうとはしない朱雀帝。
そんな彼の代わりに、今度は一歩下がった位置から千紗と朱雀帝の遣り取りを見守っていた貞盛が、躊躇い気味に答えた。
「え~と……寛明様も、千紗姫様同様、大広間に。……で、宜しいでしょうかね、みか……寛明様?」
「……うむ」
貞盛が提示した答えに、不機嫌ながらも朱雀帝は小さく頷いた。
「承知いたしました。では、準備が整いましたら皆様を呼びに参りますので」
深々とお辞儀をして去ろうとする桔梗。
そんな彼女達に四郎から声が掛かった。
「あぁ、俺ももう暫くこの部屋にいるから、俺の事もこっちに呼びに来てくれ」
「はい、畏まりました四郎様」
四郎からのお願いに、ニッコリと微笑み了承すると、桔梗はもう一人の侍女を連れて、千紗達の部屋を後にした。
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