時ノ糸~絆~

汐野悠翔

文字の大きさ
上 下
78 / 285
第一幕 板東編

束の間の休息③

しおりを挟む
「「ッ……」」」


千紗達の視線に気付いたその女達は、慌てた様子で起き上がると、再び柱の陰へと隠れる。
その姿に、今度は千紗が大声を上げた。


「お主達、先程からコソコソと、いい加減に気分が悪いぞ。小次郎に何を命じられたかは知らぬが、どうせ監視するならば、もっと堂々と監視せぬか!!」


女達に向かって、急に怒鳴り声を上げたかと思うと千紗は、縁側から庭へと飛び降り、彼女達の元へと駆けて行く。


「あぁ姫様……またそのように行儀の悪い……」


苛立ちから頭をかきむしりながら、急いで秋成も千紗の後を追いかけた。


「「きゃーーー」」 


千紗と秋成、迫り来る二人に恐怖を覚え、悲鳴を上げながら逃げ惑う女達。
千紗と下女達、そして秋成による追いかけっこが始まった。


「お、姫さんは今日も元気だね~」


そんな追いかけっこの最中に、暢気な声が掛けられる。
声の主は四郎。

丁度千紗の部屋を訪ねる途中だった四郎は、元気な千紗達の姿を見つけて、母屋の廊下から楽しげに眺めた。


「お前、そんな呑気に高みの見物などしていないで、姫様の暴走を止めるの手伝え!」


脳天気に笑いながら見学しているだけの四郎に向かって秋成が怒鳴った。

だが、四郎が出る幕はなく、その後すぐに千紗が女達を捕まえ、追いかけっこは終了となった。
捕まえた二人をズルズルと引きずりながら離れへ連れ込む千紗。

そうして部屋へと戻って来た千紗は、自身の前に侍女達を正座させ、尋問を始めた。


「さて話しを聞こうか。お主達は何故コソコソと私達を監視していた? 小次郎の命令か?」

「も……申し訳ございません。私どもは決して……決して貴方様を監視していたわけではなく……申し訳ございません!!」


千紗の与える威圧に、怯えた様子の女達は、床に額を擦りつけながら必死に謝り始めた。

その様子を庭から心配そうに見守る秋成。

秋成とは対象的に縁側からニヤニヤと楽しそうな様子の四郎。

朱雀帝は、部屋の隅で千紗の剣幕に怯えながら小さくなっており、貞盛はと言えば、そんな帝の側に控え、静かに場の空気を見守っている。

 
「監視するつもりではなかったと言うのならば、何故コソコソと私達を覗き見ていた? 何の目的で? その訳を話さぬか」

「そ、それは……」

「姫様、そのくらいになされませ。怯えておりますよ」


本気で怯えを示す女達が哀れに見えて、思わず助け船を出す秋成。
 

「うるさいぞ秋成、お主は黙っておれ」

「ですが姫様、その者達はただ、兄上の命に従っていただけにございましょう。その者達を叱り付けるのは理不尽にございます」

「叱り付けてなどおらぬではないか。私はただ、小次郎が監視を命じた理由を問うているだけだ」

「ですから、その理由は命じられた側に聞くのは筋違いでしょう。理由が聞きたいのなら命じた側の人間――そう、四郎に聞くのが道理」


秋成はキッと縁側に座り、高みの見物を決め込んでいた四郎を睨みつけた。


「え~?そこで俺に話題振る?」

「お前、この状況を楽しんでいないで、少しはお前の従者達を助けようと言う気はないのか?」

「あ~はいはい。わかりました。わかりましたよ~、と」


そう言って四郎は面倒くさそうに立ち上がり、千紗達のもとへと歩いていく。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

金蝶の武者 

ポテ吉
歴史・時代
時は天正十八年。 関東に覇を唱えた小田原北条氏は、関白豊臣秀吉により滅亡した。 小田原征伐に参陣していない常陸国府中大掾氏は、領地没収の危機になった。 御家存続のため、選ばれたのは当主大掾清幹の従弟三村春虎である。 「おんつぁま。いくらなんでもそったらこと、むりだっぺよ」 春虎は嘆いた。 金の揚羽の前立ての武者の奮戦記 ──

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

戦国三法師伝

kya
歴史・時代
歴史物だけれども、誰にでも見てもらえるような作品にしていこうと思っています。 異世界転生物を見る気分で読んでみてください。 本能寺の変は戦国の覇王織田信長ばかりではなく織田家当主織田信忠をも戦国の世から葬り去り、織田家没落の危機を迎えるはずだったが。 信忠が子、三法師は平成日本の人間が転生した者だった…

天明奇聞 ~たとえば意知が死ななかったら~

ご隠居
歴史・時代
タイトル通りです。意知が暗殺されなかったら(助かったら)という架空小説です。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

不屈の葵

ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む! これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。 幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。 本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。 家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。 今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。 家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。 笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。 戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。 愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目! 歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』 ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!

永き夜の遠の睡りの皆目醒め

七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。 新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。 しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。 近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。 首はどこにあるのか。 そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。 ※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

処理中です...