時ノ糸~絆~

汐野悠翔

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第一幕 板東編

束の間の休息

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小次郎の館に世話になるようになって、数日が過ぎた――

千紗達に用意された部屋は、母屋から少し離れた場所に立つ離れ座敷。
普段は使われていないらしい、その広さ十二畳程ある座敷を、几帳きちょうで三つに仕切り使用していた。

三つに仕切られた部屋の内、一番西側の部屋には朱雀帝と貞盛が。
真ん中の部屋に千紗とヒナが。
そして東側の部屋に秋成、清太、春太郎が、それぞれ組となって振り分けられている。

と言っても秋成は、護衛として庭で過ごしている事が大半で、座敷に上がる事はほとんどないのだが。

今も、護衛の任に従事しながら、暇を持て余す千紗に絡まれ、うんざり顔。


「秋成~、退屈じゃ。……退屈じゃ、退屈じゃ、退屈じゃ~~~!」

「…………」


小次郎の屋敷に来てからと言うもの、これと言ってやることはなく、ただ一日ぼんやり過ごすだけの日々が続いていた。

そんな退屈な日常に、お転婆娘の千紗が耐えられるわけはなく、こうして秋成に当たり散らしているのだ。

何故そんなにも退屈かと言えば、ここが離れ座敷であることも関係しているのだろう。

離れ座敷であるが故に、屋敷の者達と顔を合わせる機会も少なかった。 

その数少ない機会とは、下働きの女達が朝夕二回の食事を上げ下げしに来る数回だけ。

あと他に来訪者があるとすれば、四郎がたまに顔を出しに来るぐらい。

あまりにも退屈な生活に、たまに隔離でもされているかのような、そんな錯覚をおぼえることもある程だ。


「これでは京にいた頃と何も変わらんな。何をしにわざわざ板東まで来たのか、全く分からぬではないか秋成」

「そうは言われましても……」


理不尽に八つ当たりされる秋成はと言えば、また始まったかと大きな溜息を漏らしながら、適当に千紗をあしらうばかり。
そんな彼の態度が、余計今の千紗を苛つかせた。


「何だお主のその態度は!」

「何だと言われましても、俺にどうしろとおっしゃるのです?」

「私は退屈しているのだ。私が退屈しないように相手をしろ」

「俺は今仕事中ですよ。遊び相手が欲しいのでしたら他をあたって下さいよ」

「はい! はい、千紗姫! では私と、私と遊んで下され!!」


秋成と千紗の会話に、突然割り込む声が上がった。
朱雀帝だ。 

几帳からひょっこり顔を覗かせ、目をキラキラ輝かせながら千紗に懇願した。

だが千紗は、そんな朱雀帝の存在をまるっと無視して、秋成との会話を続ける。


「お主の仕事は私の護衛だろう。ならば私と一緒で暇を持て余しているはずではないか」

「暇じゃありませんよ。姫様はあそこにいる者達に気付いていないのですか。もう何日も前から、俺たちはああして見張られているんです。一体何の目的で見張られているのかは分かりませんが、女と言えども俺は彼女達の動向に目を光らせねばなりません」


秋成は、母屋と離れを唯一繋ぐ渡り廊下を指さし言った。

よくよく目を凝らし見れば、母屋側の渡り廊下の柱近くには、確かにこちらの様子を伺う二人の女の姿があった。
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