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第一幕 板東編
迷子?
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京を旅立った9月の末日から、早いもので一ヶ月の月日が過ぎようとしていた、そんなある日の夕方――
千紗達一行は、今なお馬に揺られ坂東の地を目指している。
「秋成、坂東はまだか?」
「姫様、貞盛殿の話では既に我々は坂東地に足を踏み入れてはいるそうですよ」
「それは前に聞いた。小次郎が納める地はまだかと問うておる」
「何度も申しているかと存じますが、貞盛殿の話では、この山を越えれば着くはずだと。そしてあと2、3日もあれば到着するはずだと」
「その台詞ももう聞き飽きた!一週間前もあと2、3日もすれば着くと申したな。だから3日後に尋ねてみれば、また返ってきた答えは2、3日もすれば。だから3日経った今日こそはと期待していたのに……未だこの山を抜ける事すらできてはおらぬではないか。もう日が暮れ始めた。今日が終わるぞ。一体あと何日待てば小次郎の元に辿り着けるのだ?!」
「………そう言われましても、俺自身坂東を訪れるのは初めてなのですから分かるはずもありません。俺は貞盛殿から聞いた話を忠実に伝えているだけですよ」
「………あぁ~もう分かった! 直接本人に聞く! 貞盛!! 貞盛~!!」
同じ馬に乗っていた秋成からは、納得の行く答えが引き出せそうにないと、苛立ちを覚え始めた千紗。
仕方なく千紗は先頭を歩く貞盛に向けて大声で叫んだ。
「はい、何でございましょう、千紗姫様?」
「貞盛、一体いつになったら小次郎の元へ辿り着けるのだ?! 嘘偽りのない誠の事を申せ!」
「それは~……」
「それは、何じゃ。何故言葉に詰まる」
「それは、私にも分かりません」
「何故じゃ。道案内役のお主が何故分からぬ」
「それは、私自身今どの辺りを歩いているのか分かっていないからでございます」
「「…………は?」」
千紗と秋成の言葉が重なる。
貞盛と共に馬に乗っていた朱雀帝も、ギョッとした顔で彼を見上げていた。
皆の驚きも何処吹く風。貞盛はあっけらかんとこう続ける。
「いや~坂東の地に戻って参りますのも数年ぶり。小次郎の実家を訪れるのは更に久方ぶりの……十数年ぶりになりましょうか」
「それが、どうしたと言うのじゃ」
「実際に来てみれば思い出せるかと思っておりましたが、いや~考えが甘かった」
「???」
「どうやら私達は今、迷子になってしまっているみたいです」
「「「「「…………はぁ~っ??!」」」」」
まさかの貞盛の発言に、千紗だけでなくその場にいた全員が、大きな驚きの声をあげた。
「お、お主……何をそんなに落ち着き払っておる。迷子になっているなどと、そのような一大事、何故早う言わなんだ?」
「いや~、歩いていればいつかは見知った場所に出られるだろうと思っていたので、わざわざお伝えする程の大事とは思わず」
「どう考えても一大事だろ! こんな山の中で迷子になるなどと!!」
「私達はこのまま山の中をさ迷い続けて死ぬのですか、千紗姫様?………嫌だ!私はまだ死にたくない。こんな所で死にたくなどない!!」
不安から朱雀帝がワンワン泣き出した。
「縁起でもない事言わないで下さいよ」
「姫様、俺達いったいどうなるんだ?」
朱雀帝の不安が、次第に春太郎や清太達にまで伝染して行く。
「ええい、うっとうしい、泣くなチビ助。清太も春太郎も、いちいち弱気になるな!」
弱気な三人に千紗が怒鳴った。
「そうですよ帝、泣かずとも大丈夫です」
千紗の言葉に深く相槌を打ちながら、同じ馬に乗る朱雀帝の肩を叩き励まして見せる貞盛。
「貞盛、こうなった原因であるお主はもっと慌てろ! 反省しろ!!」
「おや、怒られてしまいましたか」
千紗に怒られても「ははは」と声を上げてただ笑っているばかり。全く反省した様子はない。
そんな貞盛の態度に千紗はただただ大きな溜息を漏らしながら呆れていた。
千紗達一行は、今なお馬に揺られ坂東の地を目指している。
「秋成、坂東はまだか?」
「姫様、貞盛殿の話では既に我々は坂東地に足を踏み入れてはいるそうですよ」
「それは前に聞いた。小次郎が納める地はまだかと問うておる」
「何度も申しているかと存じますが、貞盛殿の話では、この山を越えれば着くはずだと。そしてあと2、3日もあれば到着するはずだと」
「その台詞ももう聞き飽きた!一週間前もあと2、3日もすれば着くと申したな。だから3日後に尋ねてみれば、また返ってきた答えは2、3日もすれば。だから3日経った今日こそはと期待していたのに……未だこの山を抜ける事すらできてはおらぬではないか。もう日が暮れ始めた。今日が終わるぞ。一体あと何日待てば小次郎の元に辿り着けるのだ?!」
「………そう言われましても、俺自身坂東を訪れるのは初めてなのですから分かるはずもありません。俺は貞盛殿から聞いた話を忠実に伝えているだけですよ」
「………あぁ~もう分かった! 直接本人に聞く! 貞盛!! 貞盛~!!」
同じ馬に乗っていた秋成からは、納得の行く答えが引き出せそうにないと、苛立ちを覚え始めた千紗。
仕方なく千紗は先頭を歩く貞盛に向けて大声で叫んだ。
「はい、何でございましょう、千紗姫様?」
「貞盛、一体いつになったら小次郎の元へ辿り着けるのだ?! 嘘偽りのない誠の事を申せ!」
「それは~……」
「それは、何じゃ。何故言葉に詰まる」
「それは、私にも分かりません」
「何故じゃ。道案内役のお主が何故分からぬ」
「それは、私自身今どの辺りを歩いているのか分かっていないからでございます」
「「…………は?」」
千紗と秋成の言葉が重なる。
貞盛と共に馬に乗っていた朱雀帝も、ギョッとした顔で彼を見上げていた。
皆の驚きも何処吹く風。貞盛はあっけらかんとこう続ける。
「いや~坂東の地に戻って参りますのも数年ぶり。小次郎の実家を訪れるのは更に久方ぶりの……十数年ぶりになりましょうか」
「それが、どうしたと言うのじゃ」
「実際に来てみれば思い出せるかと思っておりましたが、いや~考えが甘かった」
「???」
「どうやら私達は今、迷子になってしまっているみたいです」
「「「「「…………はぁ~っ??!」」」」」
まさかの貞盛の発言に、千紗だけでなくその場にいた全員が、大きな驚きの声をあげた。
「お、お主……何をそんなに落ち着き払っておる。迷子になっているなどと、そのような一大事、何故早う言わなんだ?」
「いや~、歩いていればいつかは見知った場所に出られるだろうと思っていたので、わざわざお伝えする程の大事とは思わず」
「どう考えても一大事だろ! こんな山の中で迷子になるなどと!!」
「私達はこのまま山の中をさ迷い続けて死ぬのですか、千紗姫様?………嫌だ!私はまだ死にたくない。こんな所で死にたくなどない!!」
不安から朱雀帝がワンワン泣き出した。
「縁起でもない事言わないで下さいよ」
「姫様、俺達いったいどうなるんだ?」
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「ええい、うっとうしい、泣くなチビ助。清太も春太郎も、いちいち弱気になるな!」
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「そうですよ帝、泣かずとも大丈夫です」
千紗の言葉に深く相槌を打ちながら、同じ馬に乗る朱雀帝の肩を叩き励まして見せる貞盛。
「貞盛、こうなった原因であるお主はもっと慌てろ! 反省しろ!!」
「おや、怒られてしまいましたか」
千紗に怒られても「ははは」と声を上げてただ笑っているばかり。全く反省した様子はない。
そんな貞盛の態度に千紗はただただ大きな溜息を漏らしながら呆れていた。
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