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第一幕 板東編
迫りくるもの②
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「はぁ。………お気を……つけて……」
慌ただしく去って行った叔父とは対照的に、のんびりとした口調で別れを口にする貞盛。
久しぶりに再会を果たした叔父と、彼が率いる男達の群れをぼんやりと眺め見送った。
そんな貞盛の背中を呆然と見つめていた清太が、首を傾げて春太郎に尋ねる。
「何だったんだ? 今の嵐のような慌ただしさは?」
清太の疑問に、春太郎もまた首を傾げる。
だが、清太達に疑問を抱かせている張本人、貞盛はと言えば、清太達の向ける視線になど全く気にした様子もなく、ボソッと小さくこんな言葉を呟いた。
「困った。伯父上に道を尋ねるつもりでお声を掛けたのに、聞きそびれてしまった」
「おいおいこの人、あの状況下で道を聞尋ねようとしてたのか?!」
「優男に見えて、実はもの凄く肝がすわってるのかな?」
清太と春太郎が貞盛の漏らした一言にギョッとした顔で互いに顔を見合わせそんな事を話していると、
「いや、単なる馬鹿なのだろう。あの状況下で飛び出すなど」
千紗が横から容赦ない突っ込みを入れる。
「あんたがそれを言いますか。状況も分からないうちから今にも飛び出して行きそうだったあんたが。賊じゃなかったから良かったものの」
更には秋成までもが千紗に対して突っ込みを入れて
「何だと秋成、お主は私が馬鹿だと言いたいのか?」
「自覚してるなら、直して下さい。その猪突猛進な性格を!」
「無理だ。これは母親譲りだからな」
「………はぁ、本当に……護衛する方の身にもなって下さいよ」
二人の喧嘩が始まった。
良正率いる大軍が通り過ぎて行った後、先程までの緊迫した空気も、気がつけばいつもの緩いものへと変わって行た。
だが、そう時間を空かずして、再びの危機が千紗達を襲う。
去りゆく良正群の馬の足音に紛れて、再び馬の足音が近づいて来ていたのだ。
良正達が去って行った方角とは反対方向、つまりは先程と同じ方角からまたも無数の馬の足音が――
「また馬の足音が近づいて来ます。皆隠れて」
一人警戒を促す秋成。
だが二回目ともなると警戒心が薄まるのか、秋成以外の者達は、またかと呆れ顔を浮かべて、隠れる素振りを見せようとはしない。
「タラタラしない! さっさと隠れろ!」
言う事を聞かない者達に、仕方なく秋成は強引に皆を茂みへと押し込めた。
だが一人、秋成の腕の中からすり抜けた千紗は、秋成の呼びかけに耳も貸さずにひょっこり茂みから顔を覗かせる。
覗かせながら好奇心浮かぶ顔で音の方へと視線を向けた。
その瞬間、一瞬目を見開いた千紗はそのまま表情を凍らせて動きを止めた。
「姫様?」
千紗の異変に気付いた秋成もまた、急いで千紗の視線が捉える先を目で追う。
そして千紗同様、秋成までもが驚きに目を見開き息を呑んだ。
「…………兄……上……?」
やっとの思いでそう小さく呟いた秋成。
秋成の呟きに、千紗の表情が驚きから喜びへと変わって行く。
こちらに向かって走り来る人物、あれはやはり小次郎なのだと疑念が核心に変わったから。
ずっと会いたいと願い続けてきた人物が、突然目の前に現れた事で、喜びが抑えられなくなった千紗は、感情のままに思わず茂みを飛び出していた。
「小次郎っ!!」と大きな声で叫びながら――
慌ただしく去って行った叔父とは対照的に、のんびりとした口調で別れを口にする貞盛。
久しぶりに再会を果たした叔父と、彼が率いる男達の群れをぼんやりと眺め見送った。
そんな貞盛の背中を呆然と見つめていた清太が、首を傾げて春太郎に尋ねる。
「何だったんだ? 今の嵐のような慌ただしさは?」
清太の疑問に、春太郎もまた首を傾げる。
だが、清太達に疑問を抱かせている張本人、貞盛はと言えば、清太達の向ける視線になど全く気にした様子もなく、ボソッと小さくこんな言葉を呟いた。
「困った。伯父上に道を尋ねるつもりでお声を掛けたのに、聞きそびれてしまった」
「おいおいこの人、あの状況下で道を聞尋ねようとしてたのか?!」
「優男に見えて、実はもの凄く肝がすわってるのかな?」
清太と春太郎が貞盛の漏らした一言にギョッとした顔で互いに顔を見合わせそんな事を話していると、
「いや、単なる馬鹿なのだろう。あの状況下で飛び出すなど」
千紗が横から容赦ない突っ込みを入れる。
「あんたがそれを言いますか。状況も分からないうちから今にも飛び出して行きそうだったあんたが。賊じゃなかったから良かったものの」
更には秋成までもが千紗に対して突っ込みを入れて
「何だと秋成、お主は私が馬鹿だと言いたいのか?」
「自覚してるなら、直して下さい。その猪突猛進な性格を!」
「無理だ。これは母親譲りだからな」
「………はぁ、本当に……護衛する方の身にもなって下さいよ」
二人の喧嘩が始まった。
良正率いる大軍が通り過ぎて行った後、先程までの緊迫した空気も、気がつけばいつもの緩いものへと変わって行た。
だが、そう時間を空かずして、再びの危機が千紗達を襲う。
去りゆく良正群の馬の足音に紛れて、再び馬の足音が近づいて来ていたのだ。
良正達が去って行った方角とは反対方向、つまりは先程と同じ方角からまたも無数の馬の足音が――
「また馬の足音が近づいて来ます。皆隠れて」
一人警戒を促す秋成。
だが二回目ともなると警戒心が薄まるのか、秋成以外の者達は、またかと呆れ顔を浮かべて、隠れる素振りを見せようとはしない。
「タラタラしない! さっさと隠れろ!」
言う事を聞かない者達に、仕方なく秋成は強引に皆を茂みへと押し込めた。
だが一人、秋成の腕の中からすり抜けた千紗は、秋成の呼びかけに耳も貸さずにひょっこり茂みから顔を覗かせる。
覗かせながら好奇心浮かぶ顔で音の方へと視線を向けた。
その瞬間、一瞬目を見開いた千紗はそのまま表情を凍らせて動きを止めた。
「姫様?」
千紗の異変に気付いた秋成もまた、急いで千紗の視線が捉える先を目で追う。
そして千紗同様、秋成までもが驚きに目を見開き息を呑んだ。
「…………兄……上……?」
やっとの思いでそう小さく呟いた秋成。
秋成の呟きに、千紗の表情が驚きから喜びへと変わって行く。
こちらに向かって走り来る人物、あれはやはり小次郎なのだと疑念が核心に変わったから。
ずっと会いたいと願い続けてきた人物が、突然目の前に現れた事で、喜びが抑えられなくなった千紗は、感情のままに思わず茂みを飛び出していた。
「小次郎っ!!」と大きな声で叫びながら――
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