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第一幕 板東編
再会②
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「所で小次郎はどうしてここに? つい今し方、良正叔父上にも会ったが何か関係があるのか?」
秋成達との再会を喜んでいた小次郎に、ふと貞盛が投げかけた質問。
貞盛からの質問に、小次郎ははっとした顔で、何処かばつが悪そうに四郎と顔を見合わせた。
そしてお互いに何やら目で会話を交わしたかと思うと、どこか躊躇いがちに小次郎に代わって四郎が事の経緯を説明し始めた。
「実は俺たち、良正の叔父貴とは戦の真っ最中で、逃げる叔父貴達を追撃していた途中なんだ」
「「「「えぇ?」」」」
四郎の説明に、千紗と清太、春太郎、そして朱雀帝が驚きの声を上げる。
まさか、今が戦の最中だったとは――
“戦”と言う言葉の響きに顔を青ざめさせながら、誰もが言葉を失った。
こうなる事が分かっていたから小次郎と四郎も躊躇っていたのだろう。
あぁやっぱりと、言わんばかりに四郎は苦笑いを浮かべながら、千紗達を安心させる為の言葉を続けた。
「安心して。戦って言っても今回はちょっとした小競り合いみたいなものだし、それに今は追撃中だって言ったでしょ。つまり俺たちは既に戦に勝っている。危機はとっくに回避してるよ。だからそんなに怯えなくて大丈夫だって」
「本当に? 四郎の兄貴」
「あぁ、本当さ」
涙目で訪ねる春太郎に、彼の頭をポンポンと優しく撫でてやりながら四郎が断言した。
そんな四郎の断言に呼応して、暗く張り詰めた空気を吹き飛ばすかのように貞盛が陽気な声で発言する。
「何はともあれ、お互い危機は脱したと言う事で、いや~良かった良かった」
「ん? お互いってのはどう言う意味、太郎さん?」
「ん? 先程も清太殿が言ったではないか。私達は道に迷っていると。実の所は道が分からなくなっていたと言うよりも、自分達が今どのあたりを歩いているのか、自分達の居場所すら分からない状況だった。ここでお前達に出会えていなかったら、私達は一生坂東には辿りつけず何処とも分からぬ場所を彷徨い続けていたかもしれん。そしていつか食に困り飢え死にしていたやもしれぬ。お前達に出会えた事で私達も救われた。正に天の助け! 救世主! 感謝するぞ」
陽気さの中に隠された、貞盛の冗談では済まされない恐ろしい告白に、側で聞いていた秋成が思わず口を挟んで突っ込みを入れる。
「貞盛殿、貴方はそこまで行き先を見失っておいででしたか。それでよくあんな呑気にしていられましたね」
更に秋成の突っ込みに、呆れと同情を込めた含んだ顔で、今度は小次郎が横やりを入れた。
「秋成、こいつはこういう奴なんだ。息を吸うかの如く平気で嘘を吐く。口ばかり達者で調子の良い事を並べ立ててては人に迷惑をかけるのだ。信用などしたら馬鹿をみるぞ」
「むむ、それはあまりに酷い言いようではないか小次郎。私は良い嘘しかつかぬ。此度の事だって、皆様方を動揺させない為にあえて嘘を吐いていたわけで――」
小次郎の見解に、むくれ面で否定を示す貞盛。
だが小次郎は、絶対零度の冷ややかな視線で貞盛の言い訳を遮断した。
「な、何だ小次郎、お前のその目は?」
「動揺させない為に敢えて嘘を、ねぇ。ならば一つ言わせて貰うが、そもそもどうして方向音痴であるはずのお前が道案内の任を受けた? お前に道案内など務まるわけがないだろう。どうせまた調子の良い事を言って忠平様に取り入ろうとでも考えていたんじゃないのか?」
「まぁ確かに、その気持ちがあった事は認めよう。だが道案内の話を持ち掛けて来たのは忠平様であり、私は主である忠平様の命に素直に従ったまでの事」
「ならばその時に素直に申せば良かっただろう。私は方向音痴ですと」
「そ、そのような恥ずかしい事を主の前で申せるはずがなかろう。お前は馬鹿か、馬鹿なのか小次郎」
「馬鹿はお前だ! 何が良い嘘しか吐かないだ。お前はまず最初の時点で自身の保身の為、くだらない嘘を吐いているんだよ。あげく皆を巻き込んで山で遭難って、馬鹿にも程が在る」
「ぐぬぬぬ小次郎め、私より年下のくせに相変わらず小憎らしい奴め」
「はいはい、その台詞はもう聞き飽きた。馬鹿にされたく無かったら、年上らしい威厳を見せてくれよな」
「ぐぬぬぬ」
突然始まった二人の息の合った言い争い。
ぽかんと口を開けて見守る千紗や秋成達をよそに、一歩後ろに下がった位置から二人の喧嘩を見守っていた四郎は、ケラケラと声を上げて笑い出す。
「流石は従兄弟。兄貴と太郎さん仲良しだ」
そんな感想を呟きながら、彼には二人の喧嘩を止める気配はない。
ただただ暢気に笑っている四郎の元へと近づいて、千紗はこっそりとこんな疑問を投げかけた。
「のう四郎、小次郎は貞盛にとって父親の仇……ではなかったのか?」
数週間前、貞盛の口から聞いた話。
彼の父は小次郎によって殺されたのだと、確かに貞盛はそう語っていたはず。
「ん? あぁ、そう言われればそうだったな」
「なのに、どうして今貞盛とあのように普通に話しておるのじゃ?」
「さぁ~?」
「さぁってお主……」
「ま、良いんじゃない? 兄貴も最初は戸惑ってたみたいだけど、太郎さんがあんな調子だからいつの間にか緊張も解けたみたいだし。しなくて良い争いはしないに超した事はない。太郎さんのあの呑気さに感謝だな」
「はぁ、そう言うものなのかのう? どうも私はあの男が苦手じゃ。何を考えてるのか分からない」
小次郎が親の仇だと語ったあの瞬間、貞盛からは確かに小次郎に対する憎しみを感じた。
けれど今の貞盛からは、憎しみなど欠片も感じられない。
どちらの貞盛が彼の本当の姿なのか、分からず千紗は言葉にできない不安を覚える。
不安を覚えながら千紗は、未だ続く小次郎と貞盛二人の息の合った喧嘩を、ただ静かに見守っていた。
秋成達との再会を喜んでいた小次郎に、ふと貞盛が投げかけた質問。
貞盛からの質問に、小次郎ははっとした顔で、何処かばつが悪そうに四郎と顔を見合わせた。
そしてお互いに何やら目で会話を交わしたかと思うと、どこか躊躇いがちに小次郎に代わって四郎が事の経緯を説明し始めた。
「実は俺たち、良正の叔父貴とは戦の真っ最中で、逃げる叔父貴達を追撃していた途中なんだ」
「「「「えぇ?」」」」
四郎の説明に、千紗と清太、春太郎、そして朱雀帝が驚きの声を上げる。
まさか、今が戦の最中だったとは――
“戦”と言う言葉の響きに顔を青ざめさせながら、誰もが言葉を失った。
こうなる事が分かっていたから小次郎と四郎も躊躇っていたのだろう。
あぁやっぱりと、言わんばかりに四郎は苦笑いを浮かべながら、千紗達を安心させる為の言葉を続けた。
「安心して。戦って言っても今回はちょっとした小競り合いみたいなものだし、それに今は追撃中だって言ったでしょ。つまり俺たちは既に戦に勝っている。危機はとっくに回避してるよ。だからそんなに怯えなくて大丈夫だって」
「本当に? 四郎の兄貴」
「あぁ、本当さ」
涙目で訪ねる春太郎に、彼の頭をポンポンと優しく撫でてやりながら四郎が断言した。
そんな四郎の断言に呼応して、暗く張り詰めた空気を吹き飛ばすかのように貞盛が陽気な声で発言する。
「何はともあれ、お互い危機は脱したと言う事で、いや~良かった良かった」
「ん? お互いってのはどう言う意味、太郎さん?」
「ん? 先程も清太殿が言ったではないか。私達は道に迷っていると。実の所は道が分からなくなっていたと言うよりも、自分達が今どのあたりを歩いているのか、自分達の居場所すら分からない状況だった。ここでお前達に出会えていなかったら、私達は一生坂東には辿りつけず何処とも分からぬ場所を彷徨い続けていたかもしれん。そしていつか食に困り飢え死にしていたやもしれぬ。お前達に出会えた事で私達も救われた。正に天の助け! 救世主! 感謝するぞ」
陽気さの中に隠された、貞盛の冗談では済まされない恐ろしい告白に、側で聞いていた秋成が思わず口を挟んで突っ込みを入れる。
「貞盛殿、貴方はそこまで行き先を見失っておいででしたか。それでよくあんな呑気にしていられましたね」
更に秋成の突っ込みに、呆れと同情を込めた含んだ顔で、今度は小次郎が横やりを入れた。
「秋成、こいつはこういう奴なんだ。息を吸うかの如く平気で嘘を吐く。口ばかり達者で調子の良い事を並べ立ててては人に迷惑をかけるのだ。信用などしたら馬鹿をみるぞ」
「むむ、それはあまりに酷い言いようではないか小次郎。私は良い嘘しかつかぬ。此度の事だって、皆様方を動揺させない為にあえて嘘を吐いていたわけで――」
小次郎の見解に、むくれ面で否定を示す貞盛。
だが小次郎は、絶対零度の冷ややかな視線で貞盛の言い訳を遮断した。
「な、何だ小次郎、お前のその目は?」
「動揺させない為に敢えて嘘を、ねぇ。ならば一つ言わせて貰うが、そもそもどうして方向音痴であるはずのお前が道案内の任を受けた? お前に道案内など務まるわけがないだろう。どうせまた調子の良い事を言って忠平様に取り入ろうとでも考えていたんじゃないのか?」
「まぁ確かに、その気持ちがあった事は認めよう。だが道案内の話を持ち掛けて来たのは忠平様であり、私は主である忠平様の命に素直に従ったまでの事」
「ならばその時に素直に申せば良かっただろう。私は方向音痴ですと」
「そ、そのような恥ずかしい事を主の前で申せるはずがなかろう。お前は馬鹿か、馬鹿なのか小次郎」
「馬鹿はお前だ! 何が良い嘘しか吐かないだ。お前はまず最初の時点で自身の保身の為、くだらない嘘を吐いているんだよ。あげく皆を巻き込んで山で遭難って、馬鹿にも程が在る」
「ぐぬぬぬ小次郎め、私より年下のくせに相変わらず小憎らしい奴め」
「はいはい、その台詞はもう聞き飽きた。馬鹿にされたく無かったら、年上らしい威厳を見せてくれよな」
「ぐぬぬぬ」
突然始まった二人の息の合った言い争い。
ぽかんと口を開けて見守る千紗や秋成達をよそに、一歩後ろに下がった位置から二人の喧嘩を見守っていた四郎は、ケラケラと声を上げて笑い出す。
「流石は従兄弟。兄貴と太郎さん仲良しだ」
そんな感想を呟きながら、彼には二人の喧嘩を止める気配はない。
ただただ暢気に笑っている四郎の元へと近づいて、千紗はこっそりとこんな疑問を投げかけた。
「のう四郎、小次郎は貞盛にとって父親の仇……ではなかったのか?」
数週間前、貞盛の口から聞いた話。
彼の父は小次郎によって殺されたのだと、確かに貞盛はそう語っていたはず。
「ん? あぁ、そう言われればそうだったな」
「なのに、どうして今貞盛とあのように普通に話しておるのじゃ?」
「さぁ~?」
「さぁってお主……」
「ま、良いんじゃない? 兄貴も最初は戸惑ってたみたいだけど、太郎さんがあんな調子だからいつの間にか緊張も解けたみたいだし。しなくて良い争いはしないに超した事はない。太郎さんのあの呑気さに感謝だな」
「はぁ、そう言うものなのかのう? どうも私はあの男が苦手じゃ。何を考えてるのか分からない」
小次郎が親の仇だと語ったあの瞬間、貞盛からは確かに小次郎に対する憎しみを感じた。
けれど今の貞盛からは、憎しみなど欠片も感じられない。
どちらの貞盛が彼の本当の姿なのか、分からず千紗は言葉にできない不安を覚える。
不安を覚えながら千紗は、未だ続く小次郎と貞盛二人の息の合った喧嘩を、ただ静かに見守っていた。
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