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第一幕 板東編
約束の証
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「ん……」
――朝、目を覚ました千紗。
隣には気持ち良さそうに眠るヒナの姿が。
いつの間にか社に戻って来ていたらしい事を理解する。
起き上がって辺りを見渡せば、清太や春太郎、朱雀帝、貞盛の姿があった。
だが、千紗を社まで運んだであろう、張本人の姿がない。
「………秋成?」
千紗は秋成を探す為、社を抜け出した。
「秋成?」
日が昇り始めたばかりの境内には白い霧がかかる。
自分の姿さえも隠してしまいそうな程、一面に広がる深い霧の世界は、千紗の目に少し不気味に映った。
それでも秋成の姿が見えない事の方がよっぽど不安でならなかった千紗は、彼の姿を探して一人彷徨い歩く。
「……秋……成?秋成?」
か細い声で何度も秋成の名を呼ぶ千紗。
だが、なかなか秋成の姿を見つける事はできない。
秋成が自分を置いて遠くへ行ってしまうのではないか、そんな不安を覚えながら、千紗は何度となく繰り返し秋成の名を呼んだ。
すると、少し離れた場所から千紗を呼ぶ声が上がる。
「姫様? もう起きられたのですか?」
「秋成? 何処じゃ? 何処にいる? 私を一人にするなと、昨日あれ程……」
「こちらですよ姫様。大丈夫です、俺はここにいます」
声を頼りに彼の姿を探すと、昨日語らった巨木の前で、空を見上げ佇む一つの影を見つけた。
「秋成、お主……そんな所で何をしておるのじゃ?」
「姫様。これを、姫様にと思いまして」
そう言って、秋成は一枚の葉っぱを千紗に手渡した。
どうやら見上げていたものは空ではなく、目の前の巨木だった様子。
「………これは?」
「椰の葉ですよ」
「ナギの……葉?」
「はい、どうやらこの木は、この社のご神木のようで、此度の旅の無事を願って一枚お守りに分けてもらうかと」
「……お守り?」
「はい。梛の葉は昔から゛苦難をなぎ倒してくれる゛と、そう信じられていてるのです」
「………そうなのか?」
「はい。きっとこの葉が姫様の厄を、不安を、なぎ倒してくれる事でしょう」
「………」
「それから、この葉をよく見てみてください。葉の脈が横ではなく縦についているでしょ。この葉を引き千切ろうとすると」
「……千切れない」
「そうなんです。どんなに力を入れようとも、決してひきさく事は敵わない。これを、姫様と交わした約束の証に千紗姫様に持っていてほしいのです」
「約束の……証……」
「はい。俺の、姫様への忠義を断ち切る事は、何者にも敵わない。何があろうと、俺は姫様のお傍を離れはしません。その梛の葉のように、俺が姫様の身に降りかかる厄をなぎはらってみせます。と言う誓いの証に」
「……秋成」
秋成が示した熱い忠義心に感動を覚えた千紗。
千紗の表情から不安が消えて行くのを感じてニッコリと微笑んむ秋成。
「信じて下さい。何があっても俺だけは、貴方の傍を離れたりしません。従者として、死ぬまで貴方の傍に寄り添い続てみせますよ」
秋成の力強い言葉に、千紗は秋成から貰った梛の葉を、それはそれは大事そうに胸に抱いた。
「あぁ、信じよう。お主の言葉、お主の忠義の心を信じよう。約束ぞ秋成、お主は……お主だけは何があっても千紗の傍におってくれ。約束ぞ――」
◆◆◆
「あ~千紗姫様?! 何故またそんな奴の馬に?」
日も大分高い位置で輝き始めた頃、朝食を終え一夜を明かした社を後に、旅立つ準備を進めていた千紗達一行。
朱雀帝のキャンキャンと甲高い声が境内に響いていた。
「すまぬなチビ助。せっかくお主が開けてくれた場所だったが、やはり私は秋成の元が一番落ち着くようだ。貞盛はお主に返すぞ」
「そんな……せっかく千紗姫様からその下賎の者を引き離す絶好の機会と思っていたのに……」
千紗と共に馬に乗る秋成を、羨ましそうにキツく睨みつける朱雀帝。
だが、朱雀帝の視線など、秋成には全く気にした様子はない。
「では秋成、今日も坂東へ向けて、出発じゃ!」
「はい姫様、仰せのままに」
朱雀帝の恨めそうな視線を最後まで無視して、秋成は馬を走らせ始めた。
「えぇい、覚えておれ! いつか絶対、千紗姫様をお前から引き離してみせるからな!!」
「ん? チビ助は何を叫んでおるのじゃ?」
「さぁ?」
「子供は朝から元気じゃなの」
「………」
「秋成、坂東へは、あとどのくらいで着くのかの?」
「……さぁ?」
「坂東とは、思っていた以上に遠いのだな」
「そうですね。兄上に会えるのが、待ち遠しいですか?」
「そう……だな。待ち遠しくもある。が……少し……緊張もするな」
「………姫様」
「すまぬ戯れ事だ。忘れろ」
「…………御意」
秋成と共に手綱を握る千紗の手が微かに震えていた。
その手には、今朝の梛の葉が握られている。
そんな千紗の震える手を、秋成が握りしめる。
自分の手をすっぽりと覆い隠す秋成の大きな手と、背中に感じる秋成の温もり。思い返せば秋成は、いつも千紗の我が儘に付き合ってくれていた。
誰よりも自分を理解してくれていた。
いつも側に寄り添い体を張って守っていてくれていた。
秋成と言う存在に、千紗は素直に彼に寄り掛かる。
そっと自分に体を預けてくる千紗の重みを感じながら、秋成は馬の走る速度を少し速めた。
小次郎が待つ坂東を目指して。
――朝、目を覚ました千紗。
隣には気持ち良さそうに眠るヒナの姿が。
いつの間にか社に戻って来ていたらしい事を理解する。
起き上がって辺りを見渡せば、清太や春太郎、朱雀帝、貞盛の姿があった。
だが、千紗を社まで運んだであろう、張本人の姿がない。
「………秋成?」
千紗は秋成を探す為、社を抜け出した。
「秋成?」
日が昇り始めたばかりの境内には白い霧がかかる。
自分の姿さえも隠してしまいそうな程、一面に広がる深い霧の世界は、千紗の目に少し不気味に映った。
それでも秋成の姿が見えない事の方がよっぽど不安でならなかった千紗は、彼の姿を探して一人彷徨い歩く。
「……秋……成?秋成?」
か細い声で何度も秋成の名を呼ぶ千紗。
だが、なかなか秋成の姿を見つける事はできない。
秋成が自分を置いて遠くへ行ってしまうのではないか、そんな不安を覚えながら、千紗は何度となく繰り返し秋成の名を呼んだ。
すると、少し離れた場所から千紗を呼ぶ声が上がる。
「姫様? もう起きられたのですか?」
「秋成? 何処じゃ? 何処にいる? 私を一人にするなと、昨日あれ程……」
「こちらですよ姫様。大丈夫です、俺はここにいます」
声を頼りに彼の姿を探すと、昨日語らった巨木の前で、空を見上げ佇む一つの影を見つけた。
「秋成、お主……そんな所で何をしておるのじゃ?」
「姫様。これを、姫様にと思いまして」
そう言って、秋成は一枚の葉っぱを千紗に手渡した。
どうやら見上げていたものは空ではなく、目の前の巨木だった様子。
「………これは?」
「椰の葉ですよ」
「ナギの……葉?」
「はい、どうやらこの木は、この社のご神木のようで、此度の旅の無事を願って一枚お守りに分けてもらうかと」
「……お守り?」
「はい。梛の葉は昔から゛苦難をなぎ倒してくれる゛と、そう信じられていてるのです」
「………そうなのか?」
「はい。きっとこの葉が姫様の厄を、不安を、なぎ倒してくれる事でしょう」
「………」
「それから、この葉をよく見てみてください。葉の脈が横ではなく縦についているでしょ。この葉を引き千切ろうとすると」
「……千切れない」
「そうなんです。どんなに力を入れようとも、決してひきさく事は敵わない。これを、姫様と交わした約束の証に千紗姫様に持っていてほしいのです」
「約束の……証……」
「はい。俺の、姫様への忠義を断ち切る事は、何者にも敵わない。何があろうと、俺は姫様のお傍を離れはしません。その梛の葉のように、俺が姫様の身に降りかかる厄をなぎはらってみせます。と言う誓いの証に」
「……秋成」
秋成が示した熱い忠義心に感動を覚えた千紗。
千紗の表情から不安が消えて行くのを感じてニッコリと微笑んむ秋成。
「信じて下さい。何があっても俺だけは、貴方の傍を離れたりしません。従者として、死ぬまで貴方の傍に寄り添い続てみせますよ」
秋成の力強い言葉に、千紗は秋成から貰った梛の葉を、それはそれは大事そうに胸に抱いた。
「あぁ、信じよう。お主の言葉、お主の忠義の心を信じよう。約束ぞ秋成、お主は……お主だけは何があっても千紗の傍におってくれ。約束ぞ――」
◆◆◆
「あ~千紗姫様?! 何故またそんな奴の馬に?」
日も大分高い位置で輝き始めた頃、朝食を終え一夜を明かした社を後に、旅立つ準備を進めていた千紗達一行。
朱雀帝のキャンキャンと甲高い声が境内に響いていた。
「すまぬなチビ助。せっかくお主が開けてくれた場所だったが、やはり私は秋成の元が一番落ち着くようだ。貞盛はお主に返すぞ」
「そんな……せっかく千紗姫様からその下賎の者を引き離す絶好の機会と思っていたのに……」
千紗と共に馬に乗る秋成を、羨ましそうにキツく睨みつける朱雀帝。
だが、朱雀帝の視線など、秋成には全く気にした様子はない。
「では秋成、今日も坂東へ向けて、出発じゃ!」
「はい姫様、仰せのままに」
朱雀帝の恨めそうな視線を最後まで無視して、秋成は馬を走らせ始めた。
「えぇい、覚えておれ! いつか絶対、千紗姫様をお前から引き離してみせるからな!!」
「ん? チビ助は何を叫んでおるのじゃ?」
「さぁ?」
「子供は朝から元気じゃなの」
「………」
「秋成、坂東へは、あとどのくらいで着くのかの?」
「……さぁ?」
「坂東とは、思っていた以上に遠いのだな」
「そうですね。兄上に会えるのが、待ち遠しいですか?」
「そう……だな。待ち遠しくもある。が……少し……緊張もするな」
「………姫様」
「すまぬ戯れ事だ。忘れろ」
「…………御意」
秋成と共に手綱を握る千紗の手が微かに震えていた。
その手には、今朝の梛の葉が握られている。
そんな千紗の震える手を、秋成が握りしめる。
自分の手をすっぽりと覆い隠す秋成の大きな手と、背中に感じる秋成の温もり。思い返せば秋成は、いつも千紗の我が儘に付き合ってくれていた。
誰よりも自分を理解してくれていた。
いつも側に寄り添い体を張って守っていてくれていた。
秋成と言う存在に、千紗は素直に彼に寄り掛かる。
そっと自分に体を預けてくる千紗の重みを感じながら、秋成は馬の走る速度を少し速めた。
小次郎が待つ坂東を目指して。
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