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第一幕 板東編
祝いの宴
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良正軍を追撃中だったと言う小次郎軍。
千紗達との再会に足止めを受け、すっかり追撃の機会を逃した彼らは、その日は来た道を引き返し、山を下りる事にした。
そして眼下に見えていた村に宿を借り、夜を明かす事にした。
「小次郎すまなかったな。私達のせいでせっかくの追撃を邪魔してしまって」
「いや……気にするな。追撃は叔父上の軍を我が領土内から追い出す事が目的。目的は十分達成できたし、あれ以上深追いする気は最初からなかったからな」
「ほお、追い出すだけで十分とは、相変わらず甘い奴だな。それでは再び叔父上に攻め込まれても文句はいえぬぞ」
「……ああ、分かっている。それも覚悟の上さ。再び叔父上に責められたら、その時はまた戦うまでの事」
「それではいつまで立っても争いを収束できぬぞ」
「……あぁ、それもよく分かっている」
「ふむ。その様子だとお前、未だに覚悟は決まっていないようだな。叔父上達と殺し合いをする覚悟が」
「…………」
麓の村を目指す道中、先頭を歩く小次郎の隣を貞盛が並んで歩く。
その数歩後ろを、秋成が操る馬に揺られながら千紗も続いていた。
そして何やら前から漏れ聞こえてくる二人の会話が気になりながらも、何も現状が分からない千紗には彼らの会話に割って入る事は躊躇われて――
結局千紗は山を下りる道中も最後まで小次郎に声を掛ける事は出来なかった。
◆◆◆
山を下りはじめて、四半刻(しはんどき)ほどで千紗達は麓の村へと辿り着く。
村に着く頃にはすっかり日も暮れ、空には月が輝きを放ち始めていた。
辿り着いた村には、藁でつくられた簡素な家が数棟身を寄せ合って並んでいる。
村と呼ぶには少し躊躇を覚えるような、本当に小さな集落。
だがその小さな集落が、小次郎率いる数十名の軍隊と、そして千紗達流れ者七人、大人数での突然の訪問を快く受け入れてくれた。
それどころか小次郎達の来訪を、酷く感激した様子で盛大に宴まで催してくれる歓迎ぶり。
「突然の訪問にも関わらず、宴まで催してもらうとは、気を使わせてしまってすまないな」
「何をおっしゃいますか将門様。将門様ならいつでも大歓迎ですよ。なんせ将門様が我らのようような小さな村をも気に掛けて下さるおかげで、我等はこうして日々の生活を送る事が出来ているのですから。若い娘達なんかは、最近めっきり将門様の来訪がないと寂しがっていた所なんですよ。わしらからしたら、一日と言わず何日でも滞在して頂きたいくらいですよ」
一夜の宿泊を許可してくれ、更には宴まで開いてくれた村人達に、感謝の言葉を伝えた小次郎。
だが小次郎からの感謝に、この村の長らしき初老の男性は、満面の笑みを浮かべて歓迎した。
小次郎が手に持つ杯に酒を注いで遠慮気味の小次郎に酒を勧める長老。
長老以外にも、小次郎の周りには村の若い娘達が彼にお酌をしよと群がっている。
更に小次郎率いる血気盛んな若い兵士達も、小次郎に群がる村の娘達からお酌を受けようと群がって、小次郎の周りは人で溢れかえっていた。
とても余所者の千紗達が近づるような雰囲気ではなく、せっかく再会を果たしたと言うのに、未だ千紗は小次郎と大した会話は交わせずにいる。
宴の席でもまた千紗は遠くから小次郎を見つめる事しか出来はしなかった。
知らない人々に囲まれ、多くの者達から慕われる小次郎の姿はどこか遠い存在に感じられて、まるで知らない人のようだと千紗は思った。
小次郎を見つめる千紗の瞳は、どこか切なげに揺れていた。
そんな千紗の様子を気にかけてか、小次郎を囲む群れの中から、顔を真っ赤に染めた四郎が千紗の元へとやって来る。
千紗達との再会に足止めを受け、すっかり追撃の機会を逃した彼らは、その日は来た道を引き返し、山を下りる事にした。
そして眼下に見えていた村に宿を借り、夜を明かす事にした。
「小次郎すまなかったな。私達のせいでせっかくの追撃を邪魔してしまって」
「いや……気にするな。追撃は叔父上の軍を我が領土内から追い出す事が目的。目的は十分達成できたし、あれ以上深追いする気は最初からなかったからな」
「ほお、追い出すだけで十分とは、相変わらず甘い奴だな。それでは再び叔父上に攻め込まれても文句はいえぬぞ」
「……ああ、分かっている。それも覚悟の上さ。再び叔父上に責められたら、その時はまた戦うまでの事」
「それではいつまで立っても争いを収束できぬぞ」
「……あぁ、それもよく分かっている」
「ふむ。その様子だとお前、未だに覚悟は決まっていないようだな。叔父上達と殺し合いをする覚悟が」
「…………」
麓の村を目指す道中、先頭を歩く小次郎の隣を貞盛が並んで歩く。
その数歩後ろを、秋成が操る馬に揺られながら千紗も続いていた。
そして何やら前から漏れ聞こえてくる二人の会話が気になりながらも、何も現状が分からない千紗には彼らの会話に割って入る事は躊躇われて――
結局千紗は山を下りる道中も最後まで小次郎に声を掛ける事は出来なかった。
◆◆◆
山を下りはじめて、四半刻(しはんどき)ほどで千紗達は麓の村へと辿り着く。
村に着く頃にはすっかり日も暮れ、空には月が輝きを放ち始めていた。
辿り着いた村には、藁でつくられた簡素な家が数棟身を寄せ合って並んでいる。
村と呼ぶには少し躊躇を覚えるような、本当に小さな集落。
だがその小さな集落が、小次郎率いる数十名の軍隊と、そして千紗達流れ者七人、大人数での突然の訪問を快く受け入れてくれた。
それどころか小次郎達の来訪を、酷く感激した様子で盛大に宴まで催してくれる歓迎ぶり。
「突然の訪問にも関わらず、宴まで催してもらうとは、気を使わせてしまってすまないな」
「何をおっしゃいますか将門様。将門様ならいつでも大歓迎ですよ。なんせ将門様が我らのようような小さな村をも気に掛けて下さるおかげで、我等はこうして日々の生活を送る事が出来ているのですから。若い娘達なんかは、最近めっきり将門様の来訪がないと寂しがっていた所なんですよ。わしらからしたら、一日と言わず何日でも滞在して頂きたいくらいですよ」
一夜の宿泊を許可してくれ、更には宴まで開いてくれた村人達に、感謝の言葉を伝えた小次郎。
だが小次郎からの感謝に、この村の長らしき初老の男性は、満面の笑みを浮かべて歓迎した。
小次郎が手に持つ杯に酒を注いで遠慮気味の小次郎に酒を勧める長老。
長老以外にも、小次郎の周りには村の若い娘達が彼にお酌をしよと群がっている。
更に小次郎率いる血気盛んな若い兵士達も、小次郎に群がる村の娘達からお酌を受けようと群がって、小次郎の周りは人で溢れかえっていた。
とても余所者の千紗達が近づるような雰囲気ではなく、せっかく再会を果たしたと言うのに、未だ千紗は小次郎と大した会話は交わせずにいる。
宴の席でもまた千紗は遠くから小次郎を見つめる事しか出来はしなかった。
知らない人々に囲まれ、多くの者達から慕われる小次郎の姿はどこか遠い存在に感じられて、まるで知らない人のようだと千紗は思った。
小次郎を見つめる千紗の瞳は、どこか切なげに揺れていた。
そんな千紗の様子を気にかけてか、小次郎を囲む群れの中から、顔を真っ赤に染めた四郎が千紗の元へとやって来る。
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